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朝顔につるべ取られてなんとやら (5枚)

夏休みが始まって間もないある日曜日。
「お母さん。私の自転車は?」玄関先から、みゆきが聞いた。
「さっき、ゆかちゃんが乗って行ったわよ」
「えー!?どうしてさ。お姉ちゃん、自分の自転車があるじゃん」
「さあ?何でかしら?」
「私もこれから部活なんだよ。お姉ちゃんの自転車で行くけど、パンクとかしてたらやだなー」
みゆきは、ラケットを抱えて玄関を出た。
間もなく庭からみゆきの声が聞こえる。
「お母さん!お母さんの自転車貸してよね」
「いいわよ」
庭から自転車が出て行く音が聞こえる。

「真由美。ゆかの自転車がどうにかなったのか?」と、それまで黙って女たちのやりとりを聞いていた健二が言った。
「さあ?どうなんでしょうね。あなた見て来てやって下さいな」
「いいよ。パンクだったら自転車屋さんに持ってかなくっちゃな」

「真由美!ちょっと来てみろよ」と庭から声が聞こえた。
「なんですか?」
手を拭きながら出て行くと、健二はゆかの自転車のそばに座りこんでいた。
彼は満面の笑みを浮かべて振り返った。
「ほらこれ」と自転車のタイヤを指差した。
そこにはおそらくクマゼミのものだろう、立派なセミの抜け殻がタイヤにしがみついていた。


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「あー、そういうことだったのね」と、真由美も笑顔になる。
「二人ともわが娘たちは優しい心の持ち主だという事だな」
「俺に似て、と言いたいんですか?」

「でもあなた、これは優しいというのとはちょっと違いませんか?」
「え?どう言う事だ?」
「これってセミの抜け殻でしょ?もう生きてはいないんですからね」
「そういえばそうだな。《朝顔につるべ取られてもらい水》なんて言うのとはちょっと違うかもな」
「どう言うのかしら。セミの抜け殻を飾り物みたく大事にしたいと、そんな感じですかね?」
「自転車のタイヤにセミの抜け殻。おっしゃれ~てな感じかもな」

遠くセミの鳴き声が聞こえた。
うるさいほどにセミが鳴き出すまでにはまだ少し日にちがあった。


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そんな事があってから半月ほどが過ぎた、これもまた日曜日の事。
普段あまり乗らない自家用車で、夫婦で買い物に出かけようとしていた時、庭から健二の声が聞こえた。
「おーい真由美。ちょっと来て見て」
真由美が出ていくと、健二は車のそばに座りこんでいた。
少し前に、似たような場面があったのを思い出していた。
「ほらここ」健二の指差すタイヤに何かがくっついていた。
「何ですかそれ?またセミの抜け殻ですか」
「違うよ。今度はさなぎだ」
「さなぎ?」
「ほらここにゆずの木があるだろ?」
それはもう十年も前にガレージのそばに植えたものだった。
「毎年アゲハ蝶がこの木に卵を産んでいたんだよな。さなぎはこの木に付いているのしか見たことはなかったんだが、タイヤのそばまで枝が伸びていたのでこんな事になっちゃったんだろうな」
「で、どうするんです?お買いもの」
「セミの抜け殻と違って、これは生きているわけだ」と健二は腕組みをする。
「優しい父親としては…」

「もしもし。2丁目の坂口です。タクシーを一台お願いします。」



おわり



この写真は2~3日前に撮ったものです。
はじめは面白写真として、写真に短い説明だけ付けてアップする予定だったんですが、やっぱりなんと言うか、小説書きの性(さが)と言うか、お話が自然に出来上がってしまいました。
めんどくさいなーと思いながら文章にしました。
出来れば出来たで、それなりに満足感はあるんですけどね。
昼寝をたっぷり2時間半した後で作業をしましたよ。


この作品をharuさんが動画&朗読作品にしてくださいました。
こちらです。


そのharuさんがセミの抜け殻ってこんなに大きかったんですか?と言っておられたので、改めて見ると本当に大きく見えますね。
これは抜け殻が付いた自転車のタイヤがすごく細いんですよね。
その比較の写真です。


a0152009_17303551.jpg

右側が普通の自転車のタイヤです。
そして、その普通のタイヤの方にセミの抜け殻を接着剤で(笑)くっつけてみました。
大きさはこんな感じです。
まあ、普通の大きさだと思います。


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Commented by haru123fu at 2011-07-28 10:52
久々の作品ですね。楽しませていただきました。
と、ところで、実はここからがお願いです。海野さんがお休みしている間に結構(そうでもないか?)色々とみなさんの作品を朗読させていただいていました。
少し長い小説でも声がつづくようになってきた気がしてます。
自己満足ですが。(笑)
そこで、海野さんのこの作品朗読させてもらってもよろしいでしょうか?
お願い致します。 haru
Commented by marinegumi at 2011-07-29 00:40
haruさんおはようございます。
なんだか、写真だけなのに掌編小説のランキング1位とかになってると申し訳ない気になっちゃったので、書いてしまいました。

朗読はみんな聴かせてもらってますよ。
僕の作品も読んでもらえるんですねー
おねがいします。
楽しみです。
Commented by 春待ち りこ at 2011-08-01 11:03 x
ふふふっ。。。
なんだか、優しいお話でしたね。
最初は、自転車に何が起こったのか。。。
もしかしたら、怖いの???
などと思ってましたけど。。。タクシー。。。
素敵な選択でした。
とっても読後感がよかったです。
楽しみました。ありがとっ♪

さて、これからharuさんの朗読を聴きに行きます。
このお話が、どんな色に染まっているのか。。。
今から楽しみです。(^_^)v
Commented by かよ湖 at 2011-08-01 22:42 x
とても心温まる作品ですね。
「タクシー」とは素敵なオチです。
日常の1コマですぐにストーリーを思い付けるなんて、素晴らしい!
また、遊びにきますね。
Commented by marinegumi at 2011-08-02 22:23
りこさんこんにちは。
自転車に起きる怖い事?
思いつかないですねー
思いつかないだけに怖さだけをじわじわ感じちゃいます。
なんだかそんなお話を書きたい様な。
Commented by marinegumi at 2011-08-02 22:27
かよ湖さんこんばんは。
新人作家さんはこれでもかと言うすごいアイデアで攻めて来ますが、ベテラン作家さんになると、何でもないちょっとしたアイデアを見事にさらっと作品にされますよね。
そういうふうになりたいです。
はじめまして。
これからもよろしくお願いします。
ただいま、夏の忙しさで更新が停滞気味であります。
Commented by haru123fu at 2011-08-03 17:58
あははは、なるほどそういうことだったのですか。納得、納得。
自転車というとママチャリしか思い浮かばない私の発想の乏しさでした。(笑)
わざわざご丁寧にありがとうございました。
それにしても、幸せなセミの抜け殻ですね。海野さんの目にとまって、
小説にまでなった。(笑)

リンク、ありがとうございました。次の作品も楽しみにして、まってま~す。
by marinegumi | 2011-07-27 21:21 | 掌編小説(新作) | Comments(7)