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電話の音  (3枚)

わたしの家のニ階のわたしの部屋から、彼の家の屋根だけが見える。
窓越しに、ずうーっと遠くに。
毎日わたしは、その彼の家の屋根をたくさんの家並から探す。
毎日探さないと、どれが彼の家かわからないほど、遠く、小さく、それは見えているんだ。

ある雨の休日。
その日は彼の家には誰もいないのが解っていた。
昨日、学校で彼が友達と話していたのを聞いたから。
家族で日帰り旅行に出かけるという事を、聞くとはなしに耳にしただけだけど。

彼の家の電話はコードレスホンで、子機が2台。
そのうち1台が彼の部屋にある。
なんて、想像してるだけ。

わたしは受話器を持ち上げて、遠く小さく見える彼の家の屋根を見ながら彼の家の番号をダイヤルした。
どうしてもかけられなかった番号。
呼び出し音が鳴る。
受話器から聞こえてくる小さな呼び出し音。

わたしは、まだ一度も入ったことのない彼の部屋を想像する。
わたしのかけている電話が彼の部屋の電話の子機を鳴らしているところを。
その音が彼の部屋の空気を震わせているところを。
彼が飼っているトイプードルを驚かせ、わずかに窓ガラスが共振しているところを。
電話の音が彼の部屋いっぱいに溢れているところを。

それだけのことだ。
それだけで彼の生活に、ほんのわずかでもかかわれたような気分になった。
たったそれだけで納得をして受話器を元に戻した。

静まり返る彼の部屋を想像する。
まるでわたしの部屋の空気が、彼の部屋とつながっているような気がした。



おわり





ツイッター小説の1本目を元にして書きました。

留守のはずの彼の家へ電話をかけた。呼び出し音が鳴る。まだ見たこともない彼の部屋の空気を震わせて、飼っている子犬を驚かせてベルが鳴っているのを想像していた。たったそれだけで彼の生活に少しでもかかわれたような気になって、ちょっぴり満足をして、電話をそのままゆっくりと元に戻したある日。


まあ、なんというか、ちょっとストーカーの素質がある女の子のお話ってところかな。

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by marinegumi | 2010-10-14 23:17 | 掌編小説(新作) | Comments(0)