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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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ピグ父さん (12枚)

お父さんは毎年、私たち兄妹に、誕生日とクリスマスにはプレゼントを欠かさなかった。
いつからそうなったのかは覚えていないけれど、お母さんからは特にプレゼントはなく、お祝いにごちそうを作ってくれるぐらい。形の残るプレゼントはお父さんからと決まっていた。
今から思うとお父さんの小づかいではプレゼントがちょっと重荷になっていたのかもしれない。たぶん、プレゼントを買う日が近づくと、そのために好きな本を買うのを控えていたんだと思う。


兄が働き出して家を出て行くと、プレゼントをもらうのは私だけになった。
高校を出て専門学校に行き出しても、私は家から通った。
卒業をして美容師として働くようになっても、お父さんのプレゼントは続いていた。働き出したんだからプレゼントはもういいよと、心の中では思ってもやっぱりうれしかった。
お父さんにしてみれば、ひょっとしてプレゼントをやめるタイミングを失ってしまったと言う事かもしれない。


そうやって、何年かが過ぎた頃、私はどうしても東京に出て行きたくなった。こんな田舎町の美容室にずっと勤めているのが嫌だったんだ。もっと大きな、技術のある美容院で働きたくなった。そして勉強をして、タレントやモデルのスタイリストとして派遣される、そんな仕事を夢見るようになっていた。
その事を伝えると、お母さんは反対をした。お父さんは何も言わなかった。
お母さんと私だけの話し合いで、お母さんが折れ、東京へ出て行くことが決まった。

東京では半年を暮らした。そう、半年間、夢見た仕事に就くために色んな募集の面接に出かけて行ったけれど、まったく採用されなかった。「アルバイトはするな」と言うお母さんとの約束だった。「自分のしたい仕事以外の仕事をするな。仕事がみつからなかったら帰ってきなさい」と。

美容院で働き始めてからずっと貯めていたお金を使い果たしてしまい、家に帰る事になった。
前に勤めていた美容院にちょうど欠員があったので、お願いして再び勤め始めると、まったく前のままの暮らしが戻ってきて、東京で暮らした半年が夢のように思えた。

その年の、私の誕生日とクリスマスにはお父さんからのプレゼントはなかった。東京行きがプレゼントをやめるちょうどいいきっかけになったんだと思う。きっとお父さんはほっとしていたのかもしれない。


前と変わった事と言えばお父さんがパソコンを始めた事だ。機械音痴で、本が好きなだけのお父さんが、よくわからないまま始めてしまい、あまり使っていないようだった。
私はずっとパソコンを使っていたので、お父さんは時々私の部屋に使い方を聞きに来る。よくわからないらしく、同じ事を何度も聞きに来るので嫌な顔をすると「あ、そうか、わかったわかった」と言いながら部屋を出て行くのだけど、あれはきっとわかっていないんだと思う。

その頃アメーバピグが友達の間で流行り出したので、私はすぐにピグを作った。そして、友達招待のアメGをもらうためにお父さんにもピグを作らせた。と言っても、殆どの設定は私がして、ログインの方法だけ教えてあげて、後はご勝手にと言う感じだった。

ピグで遊んでいる時に、時々お父さんのピグがオンラインになる事があった。何をしているのかと思って、同じ場所に行くと日本海初級にいた。釣りをしている他のピグをただ見ていた。時々船の上をあちこち歩くけれど、いつまでもただ見ているだけだった。
そして、消えた。
お父さんの部屋に行って、使い方を教えてあげようかと思ったけれど、どうせ続かないだろうと思って「まあ、いいか」と、そのままにした。


ある年のクリスマスイブの日。
たくさんの、ピグ友からプレゼントが届いていたけれど、その中にお父さんからのプレゼントを見つけてびっくりした。それも、500アメGもする豪華なクリスマスケーキだった。
「え?お父さんたら、アメGをどうやって買ったの?」と、思わず声に出してしまった。
お父さんのピグの部屋に行くと、もっとびっくりした。部屋は広くなっていて、しかも3階だて!部屋の中には豪華な家具がそろい、色んなアイテムであふれていた。水槽にはジンベイザメがゆうゆうと泳いでいて、部屋を犬が3匹、そしてペンギンまで歩きまわっていた。
お父さんはログインしていなかった。
お父さんのピグ友を見ると、私を入れて23人もいた。
いつの間にここまで出来るようになったんだろうかと、感心したり、呆れたりしながら、その部屋を私のピグはずうっと歩いて見て回った。


