ムーンライトセレナーデ (2枚)

演奏:デオダート


演奏:グレンミラー楽団



カランと、ハイボールの氷が音を立てた。
するとそれが合図だったようにアナログレコードに落ちる針の音がした。
スースーと寝息のような、盤面と針のこすれる音が数秒聞こえ、演奏が始まる。
その音楽に包まれると、自分が今生きているのが西暦で何年なのかわからなくなった。
と言うよりもそんな事はどうでもよくなったのだ。
レコードを失ってしまい、実に長い間その曲を聞いた事がなかった。
しかし頭の中ではその曲への思いが、今にもはち切れそうなまま残っていたのだ。

カウンターの左に座っている客にカクテルを作っていたマスターは、こっちを見て軽くうなずいた。
数日前、話題になったあのレコードの事を覚えていてくれたのだ。
それを私が一杯目のハイボールを一口飲んだタイミングでかけてくれたというわけだ。

曲は「ムーンライトセレナーデ」
演奏はデオダート。
私の世代ではそうなのだ。
そのレコードのライナーノーツに書いてあったグレンミラーと言う楽団のバージョンは聞いた事がなかった。

私は無意識に半球を描くガラス越しに夜空を見上げた。
若い頃のように無意識に月を探した。
大きな月がぽっかりとそこには浮かんでいた。

半分ほど演奏が進んだ時、わずかに針が跳び、曲の一部がショートカットされる。
マスターを見ると、苦笑いだ。
彼は近づいて来ると、二杯目のハイボールを置きながら言った。
「重力の問題ですね。安物のプレーヤーだから針圧の調整が出来ません」
そういうわけか。
この異星の重力は地球よりもわずかに軽いので、地球で作られたプレーヤーでは音が跳びやすいのだ。
「まあ、それもしょうがないよな」
私は新しいグラスに口を付けると、もう一度夜空を見上げた。
地球で見た月の、倍以上の大きさに見える毒々しいオレンジ色の月が、さっきよりわずかに南に移動していた。
今はもうだれも住んでいない地球の事を思い出す。
地球の月は粉々に破壊され、今や地球の周りを輪になって回っている。
それはそれで美しくはあったけれど。

そして、もう一度針が跳んだ。




おわり



まず、トゥーサ・ヴァッキーノさんの「地球から来た男」がありました。
それを受けて書かれたのが矢菱虎犇さんの「Antonella」です。
どちらも、舞台は地球以外の場所の酒場で、アナログレコードがモチーフ。
地球に思いをはせる主人公、と言う共通点があります。
どちらもとてもそのムードが好きです。

そういうわけで勝手に同じようなモチーフで作品を書いて、勝手に競作してしまいました。
あしからどぅ~(笑)

仕事中に書いて(ひまかよ!)即アップしました。

haruさんがこの作品を映像とともに朗読してくださっています。

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Commented by haru123fu at 2012-03-12 18:08
わーぉ!競作だ!凄い凄い!
Commented by haru123fu at 2012-03-12 18:36
なんどもスミマセン!とにかく舞い上がっちゃって。凄ッ( ̄○ ̄;)!
虎犇さんの「Arrivederci」も画像をそのまま使ってと
何度も試みたのですが、どうしても途中でエラー発生。
どうして??わからん!!
と言うことで、音だけ取って朗読しました。

海野さんのこの作品、朗読したいのですが。お願いします。
ちなみに先に動画を取れるかどうか試したのですがやはり
中途で、エラー。。。音だけ取って別画像になるのですが。(^^;
Commented by marinegumi at 2012-03-12 19:57
haruさんこんばんは。
最初のコメントは、アップしたてで、あちこち修正途中にいただいたようですね。
早い早い!

