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街角の落し物 (8枚)

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街なかでよく見る光景がある。
それは道路のそばの電柱だったりガードレールだったり交通標識だったりする。
そんな所に、例えば冬ならマフラーとか、手袋が片方とか、かけてあるのを誰でも見た事があるのではないだろうか。
それはたぶん誰かの落とし物で、たまたま通りがかった人がとりあえず拾ってしまう。
交番へ届けるほどの物でもなく、持ち帰ってゴミとして処分するのもめんどくさい。
だが、それはまだきれいで、このまま放って置いて車に轢かれるままにするのももったいないような気がする。
そして、拾った人が同じ道を落とし主が探しに戻って来る事を想像し、見つけやすいように電柱の金具にかけたりした物なのだ。
「ちゃんと見つけてもらうんだぞ」と呟いたりする人もいたかも知れない。

ある日の事、あなたはとある町の歩道のない道路を歩きながら電柱の金具にかけてある帽子に目が行く。誰かの落とし物だなと思いながら、横目で見て通る。少し見覚えがある気もする。
しかしあなたは歩調を少しも変える事なく通り過ぎてしまう。

あくる日。同じ道を通ってあなたが仕事から帰って来ると、その電柱にはまだ帽子がかけられており、新しく紺色のマフラーが反対側にかかっているのだ。
その時は一瞬あなたは立ち止まってしまう。
そしてすぐに歩き出しながらやはり見覚えある気がするのを不思議に思う。
それから2~3日は変わった事は起こらない。ただ電柱には相変わらず帽子とマフラーが寂しげに引掛けられていて、風に少し揺れたりするのだ。

その落とし物たちが気にならなくなった頃に、あなたはまた新しい落とし物が増えているのを見つける。
今度は靴だった。なぜかちゃんと二つ揃っていて、それはたぶん拾った人がした事だろう左右の靴ひもが結ばれ、それが電柱にかけてある。
今度はあなたは立ち止まり、じっくりと観察する。
見覚えがあるような気がするのは、やはり思い過ごしだと思うし、それが自分の物だとは全く考えられない。
帽子は真っ赤なニット帽でリボンが付いていた。マフラーは紺色で飾り気のない男物。靴は小学生の男の子が履きそうなヒーローの絵のついたスニーカー。持ち主の顔を想像しても、それぞれ品物によって違う。でも何か共通する物をあなたは感じる。その感じがあなたに見覚えがあるような気持ちを抱かせているのかもしれない。

あくる日にも新しい落とし物をあなたは見つける。いや、すでに誰かによって見つけられた落とし物が展示されているのを見つける。
それはバッグだった。ベージュ色のショルダーバッグだ。
多分中には大した物が入っていなかったはずだ。現金でも入っていれば、拾い主は交番へ届けたはずだから。
さりげなくバッグを開き、中を確認するとハンカチらしい物が見えただけだった。
あなたは誰も持ち主の現れないそんな落とし物たちに少し寂しさを感じながら通り過ぎる。

数日が過ぎ、仕事帰りのあなたはまた同じ道のりを歩いている。
今日はいつもと何かが違っていた。
電車をいつもの駅で降りた頃から、その思いは大きくなって行った。
そして、あの落とし物がたくさんぶら下がっている電柱が見えてくる頃にあなたは歩きながら気が遠くなり、そのまま道に倒れてしまう。
いわゆる心不全だった。
「その人」があなたを見つけた時にはあなたはもう死んでいたのだ。そうでなければ「その人」は救急車を呼んだに違いない。
「その人」はあなたが完全に死んでいるのを確かめると、走って来る車に轢かれないようにずるずると引きずり、電柱までやってくる。そして電信柱を眺めて少し考えると、そこにかけてある物をみんな外した。
そしてあなたの服の後ろの襟を電柱の金具に引っ掛ける。あなたは一度電柱の周りを半周ほどぐるんと回って、すぐに落ち着く。
「その人」はそれまでに自分が拾って電柱にかけておいた物を一つ一つあなたに着せ始める。
あなたは帽子をかぶっていなかったので、ちょうど帽子は頭に。
もう暖かかったので、マフラーをしてなかったあなたの首にマフラーが。
バッグも何も持っていなかったあなたの肩に斜めにショルダーバッグが掛けられた。
そして、靴を履いていなかったあなたの足に、ちょっと窮屈なスニーカーが何とか収まった。
「その人」はちょっと不思議に思っている。
なんでこの人は靴を履いてなかったんだろうかと。

あなたは電柱にぶら下がり死んでいる。
あなたは気が付いているのかも知れない。あなたもこの街の落とし物なんだと。誰も探しに来てくれない寂しい落とし物の一つになってしまったと。
それだからあなたは同じ落とし物たちに親しみを感じていたんだと。

