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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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死亡事故発生現場 (4枚)

釣り道具の入った長いバッグを肩にかけ、木造の駅舎の外に出ると、田舎町は夕暮れ前だった。駅前の道路にはぽつんと、目的の旅館の名前を書いた車が止まっていた。
中をのぞいてみたが運転手の姿がなく、どこかに行ったのかと振り返るとすぐそばに男が立っていた。
「河田さんですね」旅館の法被を着たその男は無表情に言った。
「行きましょう」
私が後ろの席に乗り込むのを待って彼は運転席に座った。
「なんだ、今日は私一人なんだね?」
そう声をかけると、男はしばらく無言だった。さびれた細い駅前の道路を抜けて、広い県道に出てから彼は答えた。
「まあ、観光はそろそろシーズンオフですからね。今は釣りが目的の方ぐらいです」

しばらく県道を走って行くと左側を《死亡事故発生現場》の看板が通り過ぎた。二年前に来た時には気が付かなかったので、最近の事故かもしれないと思い、運転する男に聞いた。
「ああ、あれはもう5年前の事故ですよ。最近、過去に死亡事故があった場所にも看板を立てるよう町議会で決まっただけの事です」
そう言うと男は黙々と運転を続けた。
目的の旅館はこの県道を南に外れ、川のせせらぎや小鳥の声を聞きながら緑に囲まれた緩やかな坂道を15分ほど下った所にあった。それはとても気持ちの良い道のりだったのを思い出していた。
しかしその時と、同じ道に間違いはないのだが、いざ走り出してみると何となく二年前と雰囲気が違う気がした。少し開いた車窓から吹き込む風も陰気な感じで鳥の鳴き声もしない。
ただエンジンの音だけが響いていた。
空が曇っているせいかもしれないと思った。あの時は木漏れ日が気持ちよかったのだ。

a0152009_14574382.jpg


間もなく路肩に意外な物を見つけた。《死亡事故発生現場》の看板だ。
「こんな所で事故があったのか?」と思わず小声で呟いていた。
「ここは7年ほど前ですね」と、それを聞きつけた男が言った。
それからまた2~3分後にも看板が現れる。
《死亡事故発生現場》
そしてまた、そしてまたと、立て看板が次々と現れる事に私は言葉を失っていた。中には《転落注意》と言うなんでもない物もあれば、《自殺事件発生現場》と書かれたものまであったが、《死亡事故発生現場》が少なくとも5枚はあったように思った。。
バックミラーから私の様子を見ながら男は言った。
「まあ、あれですよ。この道は細くて見通しがひどく悪いですからね」

かすかに記憶にある古びた旅館の玄関先に、砂利を弾き飛ばしながら車が止まり、私は外に出た。
そしてその玄関に入って行く道の右側に看板があった。
《死亡事故発生現場》
心臓がどくんと一つ大きく打った。後ずさり、乗って来た車を振り返ると、男の姿はなく、窓ガラスが割れ、赤くさびて蔓草に覆われた廃車が生き物の死骸の様にそこにあった。
『県道からガードレールを突き破り、観光バスが旅館を直撃。旅館は火災を起こし死者8人を出す大惨事…』そういう新聞記事を見た記憶が蘇り、体に悪寒が走った。
あの事故があったのがここだったのか。
私はパニックに襲われそうな自分の気持ちを静め、今来たばかりの道を歩いて引き返し始めた。
最初は歩いていたもののいつしか持っていたバッグも投げ捨て、全速力で走り始めた。

間もなく闇に包まれるはずの遠い遠い道のりを。



おわり




この作品は「第9回ビーケーワン怪談大賞」に応募した作品です。
ブログに投稿すれば応募できると言う手軽さで参加してみました。
ところがうっかり応募した事を忘れていて発表をずいぶん過ぎてから確認すると入選はしていませんでした。

「第9回ビーケーワン怪談大賞」発表ページ

投稿版「死亡事故発生現場」

これは原稿用紙2枚以内という応募規定だったと思うんですが、原稿用紙2枚に一文字分も残すことなくぴったりになっています。
苦労して短く短くしましたね。
今回、その時の不満を解消できました(笑)

今、次の作品を書いている途中なんですが、ふと思い出して書き直し、即アップしてみました。

画像はコミックスタジオで作りました。
山道の写真に「死亡事故発生現場」の看板を二つ、ペタリと張って明るさを調整して出来上がり。


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Commented by haru at 2011-10-16 19:15 x
DMにちっとも気が付いていませんでした。ごめんなさい。あいかわらずのドジっ子でした。(涙)

