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自動販売機  (8枚)

アトマシン・シリーズ 1

はるかな外宇宙からやってきた「それ」は密度の高い気体の状態のままで空中を彷徨っていた。
「それ」は自分を生み出した「マスター」と共に、この星へやってきたのだが、彼らはもう遠くへ行ってしまったのを感じていた。
「マスター」の役に立つために作られた「それ」には感情はなかった。
だから、ささやかな手違いのために、置き去りにされた事を特に嘆いてはいなかったのだ。
「それ」の基本的な機能として新しい自分の「マスター」が見つかるまで、待機している状態だった。
自分を本当に必要としてくれる知的生命体が見つかるまで。

男はもう7日ほど砂漠を彷徨っていた。
友人達とのつまらない賭けのために、手作りの小型飛行機で砂漠を横断する羽目になった。
いろんな悪い状況を想像していたが、その最悪のパターン通りにエンジンが火を噴いて墜落した時は、まだ楽観的だった。
まさかの時のために、水や食料は歩いて砂漠を横断するには十分に用意してあったし、防寒着やテント、さらに高性能GPSや無線機なども積み込んであったからだ。
ところが、思ったよりも墜落の衝撃が激しくて、殆んどの機器は使い物にならないまでに壊れていた。
機器を点検しているうちに機体が火を噴き、水も食料もわずかに取り出せただけで、あとは焼けてしまった。

もう歩かないことに決めた。
あの悪友たちが自分を見捨てるわけがない、きっと助けに来てくれると信じていた。

だが、わずかの水はすぐに底をつき、男は何日も、ひどいのどの渇きに悩まされ続けた。
昨日まで、ほんの少しでも渇きを潤してくれていた唾液さえ出なくなってしまった。
毎日男はのどを潤してくれる、よく冷えた水や、コーラやコーヒーの事を考え続けた。
そう、あの冷たい飲み物がいっぱい詰まった魔法の箱、自動販売機の事を。

10日が過ぎたころ。
「それ」は瀕死の男の前に現れた。
いや、まだはっきりとした形はとらず、男の目には砂漠の蜃気楼のように見えているだけだった。
「それ」は男の脳波を分析し、何を望んでいるのかを探っていたのだ。
しかし、異星の知的生命体によって作られた「それ」がこの星の住人の求めているものを理解するには少し時間が必要だった。
「ジダウハンボウキ」と言う物がどう言う物なのかを分析するために「それ」は能力をフルに使った。
「ジドウハンバウキ?」
いや「自動販売機」だ。
その「自動販売機」という物の詳細な情報を薄れていく男の意識から割り出すのは大変な作業だったがなんとか「それ」はやり遂げた。

「それ」は男の目の前で、初めて形あるものに変化し始めていた。
白っぽい霧の集まりが赤くなって行き、四角く固まり始め、やがて真新しい自動販売機が砂漠の真ん中に姿を現した。

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今にも閉じようとしていた、男の目に映った物。
それを確認すると、彼は大きく目を見開いた。
あれほど求めていた物がそこにあったのだ。
しかも何度も朦朧とした頭で見た幻ではなく、その自動販売機は、ずっしりとした存在感で、そこにそびえ立っていた。

最後に残っていた力を振り絞って、男は立ち上がった。
ミネラルウォーター、深層水、グリーンティー、コーラ、ノンカロリーコーラ、ブラックコーヒー、カフェオレ、深入炒りカフェ、ストレートティー、レモンティー、レモン水、メロンソーダ。
どれでもお好み次第だ。
男はポケットに手を突っ込んだ。
「ない!小銭がないぞ!」
男はポケットというポケットを探りまわった。
そもそも、このチャレンジにはお金を全く持って来なかったのを思い出した。
一番欲しいものが目の前にあるのにそれを手にできない。
男は自動販売機を蹴りつけた。
壊してでも飲み物を手に入れようと思ったのだ。
しかし、体力を極端に消耗した男にはそんな力は残っていなかった。
「石‥」
男は石を探そうとあたりを見回したが、壊すための道具になりそうな石はなかった。

男はついに力尽き、その場に崩れ落ちた。
「それ」は最後に男が求めていた「小銭」という物の概念を理解するのに時間を取られてしまった。
「それ」を創造した主人の星では貨幣は存在しなかったのだ。

バラバラッと大量の小銭が倒れた男の上に降り注いだ。
やっと「それ」は、自分の一部を男の望んでいた「小銭」に変えたのだった。

その知的生命体が発する脳波が完全に途絶えるまで、「それ」は、自動販売機の形態を維持していたが、やがて次第に色を失い、透明になり、形が崩れて行った。
そして、蒸発するように空へと舞い上がると、風に乗って移動を始めた。
またどこかで知的生命体と出会い、彼らの望む時、その望む物に変身するために。

「それ」はそういうふうに、異星の主人によって作られていたのだった。




                      おわり




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11本目のツイッター小説の発展形です。

ツイッター版「自動販売機」
(1)砂漠の真ん中で遭難し、水もなくなり瀕死状態の男の前にそれは現れた。遥か外宇宙からやってきたそれは知的生命体の望む物、何にでも姿を変えられるように作られていて、瀕死の男の望んでいる物を彼の脳波から読み取ろうとしていたのだ。ジダウハンバイキャ?いや、ジドウハンバイキ?
(2)自動販売機と言うものの詳細をそれは男の薄れゆく意識から導き出し、自らが自動販売機に姿を変えた。目の前に今、最も望んでいる物が現れた男は、力を振り絞って立ち上がった。良く冷えた飲み物がそこにあった。ポケットに手を突っ込んだが、小銭がなかった。男はそのまま崩れ落ちた。


この作品も、書いてすぐ出しなので、細かい校正、修正はおいおいにやって行きます。
2度、3度見に来られる方は、前とちょっと違うな―ということがあるかもしれません。

なお、砂漠の自動販売機の写真は、2枚の写真をフォトショップで合成したものです。
まずこの写真を作ってから、小説を書き始めたんですよね。
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by marinegumi | 2010-10-11 22:41 | 掌編小説(新作) | Comments(0)