落とし物たちを拾って誰かが探しに来てくれる時のために電柱にかけておいてくれる優しい「その人」は、しばらくあなたを見ていたが、やがて歩き出す。
その歩いて行く道の、次の電柱にも少し落とし物がかけられている。そしてそのまた向こうの電柱にも。
でもあなたにはそれがもう見えなかった。




おわり



常になんか、変わったものを書いてみたいと思っています。
変わったというか、奇妙な発想の作品ね。
これはどうでしょうかその辺、成功してるかなあ。

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Commented by haru123fu at 2011-05-15 21:39
どこかで見たことのある電信柱にちょこんと引っかけられている落とし物。
特段変わった風景でもなく、心ある人は目につくようにさりげなくそうする普通の日常なのですが。。。
どこで、いったい私は、どこでこの奇妙な世界に迷い込んだのでしょうか。
あ、そうだ!扉だ!目には見えない扉が文章のどこかに潜んでいて、
そして。。。扉がひらいた。のですね。海野さんが仕掛けた扉ですね。(笑)
不思議の世界へのお誘い、ありがとうございました。
Commented by 春待ち りこ at 2011-05-15 23:40 x
これはまた。。。不思議で
少し怖いお話ですね。
電信柱の落し物
私も時々目にしますが
そこからこんな物語が生まれてくるなんて。。。
新鮮です。
とっても面白かったぁ!!!

実は私。。。
帽子をかぶってマフラーをして。。。
鞄をかけて。。。靴をはき。。。
そんな電信柱があちこちにあり

一揃いの身繕いを終えた電信柱たちは
実は、宇宙人か何かで。。。
そのうちいっせいに動き出すんじゃないかと。。。
勝手に想像したり。(笑)

……ん?ちょっと、コメディ???

命を失った時、自分も
落し物と変わらなくなる。。。のかな。
どこかに届ける価値もないけど
ほっとくのもどうかな。。。程度の存在。。。
(・・*)。。oO(想像中)
うん、そうかもしれない。。。

だったら。。。生きるぞ。。。死んでなんかやるもんか
そして、思う存分に生きた後。。。
出来れば、一番高い所にかけられる
そんな落し物になりたい。。。
なんて思ってしまいました。
あっ。。。でも。。。私。。。
高所恐怖症だったわ。(汗)

楽しみました。ありがとっ♪
Commented by ヴァッキーノ at 2011-05-17 18:07 x
>あなたは
っていう俯瞰的な書き出しがいいですね。
昔、夢中になって読んだソーサリーのアドベンチャーブックを思い出しました。
落とし物から物語がどんどん膨らんでゆく。
で、最後には自分に還ってくる。
デ・ジャ・ヴュみたいな、
マスターベションな虚しさがステキです。
Commented by marinegumi at 2011-05-17 22:11
>どこかで見たことのある電信柱

って言うから、ネットで拾った写真がたまたまharuさんの近所が映っていたのかと、一瞬思いました(笑)

haruさんこんばんは。
そうなんですよ。
この小説の主人公はこれを読む人自身なんですからね。
この物語の主人公は男か女かも解りませんが、例え男でもそれが自分自身なんですよね。
Commented by marinegumi at 2011-05-17 22:19
りこさんこんばんは。
その電柱の宇宙人のお話って面白いですね。
なんだか書いてみたくなりました。

この作品、最初は帽子がかけられているのが始まりで、身につける物一式がかけられて、最後に裸の人が倒れていて…
と言う感じで思いつきました。
でもそれではあまりにコメディーっぽいので、控えめにしたんですよね。

でもりこさんて、こんなコメントの時もどんどん発想が展開していくんですね。
なかなかまねができません。
Commented by marinegumi at 2011-05-17 22:30
ヴァッキーノさんこんばんは。
二人称はなんか雰囲気が不思議な感じで好きなんです。
こんな奇妙なお話にはもってこいの書き方だと思うんですよ。
>最後には自分に還ってくる
そんな結末は、ショートショートの王道ですよね。
Commented by 齊藤 想 at 2011-05-21 00:24 x
この作品はとてもいいですね!
冒頭がとくに秀抜で、ふとした日常から不思議ワールドに引き込まれる。
すごいと思います!
ぜひともこの作品をブログで紹介したいのですが、よろしいでしょうか?
Commented by marinegumi at 2011-05-21 08:32
齊藤さんこんばんは。
ありがとうございます。
作品の出来はともかく、こういう傾向の作品が好きなんですが、なかなか思いつかないんですよね。
ブログで紹介の方、かまいませんのでよろしくお願いします。
Commented by 齊藤 想 at 2011-05-24 05:33 x
紹介の承諾ありがとうございます。
ぼくもこういう傾向の作品が好きなんですよね。公募には向かないので、なかなか書く機会がないのが残念なのですが。
(ときおり、落選前提でこっそり書いたりします)
木曜日か金曜日にUPしたいと思いますので、よろしくお願いいたします!
Commented by 齊藤 想 at 2011-05-27 22:49 x
予定通り記事をUPいたしました!
ご確認をおねがいいたします!
http://takeaction.blog.so-net.ne.jp/2011-05-27

