侵略がいっぱい (10枚)

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侵略がいっぱい

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レンガ工場の壁を後ろにして、道路の上に置いた低い折りたたみの椅子に座った男がいた。
男の前には、敷かれたむしろの上に色んなおもちゃが並べられている。その男はひげをたくわえ、サングラスをかけ、なにやら不思議な雰囲気に包まれていた。
小学校4年の広志は本屋からの帰り道だった。手には大事そうに月刊漫画雑誌の「少年画王」を持っていて、家に帰ってそれを読もうとわくわくしながら走って来たところだった。
「おじさん、それはなあに?」
と広志は聞いた。
並べてあるおもちゃの中にひときわ変わった物を見つけたのだ。
「これはな、特別な物だよ。おもちゃではなくて実験セットなんだ」
「何の実験?」
「説明書を見れば詳しく書いてあるが、袋の中に入っている粉末を付属の容器に入れて水を注ぐだけで不思議な生き物が生まれるんだよ」
広志は目を輝かせた。そしてそれは本のお釣りで買えるほどの値段だったのだ。

彼は宝物を二つ手に入れた気分だった。漫画雑誌と不思議な実験セット。実験セットは、単にカブトエビの飼育セットだったのだが、広志にとっては生命を創り出す禁断の実験装置のように思えたのだ。
家に帰ると広志は実験セットを勉強机の上に置き、畳の上に寝転んだ。実験セットが気になりながらも、雑誌を読み始めたのだ。
月刊「少年画王」は「宇宙の不思議」の特集だった。特集記事以外には「宇宙からの侵略者」という新連載の漫画が掲載されていた。そのカラーページから目を通した。



新連載SF漫画「宇宙からの侵略者」

宇宙空間にその物体が発見されてから数カ月は、それは小惑星だと思われていた。軌道は正確に計算され、地球の近くを通過するものの衝突するような事は万が一にもないと判断されていた。
しかし次第にじわじわ進路が変わり、地球にまともに向かうコースに入ったのが確認されたのは1カ月前だった。
科学者の飯島博士は自分が設計した電波望遠鏡で、その天体の映像を捕らえた。
「何という事だ。これは…」
望遠鏡のモニターを見て飯島博士はそれだけ言うと、あとは絶句した。

広志はため息をついて漫画雑誌を畳の上に置くと、「実験セット」に目をやった。やっぱりどうしてもそれが気になってしょうがなかったのだ。
庭へ出て、飼育容器に紙袋の中に入った粉末を入れると、庭でバケツに汲み置きしていた水を容器の中に注いだ。それはただの泥水みたいにしか見えなかった。
「これでほんとに生まれて来るのかなぁ?」
広志はその容器を今は使われていない水の涸れた井戸のふちに置くと、そこに座り込み、井戸にもたれて漫画雑誌を再び読み始めた。

モニター画面に映し出されたそれは筒状で前後が丸くなっている、いわゆるカプセル型をしていた。明らかに人工物であった。
どうやら知的生命体の建造した宇宙船に間違いないと飯島博士の研究所は大騒ぎになった。さらに驚くべき事は、その大きさだった。
長さが約1.2キロメートル、円筒の直径が約200メートルもあったのだ。
飯島博士は総理大臣に電話をかけて、非常事態を知らせる。
日本国中、いや世界中の人々は、かたずをのんでその宇宙船の到来を待ちうける事になった。

「つづく。かぁ~」
広志が思わず青空を見上げた時、頭が飼育容器に当たり、それは井戸の中に落ちてしまった。
あわてて中を覗き込んだが真っ暗で何も見えなかった。そして不思議な事に容器が落ちた音さえ聞こえなかったのだった。
広志は飼育容器をあきらめ、家に入って畳に寝転び雑誌の続きを読み始めた。



読み切りSF漫画「静かな侵略」

人類は、爆発的な人口増加、環境破壊、温暖化などの影響を、あらゆる試練をまともに受けた。何一つ回避出来ずに、自分たちの無力さを痛感した50年あまりの期間を経て、何とか以前の繁栄を取り戻しつつあった。
今では全世界の人口は正確なデータとしてリアルタイムで人口調整局のマザーコンピューターの画面に表示されるようになっていた。
地球上のすべての国の出生数、死亡数、生活可能な人口などの情報がここに集約されていた。そしてマザーコンピューターと連動した全世界の病院のコンピューターが人口の調整を行うシステムが完成したばかりだった。
誰もが病院で受精し、病院で出産することを強制され、それ以外の出産は認められなかった。

