クリスマス作戦  (6枚)

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今日は、クリスマスイブ。
葉っぱがすっかり落ちてしまったプラタナスの並木のある石畳の歩道。それに面した洒落たカフェで二人は向き合っていた。優紀はカプチーノ、隆司はちよっとカッコつけてブラックコーヒーを前にしている。
さっきから隆司が話しているのは子供へのクリスマスプレゼントの事のようだった。
「子供もまだ3歳ぐらいだとサンタクロースを信じてるだろ?だけど大きくなって来て、多分幼稚園ぐらいになると、もうサンタクロースの事なんか、信じなくなってしまうよな?」
「そうだよね。友達同士でサンタさんの話をするからね」と優紀は少し曇ったガラス窓から外のイルミネーションを見たまま答える。このカフェに入った時はまだ空には明るさが残っていたが、今はもうすっかり暗くなっていた。
「でさ、ぼくはね、自分の子供だけはいつまでもサンタを信じる子供にしたいんだよな」
「そんなの無理でしょ?」
「いやいや、そりゃーいつかは信じなくなるんだろうけどさ。その時期をなるべく先延ばしにしてやりたいわけさ」と、隆司は無意識にスプーンでコーヒーをかき回す。ブラックコーヒーなので無意味な行動だと気がついてスプーンを置く。
「その方法を今から考えてあるんだよ」
「へー、どんなの?」
「子供がそろそろサンタクロースを信じなくなって来たな、と思ったらその年のプレゼントは枕元に置かずに、部屋の窓の外の軒下にぶら下げておくんだ」
「なにそれ?」
「子供が目を覚ますと、枕元にプレゼントがない。がっかりするだろ?」
「そりゃそうよ」
「その時僕が言うんだ。『しまったー!窓のかぎを開けておくの忘れてた!サンタさんは家に入ってこれなかったんだ』ってね。優司はがっかりするよね」
優紀は少し怪訝な顔をした。
「優司が泣きそうになった時にカーテンを開ける。するとそこにはプレゼントが袋に入ってぶら下がっているんだ。『そうか!サンタさんは入れなかったのであそこにぶら下げて行ってくれたんだ!』子供は喜ぶ。サンタさんを信じるよね」
「まあね。ちょっと面白いね」と優紀はまた窓の外へ目をやる。
「しかしだ!」
隆司がそう大きな声を出すと、優紀は大きな目で隆司を見た。
「それでもいつかまた信じなくなる時がやってくるんだよなー」
「そだね」
「そんな時は次の手だ」
「まだ考えてあんの?」
「今度はちゃんとプレゼントは枕元に置いとくんだ。そして、夜中の3時頃に子供を起こすんだよね、大声で。『おい起きろ!大変だ。今サンタクロースが来てたぞ。ここにサンタが来てた!』子供は寝ぼけまなこで、何が何やらわからないよね。優司がはっきり目を覚ますのを待つんだ。そして言う。『今、お父さんがおしっこに行ってた間にサンタさんが入って来てたんだよ。このプレゼントを置いて行ったんだ。』優司を起こす前に開けておいた窓を指差して、『お父さんが大きな声を出したからあわててこの窓から飛び出したんだよ』優司は聞くよね。『ほんとに?』『ほんとだよ!』と言いながら窓から外を見るんだ。子供と一緒にね。すると、窓枠に出ていたクギに赤い布の切れ端が引っかかっているんだ」
「それも前もって仕込んでおくわけね」
「そういうこと。その布を手に取って。『これって何だ?』と優司の目の前に差し出す。『サンタさんの服の切れ端かな?』と言ってくれればしめたものだね。『そうだ。きっとそうだよ。サンタさんめちゃくちゃあわてて出て行ったから、服をひっかけちゃったんだね』子供はその布切れを宝物にする。それからまたしばらくはサンタさんを信じるというわけ」隆司はコーヒーを飲みほして、ちょっと苦そうな顔をする。
優紀はカプチーノを長い間かき回しながらしばらく無言だった。
そして、スプーンを止めて。
「なんで子供の名前が優司なの?」
隆司は視線を窓の外へ向ける。
「これってさー、回りくどいプロポ-ズなわけ?」
隆司の顔はみるみる赤くなる。
「この正直者~!」と優紀は隆司のおでこを人差指で突っつく。
「子供がサンタさんを信じなくなる頃には、弟か妹が出来てるわね」と優紀。
「え?」
「子供が二人で、片方がもうサンタさんを信じなくなっている場合の作戦を考えよ。その出来次第でプロポーズを受けるかどうか判断します」と優紀は満面の笑みを浮かべた。

窓の外、真っ暗な空の上からは何やら白い物が落ち始めたようだった。



              おわり



クリスマスシーズンなので、たまにはほのぼのした物もいいかなと思って書きました。
スキンも期間限定クリスマスバージョンです(笑)。

こちらの企画に参加させていただいています→「2010年クリスマス競作ブログ」


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Commented by 矢菱虎犇 at 2010-12-24 23:54 x
海野久実さん初めまして。クリスマス競作企画参加ありがとうございます。
恋人どうしでこんな甘い甘い話をしている頃って、人生のなかでもいちばん幸せな時期かもしれませんね。
楽しい話なのに、なんかなつかしいみたいなそんな気持ちになりました。
りんさんやたくさんの方々のおかげでとってもすてきなクリスマス競作ができたことを心より感謝いたします。
海野さん、すてきなクリスマスをお過ごしください。
Commented by りんさん at 2010-12-25 00:58 x
メリークリスマス!
競作に参加されたんですね。嬉しいです。
まだ生まれてもいない子供のことを考えるなんて、幸せなふたりですね。
最後の優紀ちゃんの質問に彼は何て答えたのかな。
続きを考えると楽しいです。
クリスマスには、こういうお話ピッタリですね。
Commented by ヴァッキーノ at 2010-12-25 15:31 x
海野久実さんはじめまして!
矢菱さんのクリスマス競作企画に参加させてもらってますヴァッキーノっていいます。
おりんさんのお話にもコメントさせてもらったりしてます。

