階段の怪談  (8枚)

電車を降りて、駅の改札を出てから、あかねの家までは歩いて15分ほどだ。
歩き始めたときはいつも同じ方向に帰る同級生や、OL、サラリーマンたちがたくさんいるのだが、まもなく急に人通りが少なくなる。
それは、駅とあかねの家までの道のりの、中間ぐらいに公団住宅が何棟も建っていて、ほとんどの人々がそこに吸い込まれてしまうからだった。

あかねはいつも急に心細くなる。
家に帰りつくまでたった一人だったこともめずらしくないのだ。
自然と足早に歩いてしまう。
あかねの家があるのは新興住宅街で、まだまばらにしか家は建っていない。
その先は広い空き地が広がっているだけ。
さらにその向こうは。
「ジャングルじゃん!」
と、初めてここに来たときは、思わずそう言ってしまったほどだった。
「あーあ、何でこんな寂しいところに家を建てたのかしら?」と、いつもの愚痴が出てしまう。
「高校を転校してまで引っ越してくる値打ちはなかったよねーわたしにとっては」

いつものコンクリートの階段が見えてきた。
建売の家と家の間にあるその階段を上がってしまえば、まもなくあかねの家だ。
上からは、その緑色の屋根が見えるはずだった。

この階段は13段ある。
あかねは最初にそれに気がついたときは少々いやな感じをもった。
不吉な数字。
どういう事で縁起が悪いといわれているのかまでは知らなかったが。

右足から上り始めて、いち、にい、さん、と心の中で数えながら上る。
じゅういち、じゅうに、じゅうさん!で右足が一番上の段にある。
いつもは。

そう、いつも右足から上り始めて、右足で終わるはずだった。
階段の段数は奇数の13段。
右足で終わらなければおかしい。
それが今日は左足で終わっていたのだ。
あかねの背中に冷たいものが走った。
10分以上速足で歩いて、けっこう体は暖かくなっていたのだが、一度に寒気を感じていた。
夕暮れ時。
暗くなりかけているこんな時間にあかねは階段の一番上で立ち尽くす。
なんだかこわい。
でも、数え間違っただけだと思いたかった。
それを確かめたくてしょうがなかった。
あかねは階段を2段づつ飛ばして下りた。
そしてもういちど上り始めた。
最初は右足から上り始める。「いち」
つぎは左足だよ。「にい」
今度は右足だね。「さん」
絶対間違えないように、慎重に十三を数えたとき、あかねの左足が階段の一番上にあった。
左足だ。
ありえない左足だった。

あかねは、駆けださないよう努力しながらことさらゆっくり家を目指した。
走り出したらパニックにおちいりそうだったのだ。
あかねは今まで何度この階段を上っただろう。
毎日必ず通る階段だった。
必ず右足から上り始めて、右足で13段目を勢いよく踏んできたはずだった。
それがなぜ?13段目が左足で終わるんだろう。
「ただいま‥」
「おかえりなさーい」と母。
彼女は料理をしている手元を見たままだったので、あかねが少し青ざめていたことには気がつかなかった。
あかねは家の二階への階段を上った。
なるべく数を数えないようにしながら。


「遠藤あかね!」
大きな先生の声でわれに返った。
まわりのクラスメイトたちがくすくす笑っている。
もう何度も名前を呼ばれていたらしい。
数学のテストを返してもらっているところだった。
あわてて教壇までまで取りに行くと、先生の顔がいやに険しかった。
「おまえ、わざと間違ってるのか?」
「え?何でですか?」そう言いながらテスト用紙を見た。
数学が得意なあかねにしては考えられない低い点数だった。
改めて自分の回答を見直したが、どこも間違ってるとは思えなかった。

「おまえなー、答えが整数の問題は、全部間違ってるぞ。
 それも、どの答えも正解の数より必ず「1」だけ少ないのはどういうわけだ?
 正解が解ってなきゃこんな奇妙な間違い方は出来んぞ!」

あかねは階段の一番上を踏んだばかりの左足を思い浮かべていた。

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はい、ツイッター小説の発展形ではないショートストーリーです。


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by marinegumi | 2010-10-01 00:41 | 掌編小説(新作) | Comments(0)