その年の12月30日にお父さんが倒れた。
救急車で病院へ運ばれたけれど、間もなく息を引き取ってしまった。動脈瘤破裂という、どこかで聞いた事のある病名だった。

お葬式とお正月で、わけのわからないまま年末年始が過ぎ、やっと少し悲しみから解放された気になった頃には1月も終わろうとしていた。
友達からのメールは殆ど携帯に入るけれど、パソコンのメアドに送って来る人もいるので、久しぶりにパソコンを立ち上げた。ついでにずっとやってなかったピグにもログインしてみた。
友達はみんなお父さんが亡くなったのを知っているので、お年玉やお正月のプレゼントは送らなかったり、送ったとしても取り消しをしたんだと思う。一つもなかった。
私のピグがぽつんと一人、寂しそうにまばたきをしていた。
その時「ピピッ」と音がして、「プレゼントが届いています」の文字が出た。
時計を見るとちょうど日付が変わったところだった。私の誕生日になったんだ。
クリックして開いてみると、お父さんからのプレゼントだった。それも3つも。
「花火がはじける大きなバースデーケーキ」「クマのぬいぐるみ」「お祝いパーティー用の壁」
それはお父さんが生きている時に、日にちを予約して送っておいてくれたプレゼントだった。
それを見ているうちに私は悲しくなってしまった。
これがお父さんからの最後のプレゼントだと思うと、もう涙が止まらなくなっていた。
そう、本当に最後の最後のプレゼントなんだから。


ある日、私は友達から聞いたピグの裏わざを試すことにした。
自分のピグでログインした後に、すぐにログアウトする。そしてもう一つ別に新しいタブでログイン画面を立ち上げる。そしてもう一度私のIDとパスワードを入れログインして、画面を切り替えて、今度はお父さんのIDとパスワードでログインする。するとタブの切り替えで、私のピグとお父さんのピグが交互に出るようになる。
そして今度は私のピグ友一覧の中のお父さんの「家」のマークをクリックする。すると私とお父さんのピグが同じ部屋にいると言うわけなんだ。
「ひさしぶり!」
私はお父さんに声をかける。そしてタブを切り替え、お父さんのピグで答える。
父「ほんとだなー、死んじゃって以来だね」
私「ピグになって、ちゃんと生きてるんだよね」
父「え?おれって、生きてるのか?」
私「生きてるじゃない!こうやって私とお話してるんだもの」
父「あまり生きてるう~って気はしないけどなー」
私「何それ?ちゃんと生きてるんだから!」
私はそんな一人芝居をしながら涙を流しているのにしばらく自分で気がつかなかった。
あとからあとから涙があふれ、キーボードを濡らした。

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その時、お父さんの部屋に男の子のピグがやって来て「きたよ」をして、二人に「グッピグ」をした。
そのお父さんのピグ友の名前は『まー坊』だった。プロフィールを見ると「小学校4年」になっていた。
「ひろくん、久しぶり」と、『まー坊』は言った。『ひろくん』はお父さんのピグネームだ。
「ひろくん、長い間ログインしてこないから心配してたんだよ」と『まー坊』は泣くジェスチャーをした。
私はお父さんのピグで答えた。
「ごめんごめん、ちょっと病気になっちゃってね。一度死んでたんだよ。wwwww」
「え?死んでたの?それで、どうして生きかえっちゃったの?」
「この『イチゴ』ちゃんが生きかえらせてくれたんだよ」
『イチゴ』は私のピグネームだ。
「そうだよー。私ってお医者さんだからね。一度死んでもすぐに生きかえらせる腕を持ってるの」
しばらく私たち3人は話を続けた。

それからというもの、私はいつもお父さんのピグと一緒に釣りに行ったり、お庭で羊を飼ったり、渋谷でデートをしたりした。
今、私はお母さんにもピグを進めようかどうしようか迷っている。
お父さんがいなくなって一番沈み込んでいるお母さん。ピグのお父さんと私がパソコンの画面で遊んでいるのをどう思うのだろうか?
余計に悲しくなるのかもしれない。「もうやめなさい!」と一言で終わってしまうかもしれない。でもいつか、悲しみが完全に癒えた頃に勧めてみるのも悪くはないと思っている。