勝手に共作させてもらいました。
ふと気が付くと仕事がひま。
それー!とばかりに書きあげて、即投稿までやってしまいました。
朗読もちろんOKですよ。

エラーですか?
お互いにパソコンは詳しくないので、そう言うのは困りますよね。
まあ、画像をそのまま使う事はないと思いますよ。
haruさんのイメージで選べばいいと思います。
Commented by りんさん at 2012-03-13 00:07 x
今、矢菱さんのを読んできて、こっちに来ました。
いいですね。
誰も住んでいない地球、破壊された月、時々針が跳ぶセレナーデ。
悲しいけど、グッときます。
Commented by 春待ち りこ at 2012-03-13 07:06 x
また、みなさんで素敵な競作ですね。
どれも、どこか見覚えのあるような。。。
それでいえ、初対面のような。。。
新感覚で面白かったです。( *´pq`)クスッ
月が破壊されて
わっかつきの青い地球
想像すると、宝石のようだけど
住めないんですね。。。切ない
針が跳ぶ瞬間の哀愁と諦めが混じって
「ムーンライトセレナーデ」のメロディーと共に
伝わってくるようでした。

楽しみました。ありがとっ♪
Commented by 矢菱虎犇 at 2012-03-13 22:09 x
お~競作だぁ~
レコードプレイヤーの針って、レコード盤を傷つけないように軽~く軽~くしてあるから、よくポ~ンと飛んでましたねぇ。懐かしい。
それにしてもフュージョンなムーンライトセレナーデ・・・ボクは初めて聴きました。
Commented by marinegumi at 2012-03-14 00:27
りんさんこんばんは。
ちょっと反省しています。
他の2作品に比べて、ムードがあまりないような気がします。

>誰も住んでいない地球、破壊された月、時々針が跳ぶセレナーデ。
道具立てはそろっているんだからもうちょっといい作品に出来た様な気がするんですが、仕事中でしたので(笑)簡単に完成させすぎちゃったかなー
Commented by marinegumi at 2012-03-14 00:34
りこさんおはようございます。
競作と言うか、お二人に無理やり割り込んだ感じではありますが。

ちょっと反省しています。
これってやっぱり本家のグレンミラー楽団の演奏の方が良かったような気がしてきました。。
そうだよなー
好きなのはデオダートなんだけどムードがあるのはやっぱりあっちなんですよね。
Commented by marinegumi at 2012-03-14 00:41
矢菱さんこんばんは。
高級なレコードプレーヤーなら調整できるんですけど。
また、垂直に立てて演奏できるプレーヤ―も有りましたね。
ああいうものだと、この星でも、無重力空間でも使えますよね。
まあ安物のプレーヤーでもカートリッジの上にちょっとした重りになるものを置いてやれば解決なんですが、それでは小説になりません。

デオダートは若い頃のお気に入りのミュージシャンでした。
Commented by もぐら at 2012-03-14 17:15 x
はじめまして。
いや~なんだかちょっとテレくさい・・・。
さとる文庫にコメントをいただいて嬉しかったです。
で、はじめましてなんだけど、はじめましてじゃなくて。
えーと、はじめまして。

haruさんのところで朗読を聞いて、みなさん競作ですね。
楽しい!
ヴァッキーノさんの作品が印象的で、それに続く矢菱さんの作品も
海野さんの作品もステキです。
色や温度や光も感じます。

いつもお邪魔しているんですが、読み逃げです。すみません。
これからもよろしくお願いします。
Commented by marinegumi at 2012-03-14 20:39
もぐらさんこんにちは。

「さよならだけど、さよならじゃない」(やまだかつてないウインク)なんて曲がありましたね。
はじめましてだけど、はじめましてじゃないびみょーな間柄?(笑)

こういうの本当に楽しいですよね。
人さまの作品を読んで、ちょこっと思いついたらコメント欄にお話を書いちゃったりしますが、これはその延長みたいなものです。

そうそう、今度雫石さんの「倉田看護師の手」にインスパイアされた作品を近いうちに書こうと思っています。

僕の方はもぐらさんのブログを盗み聞きですね。
聞き逃げはせずにずっと盗み聞き?
by marinegumi | 2012-03-12 17:55 | 掌編小説(新作) | Comments(11)