ある日、人口調整局のエンジニアである速水賢一が不思議な統計を発見した。
5年ほど前から地球上で、一人も出産のない日が出て来ていたのだ。それは最初は8月15日の1日だけだったが、翌年には8月15日と8月16日になり、更に次の年には同じ月の8日と15日16日、次の年には8日と15、日16日、22日と言う風に、1年間のカレンダーを一目で見るように並べると、その数字の並びに穴が空いて、それが毎年大きくなって行くように見えたのだ。
その現象は止まらず、やがて8月に生まれる子供は全くいなくなり、さらに別の月にもその穴は広がって行った。

高度な知能を持った突然変異の白アリは人口調整局のマザーコンピューターを食い荒らし、自分たちの思うように操作出来るまでに、奥深くまで侵入していたのだった。



読み切りファンタジー漫画「俺たちは滅びゆく」

「俺たちはもう滅びるしかないのか?」
「俺たちは一生懸命に命を賭けて、この国を支えてきたではないか!それなのになぜ?」
「あんまりだ。このユートピアを出て行くしかないと言うのか?」
「この国土の為に毎日必死に働き、歳をとったからと言って追い出されると言う。それが運命なのか?」
「あまりにも理不尽だ!」
「もうすでに、若いやつらが一斉に生まれ、俺たちを追いやろうとし始めている」
「だがもうその時は来たようだ。それぞれが最後まで戦って潔く去ってゆくしかないのだろう」
「それではみんな、またあの世とやらで会おうではないか」
「さらばだ」
「さらばだ…」
「……」

常緑樹の落葉は春である。
前年の古い葉は新葉が芽吹くとともに散り始め、古い葉と新しい葉が入れ替わるのだ。
それは古い葉にしてみれば、「新緑」と言う名の「侵略」かもしれない。



特別組み立てふろく「宇宙船画王号」
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連載読み物「未来の映画とマジック」

映画は21世紀に入る頃には、まさにCG(コンピューター・グラフィックス、つまり電子頭脳による映像処理)の時代になる事だろう。
実際にセットを組んでの撮映ではとても不可能な場面でもCGなら簡単に作れてしまう。
さらに進化したCGは絶滅した古代の生物をよみがえらせ、ついにはそれを演じる俳優さえCGのみで作れるようになってしまう。
その技術は完ぺきで、CGの俳優には本物の俳優以上に迫力のある演技をつけられるのだった。しかも文句の一つも言うわけではない。
当然俳優協会は猛反対して、スト騒ぎにまで発展する事になる。しかしそういう騒ぎは一時的な事だ。その俳優たちが老いて行き、新たな俳優が次第に登場しなくなると、映画は当然のように俳優に至るまで全てCGとなってしまうのだ。ちょっとロケに出かければ撮影できる現実の風景でさえCGで作ってしまうのが当たり前になっている事だろう。
CGの侵略は映画だけに留まらない。
それはマジックの世界にも及ぶ事になる。初めはテレビの録画番組でCGを使った視覚的なインパクトのあるマジックだけだったが、やがてその技術は進歩をして、生放送でもCGマジックは可能になり、更に舞台の上、観客の目の前で、リアルタイムのCGマジックがもてはやされることとなる。
そうなると、もうどんな不思議な現象も当たり前になり、かえって飽きられてしまい、人気は下降線をたどる運命だ。
そこでまたテレビ番組で少しづつ増えて来るのが、ごく簡単な手品だろう。
例えば幼い少年が単純な手品を披露する番組が高視聴率を稼ぎ出したりしたりするわけだ。