このお話は、ここで終わりにした方がいいのかもしれない。

たぶんその方がいいと思うのだけれど、どうしても書いておきたい事があるんだ。
私が一人でピグをしている時に、「きたよ帳」を開いてみると、『ひろくん』の「きたよ」が残っている事があるんだ。
とても不思議だった。私がお父さんのピグをログインさせている時はお互いに「グッピグ」「きたよ」は必ずするんだけれど、そんな記憶がない日に時々「きたよ」が残っている。
そのうち、私がピグをやっている時に、勝手にお父さんのピグがログインしてきたとしたら、怖いかもしれない。ひょっとして、うれしいのかもしれない。
そしてそんな日が必ず来るような気がしている。




おわり




おおー、「ピグ小説」だー(笑)
ツイッター小説でピグをネタにしたものは書いた事があったんですが、こんな長い物をまさか書くとは思いもしませんでしたよ。
でもまあ、ピグをやってない人にはわからない部分もあるとは思いますが、そういう人にはピグを始める事をお勧めしま~す。
将来、このピグのようなサービスはきっとネット上の超リアルな仮想空間のコミュニケーションに発達して行くと思いますね。そういう時代まで生きていたいものです(笑)

ところで、上の画像の男性の方が僕のピグです。どこかで見かけたらよろしくね。

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Commented by 春待ち りこ at 2012-02-11 22:36 x
こっ。。。これは。。。
毎日、ピグ三昧な私にはとても。。。共感できる作品です。
そりゃ、もう映像付きでバッチリです。

それにしても、切ないお話でしたね。
私のアメブロのお友達が一昨年、突然なくなって
だけど、ピグの部屋は今もあって
時々、ブログ仲間が
お供え物みたいに食べ物を置いていったりしています。
不思議な光景です。それにとても悲しい。
あの部屋にある日、彼のピグがやってきて
「ひさしぶり」なんて言い出したら。。。
死んだなんて、嘘だったんだと思っちゃうことでしょう。
仮想空間とは、そういう不思議なところです。
真実も嘘も夢もみんな入り交じって見分けがつかなくなる。。。
ふと、そんなことを考えました。
時間を超えて、贈られた誕生日のプレゼント。。。
死んでしまった人から、ましてや身内から
本当にそんなものが贈られてきたら
「なんで、ピグなんだよ。。。」と言いながら、私は絶対、泣きます。。。

楽しみました。ありがとっ♪
Commented by marinegumi at 2012-02-13 12:48
りこさんこんばんは。
ありがとうございます。
ぼくも結構はまっている方かなー
ピグを3つ(友達紹介のアメGの関係で)作っちゃったんですけど、今は1つは放置で、2つで遊んでいます。
だけど、思うにピグをしてない人はこの作品に共感できるのかなーというところが心配ですね。

ピグが進化して、もっとリアルな物になっていくとそんな物語もたくさん生まれそうですね。
自分のピグに人格を与えることができるようになって、ログインしてなくても勝手に行動する機能が付いたりすると本人が死んでしまっても仮想空間では生きているなんてね。
さらにそれが進化すると、自分の人格そのものが仮想空間にコピーできる時代がくるかもしれませんね。
すると、肉体は滅びても人格はずっと生き残るなんていうことになりますねー
死んで、気がつくと仮想空間に生きている自分を発見するなんてね。
これはもうSFの世界ですよねー
でもでも、必ずそういう時代は来るはずです。
Commented by haru123fu at 2012-02-13 18:42
すみません。アメーバピグ。。。
どうもいまいち理解できません。???(@Д@;

たとえば、私が突然死するとblogはそのまま残りますよね。
すると、私のblogにUPされた朗読はいつまでもそこで語り続ける。
ということになるのとにてるのかなあ~。知識不足ですみません。(ノ_-。)
Commented by marinegumi at 2012-02-13 19:03
haruさんこんばんは。
ほらー
僕の心配したことが~(笑)
ピグをやっていない人には伝わりにくいですよね。
僕は結構始めたのが早かったですよ。
アメーバブログを使おうかと思って登録すると、ピグというものが作れるらしいと思って、作ってみました。
これはヤフーのアバターみたいなものかと思っていたので、あまり興味も引かれず、ほったらかしでした。
ところが家族、親せきや、その子供たちがどんどんピグを始め出したので、どんなものだろうと実際に自分のピグを動かしてみました。
これはネット上の仮想空間で自分の分身を遊ばせることが出来るんですよね。
はるか未来のことだと思っていた自分は家にいながら世界中を旅することができる、人と出会う事が出来る、そんなSFのような世界が割と身近なものなんだと思わせてくれますよ。

haruさんもやってみればいいのに。
by marinegumi | 2012-02-11 08:15 | 掌編小説(新作) | Comments(4)