恋人同士っていう雰囲気の会話がいいっすねえ。
>優紀は隆司のおでこを人差指で突っつく。
とか、そういう動きがパアっと浮かぶ描写が、若いふたりの今後を予感させます。
結婚する寸前っていいですよね。
なんともふたりだけの世界って感じで。

これからもよろしくお願いします。
そして、メリークリスマス!
ポチッと。
Commented by marinegumi at 2010-12-25 20:36
矢菱虎犇さんいらっしゃいませ。
クリスマス競作って、なんかグループがあってその中で競作の企画をやってらっしゃるのかなと思って、ちょっと敷居が高いかなと思っていたんですね。
よく読んでみると誰が参加してもいいという事で、参加させていただきました。

クリスマステーマの作品ですが、このブログの他の僕の作品を見てもわかるように、りんさんの作品を読んでいないと、ちょっとつらく悲しいクリスマスみたいな作品になったと思います。
あったかほのぼのも結構いいものです。
Commented by marinegumi at 2010-12-25 20:45
りんさんいらっしゃいませ。

ううう‥
今年のクリスマスは、家族も誰もいなくて一人ぼっちです。
こんなの生れてはじめてだ。

優紀と隆司は恋人同士なんだけど、子供が一人いる夫婦だと読者に思わせておくと言う所がみそなんですが、伝わったかな?

話の続きは考えてませんが、子供にサンタを信じさせる作戦は毎年エスカレートするしかないなーと思いますね。
最後にはサンタクロースにしか見えない外人さんを雇って家に来させますか?
お金がかかってしょうがない。
Commented by marinegumi at 2010-12-25 21:01
ヴァッキーノさんいらっしゃいませ。
ヴァッキーノさんの作品は何度か読ませていただいた事がありますよ。
「星新一をやっつけろ!」ええ~!なんて思いましたが(笑)

だけど、こんな幸せそうな二人のお話を書いている僕はというと、23日から25日まで家族が出かけていて一人ぼっちです。
やけくそで、えーいめちゃくちゃ幸せそうな二人の話を書いちゃえ!的な‥
ありがとうございました。

Commented by y_fstw at 2010-12-26 23:56 x
 初めまして、海野久実さん。クリスマス競作のリンクから来ました。
  私は途中まで、てっきり夫婦の会話かとおもっていました。すっかりだまされてしまいました。もっとも、「カッコつけてブラックコーヒー」っていうところで、けっこう若いのかなとは思っていました。
 サンタを信じさせる方法が大掛かりではない、ちょっとしたアイデアなところが面白いなぁと思いました。
Commented by marinegumi at 2010-12-27 01:20
y_fstw さんいらっしゃいませ。
ありがとうございます。
一番工夫したのが、読者にはこの二人が夫婦だと思わせて置いて話を進めるということでした。
その辺がうまく行ってるかどうか心配だったのですが、一応成功と言う事で、安心しました。

さきほど y_fstw さんの作品も読ませていただきましたよ、
Commented by 春待ち りこ at 2010-12-27 17:20 x
はじめまして。
りこと申します。サイトーさんのブログからきました。

このお話。。。ほのぼのとあたたかく
そして、ラブストーリーなんですね。素敵です♪
このところの寒さを吹き飛ばすくらい
ぽっかっぽかになりました。

素敵なお話を書かれますね。
また、お邪魔させてください。<(_ _)>よろしくお願いします。
Commented by marinegumi at 2010-12-28 01:10
りこさんいらっしゃいませ。
春待ちりこさん。
なんだかお名前、記憶にあります。
きっと何度かお邪魔している気がします。
>ほのぼのとあたたかく
ありがとうございます。
この作品以外のは、みんな「ほのぼのとあたたかく」から程遠い作品ばかりですが、よろしくお願いしますね。
この作品はりんさんの影響で、クリスマスだし、思い切りほのぼのを目指しました。

Commented by kuri at 2010-12-29 22:20 x
ほっこりとあたたかい気持ちをいただきました。
ありがとうございます♪
二人は夫婦だと思ってました。すっかり騙されましたよ!

我が家の10才と6才、プレゼントが置いてあった代わりに
自分で枕元に置いたサンタさんへのチョコが減っていて
食べていったんだね!と喜んでいました。
クリスマスの魔法、もうしばらく続くといいなと思っています。
Commented by marinegumi at 2010-12-29 23:15
くりさんいらっしゃいませ。
ちゃんと騙されていただいてありがとうございます。

長い間誰からのコメントもなかったのですが、クリスマス企画に参加させてもらってたくさんの人からいただきました。

10才でサンタさんを信じてるというのは今どき立派なものですよ。
>サンタさんへのチョコが減っていて
>食べていったんだね!と喜んでいました。
小説が書けるう~
最近は毎日ネタ探しです。
by marinegumi | 2010-12-23 22:38 | 掌編小説(新作) | Comments(12)