キャーッ!コワッ!( ̄○ ̄;)! ってぶりっ子してみました。(笑)
実際にそんなことが起こったら怖くて腰抜かしそう。
すみません。わたしが朗読できるようになんとか短くと気を使わせて。
先日の「手首」朗読2位まで上がり今日は4位です。(笑)
そして、なんと朗読していない「壊れた心」が1位とは?
コンピューターのなせる技ですよねきっと。でも、海野さんのおかげで少しは長い文章でもずいぶんと朗読できるような気になっています。おっしゃって下さったように気にせずどんどん良い小説を書いて下さい。
空に穴が開いた私の写真とどんなリンクしてるのかなあ~
とっても楽しみにしています。
Commented by 川越敏司 at 2011-10-16 23:17 x
わたしも気になっていたんですが、結局出せませんでした、bk1怪談大賞。講評は前に読んでいました。怖い作品がないと嘆かれていましたね。いい話が多いのだとか。海野さんの作品は怖い系ですね、それも映像を思い浮かばせるタイプの。来年はわたしも挑戦したいです。
Commented by 春待ち りこ at 2011-10-16 23:45 x
海野さん。。。怖かったです。
写真もまた。。。怖い。
合成なんですか。。。こんなことが出来ちゃうんですね。
乗ってた車も旅館も。。。こんな状態で。。。
夜の闇の中。。。徒歩で帰宅???
主人公。。。生きて帰れたんでしょうか???

あぁ。。。考えないことにします。
これ以上考えると。。。このお話の続きを
夢の中で見そうです。(T_T)キケン。。。

死亡事故発生現場。。。
時々、街で見かけますが。。。こんなにいっぱいあったら。。。
(・・*)。。oO(想像中)
あぁ。。。やっぱり考えないことにします。
Commented by りんさん at 2011-10-18 19:04 x
何となくオチは読めるものの、ぞ~っとしますね。
廃車の残骸の描写が特にいいです。
これを2枚にまとめるのは大変でしたね。


私今日、会社に行く途中で交通事故を見ました。
けっこうな大惨事でした。
怖かったです。私も気をつけなければ…。
Commented by marinegumi at 2011-10-19 00:58
haruさんこんばんは。
ツイッターは「DMがあります」とかいう表示がないですからね。
替わりに登録のアドレスにメールが来るように設定できますね。
まあ、してても見ませんけど。

短くしようと思っても、その物語が初めから長くなる運命だと自然に長くなってしまうんだと、今は思っています。
物語自身にまかせる感じで、思い出すように書けるのが大事だと思います。
考えて書くのじゃなくて、いつかどこかで起こった、または起きるはずのストーリーを僕はただ思い出しながら書いている…
かっこよすぎですね。
Commented by marinegumi at 2011-10-19 01:02
川越さんこんばんは。
これは応募しやすいですよ。
投稿するテンプレートがあって、文字数がオーバーすると、「何文字オーバーです」なんて表示が出て、投稿できません。
送信すると、即ブログ上に表示されて投稿完了です。
でもこれは本になるみたいで、魅力的ですね。

入選作品の中には意味のわからない物もちらほらありましたけど。
Commented by marinegumi at 2011-10-19 01:09
りこさんこんばんは。
まだまだ豊かな感受性をお持ちですね(笑)
僕は、最近はテレビで怪談や心霊写真なんかを見た後でも、夜中にそれを思い出して怖くなると言う事がなくなりました。
寝る前に録画しておいたそういう番組を見て、さー寝ましょうかと、平気ですね。
ただし怖い夢は見ます(笑)
夢を見ている時は怖いものの、夢から覚めると平気です。

これは何でしょうかねー
長い間生きて来て、僕には霊感がない、霊を見てしまう能力がないんだと自信を持っているからでしょうか?
Commented by marinegumi at 2011-10-19 01:14
りんさんこんばんは。
怪談と言うのはちょっと書き方が普通のショートショートとは違うような気がしています。
結末がこういう風になるんじゃないかとうすうすわかっていながらその通りになっていく怖さとかね。
「本当にあった怖い話」みたいなものもそう言う感じでしょ。
BK1怪談大賞のネットから応募するテンプレートは、あと何文字と教えてくれるので短くするのに便利が良かったですよ。
by marinegumi | 2011-10-16 14:46 | 掌編小説(新作) | Comments(8)