しかし、それも束の間。
やがてごく簡単な手品のように見せかけたCGによる手品が侵略を始めるのだった。



読み終わると、広志はもう一度庭へ出た。そして涸れ井戸を覗き込んだ。
中はやはり真っ暗で何も見えなかった。
広志は急に走り出した。彼の父親は小さな建築会社を経営していて、その仕事に使用している倉庫が近くにあった。彼は大人たちがみんな仕事に出かけて、誰もいないはずのその倉庫に入り込み、闇に目が慣れるのを待った。
広志は壁面にかけてある長い梯子を見つけると、高く積み上げられた材木の上に上がり梯子を外そうとした。しかしそれはアルミ製の2段ばしごで、子供にはなかなか持ち上げられなかったのだ。
なんとか梯子の片方を外したが、その重さにバランスを失い足を滑らせた。
梯子もろとも床に落下した広志の上に大量の材木や道具類が襲いかかったのだった。

それから何十年も過ぎた。
広志はベッドの上で寝たきりだった。子供の頃の事故でそのまま植物状態になり、ベッドの上で大人になり、年号も変わり、更に歳を重ねていた。
彼の眠りに夢はあるのかどうかは判らない。しかし、もしあるとすれば恐らく子供の頃の楽しかった時代を繰り返し夢に見ているに違いなかった。
そして今、誰に看取られる事もなく、いつもと変わらない姿勢のままで、静かに息を引き取ろうとしていたのだ。

テレビでは連日宇宙からの訪問者の話題ばかりが放送されていた。病院の医師も看護師も暇な時間はテレビに釘づけだった。
街のど真中に着陸した宇宙船の映像が中継されていたのだ。そのカプセル型の宇宙船は、3日前に着陸したまま何の変化も見受けられなかった。

その時、病院中にどよめきが起こった。テレビのアナウンサーの興奮した声が病室の各部屋から響いていた。
テレビ画面には宇宙船から降り立った異星人の醜悪な姿が写しだされていたのだ。数は何百人もいるようだった。そのカブトエビを連想させる容貌の異星人達は、手にしたごく小さな装置を一斉に構えた。
その武器は大きさからは想像できないほど強力な破壊力で周りを取り囲む機動隊や自衛隊、マスコミ関係者と戦車や自動車、ヘリコプターや航空機、さらに建ち並ぶビルなどの建造物もろとも吹き飛ばし始めた。
広志の瞳には部屋のテレビの画面が写ってはいたが、それを見ているのではなかった。
彼の頭の中では現実に起きているその光景、テレビで中継されている画面と同じ出来事が繰り広げられていたのだ。

あの日、涸れ井戸の暗闇の宇宙に旅立ったカブトエビの飼育容器は何億光年の彼方、広志の夢の中で姿を変え、巨大な宇宙船とその乗組員になった。
それが今、地球上に降り立ち…
いや、それは単に広志の頭の中で空想されているだけの物語で、たまたま現実とシンクロしているだけなのかもしれない。
もし、広志の頭の中の出来事がそのまま現実に起きていると言うのが真実だとすれば、広志が息を引き取る瞬間にその幻は消え去るのだろうか。

テレビの画面では壊滅的な街の惨状が中継され続けていた。



おわり



お察しの通り、「侵略」テーマで考えている時に、出てきたアイデアをほぼ全部詰め込んで一つの作品に仕上げて見ました。

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Commented by 川越敏司 at 2011-11-20 20:21 x
ほほ~コラージュの手法を使った実に実験的な作品ですね。『火星年代記』のようですね。楽しみましたよ。
Commented by りんさん at 2011-11-21 17:52 x
すごいですね。いろんなものが出てきて宝箱のようですね。なんだか読んですごく得した気分です。
しかも予想と全く違う展開で驚きでした。
面白かったです。
Commented by marinegumi at 2011-11-21 23:51
川越さんこんばんは。
おおー、わがバイブル、「火星年代記」を思い出してくださるのはとてもうれしいですね。
「俺たちは滅びゆく」はブラッドベリの「俺たちは滅びてゆくのかもしれない」からです。
一冊の付録付き漫画雑誌という体裁は書いて行くうちに思いつきました。

Commented by marinegumi at 2011-11-21 23:55
りんさんこんばんは。
わが少年時代の夢の宝箱、少年漫画月刊誌を文章で再現するという試みなんですが、書いている途中で思いついたので、中途半端かもしれません。
もう一度、「侵略」と言うテーマに捕われず、徹底的にやってみたい気もします。
by marinegumi | 2011-11-18 22:08 | 掌編小説(新作) | Comments(4)