関東も梅雨入りしていまいました。
これからジメジメの季節です。
この季節は子供たち(×3人)が体調を崩しがちなんですね。
さっそく、1名ほど風邪を引いているし。
さあ、梅雨をテーマに……と書くのは投稿して掲載までのタイムラグを考えたらもう遅いんですよね(汗)
Commented by marinegumi at 2011-05-28 20:03
齊藤さこんばんは。
直前に、1か所タイピングミスがあったのを直すのと、ついでに何箇所かちょこっと手を入れましたよ。

梅雨ですよねー
お座敷犬を飼っていると、雨が続くと散歩に困ります。
うちは家の中では一切トイレをさせないようにしているので、雨でも行かなくてはいけないんですよね。

タイムラグ。
そうですね、投稿と言う事を考えるとそうなってしまいますね。
Commented by 川越敏司 at 2011-05-29 09:07 x
海野久実さん、おはようございます。

サイトーさんのブログで見て、『街角の落し物』がとても素晴らしいのでコメントしたくなりました。

二人称で書くのは非常に実験的だなあ、と読み進めていくと「奇妙な味」な仕上がりになっていて、わたしの好みに非常にぴったりです。もっとこういう作品を読んでみたい気がします。

> 同じ書き出しによるツイッター小説

「扉が開いた」というシリーズですね?星先生の「ノックの音が」のような連作なのですね。

読ませていただいて、海野さんは色々な趣向を大胆に試していかれているのがわかり、その姿勢に感服しました。

商業誌にも応募されているでしょうか?これまでの掲載のリストなどがわかるとよいなと思いました。

これからも素敵な作品をお待ちしています。
Commented by marinegumi at 2011-05-29 22:18
川越さんおはようございます。
ぼくはお客様がコメントを書かれた時間を見て、挨拶を変えています。
はじめまして。
作品を気に入っていただいて、こんなにうれしい事はありません。
特に自分が気に入っている作品をほめていただくとね。

二人称の不思議な感じが好きなんですが、何でもかんでも二人称とは行きませんよね。
アイデアによって二人称で行こう、と言うのが時々あります。

そうそう、このブログにも二人称を使っている作品があります。
「二人称 三人称 一人称」と言う作品です。
よければ読んでみてください。
http://marinegumi.exblog.jp/11324439/

星新一さんの「ノックの音が…」は面白い試みだと思った事がきっかけなんですが、ついのべの書き方というサイトがあって、「同じ書き出しで書いてみる」なんて言うのがあるそうです。
知りませんでした。
「私は電話を待っていた」と「扉が開いた」です。
両方で合計100本の予定です。
Commented by marinegumi at 2011-05-31 20:59
>色々な趣向を大胆に

ツイッターでは苦手なジャンルでも、短いので何とか形になる感じです。

>商業誌にも応募されているでしょうか
そういえば殆どしたことがないんですよね。
漫画を描いていた時期があって、ショートショートを書いていた時期があって、また漫画の時期があって、今再びショートショートの時期ですね。
最初にショートショートを書いていた時期に、同人誌にのった物が雑誌に転載されたり、アンソロジーの単行本にのったりぐらいですね。
積極的に賞に応募した事はありません。
川越さんはその辺積極的ですよね。
頑張ってください。
僕もそのうちに…と思わない事もないんですけどね。
Commented by 川越敏司 at 2011-05-31 21:02 x
お返事ありがとうございます。

商業誌への応募に積極的なのは、職業病のせいかもしれませんね。わたしの仕事の世界では、publish or perish (掲載されるか、さもなきゃ破滅)という言葉がよく言われます。それでまずは投稿、という習慣ができています。

本気で作家デビューを目指すなら長編を書かないとダメでしょうから、まあ、本当に習慣ですね。

海野さんのようにブログの高いランキングを勝ち獲る方が、いまの時代、そして来るべき電子書籍の時代では貴重な気がします。

ご紹介された作品、読んでみますね。
SFマガジンに掲載されている作品も、ぜひ読んでみたいですね。
by marinegumi | 2011-05-14 23:48 | 掌編小説(新作) | Comments(15)