空を見ていた (5枚)

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空を見ていた。
その少年はさっきからずっと空を見上げていた。

私の仕事場の窓から見下ろす事が出来る小さな公園。
そのベンチに一人で座っている少年がいた。
もう30分くらい前に目の隅で、ベンチに座っている男の子らしい人影に気が付いてはいたのだけれど。
あれからずっと少年がそこに座り続けていた事をふと疑問に思った。

同僚に聞こうとして「ねえあの子…」と、言いかけた。
「なに外ばっかり見てるのよ。さてはさては、今日はデートで仕事も手に着かないってか?」
そう言いながら笑って部屋を出て行ってしまった。
ため息をつきながらもう一度公園を見た。
私の心臓がドキンと一つ、大きく打った。
少年が泣いていたからだ。
空を見ているだけなのに、何を泣く事があるんだろう。
ひょっとして迷子?
そう思うとますます気になった。
少年は大粒の涙をこぼしながらただ空を見上げていた。

ふと我に返ってよく考えると、不思議だった。
その男の子は後ろ姿しか見えていなかった。
しかもベンチまでの距離は遠く、少年はごく小さくしか見えていない。
だとするとどうしてその子が泣いていると判ったんだろう。
大粒の涙を見た気さえしたのはどうしてなんだろう。

同僚が戻って来たのでもう一度聞こうとした。
「ねえ。あの公園のベンチに座っている…」
そう言いながら外を指差した。
彼女は笑顔で小首を傾げ、「ん?」と言った。
「あのベンチで彼氏と待ち合わせ?やめなさいよ。めだちすぎ!」
そう言いながら席に戻った。
また、心臓がドキンと大きく打った。
あの子が見えてない?
いやいやいくらなんでもそんな事、と気持ちを机の上の書類に戻した。

ひとしきり仕事に没頭し、退社時間になった。
公園を見降ろすと、さすがに少年の姿は消えていた。
会社を出て歩き始めると、それが当り前のように足は公園へと向かった。

夕暮の公園はそこだけがなぜか別世界のような空気に包まれている。
少年がいたベンチに私は座り、少年と同じように空を見上げた。

ただ、空を見上げた。
私は何の目的もなく、空を見上げるためにだけ空を見上げた。
少年があれほど長い時間見ていたそれと同じ空を見ようとして。
そして今までの人生では、何か目的があってこそ空を見上げていたんだと言う事に気が付いた。
それは本当には空を見ていなかったんだという事に気が付いてしまった。
ただ純粋に空を見るためにだけ空を見上げると、そこには本当の空があるんだと。

空はつながっていた。
あらゆる国へと広がっていた。
そして宇宙へさえも果てしなく繋がっていた。
遮るものは何もなく、あらゆる国の人々の思いを感じる事が出来た。
遠い何億光年も向こうの天体の動きさえ感じている私がいた。
そしてさらに、その空を通して目に見えないものさえ感じる事が出来た。
この世の中に起きる不思議な出来事や、これまでに起こった数々のありえない奇跡まで。
そう言ったこの世のものではない想像を超えた世界の存在までも感じていた。
少年がやって来た、ありえざる世界さえも。
私はそのたくさんの思いに満たされ、あふれ、それが自然に涙になってこぼれ落ちた。

そう、たぶん。
少年が空を見ていたためにその公園の空だけがしばらくの時間、開かれていたのかもしれない。
やがてその空が雲に覆われ闇が濃くなるにつれ、閉じられて行くのがわかった。

ポン、と肩をたたかれて振り返った時もまだ私の目には涙が少し溜まっていた。



おわり



仕事で、テクノポリスに行きました。
兵庫県にある科学公園都市です。
ここには大型放射光施設「SPring-8」(スプリング‐エイト)があります。
広大な土地にこの放射光施設を利用する多くの会社が集まり、住宅も作られ、学校も小学校から大学までそろいました。

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なにしろ広いので、会社や色んな施設が密集しているわけではなく、空も広々と見えて気持ちがいい場所です。
そこで空の雲を見上げて、思わず写真を撮ってしまいました。
雲がずんずん繋がっている感じがすごかったので。
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そして2枚目の写真はこの繋がった雲の一部なんですが、放射状のすじは何なんでしょう?
雲の陰に太陽があるんですが、それなら光が放射状になるんじゃないかと思ったり。
これは雲が放射状になっていますよね。
放射光施設がある科学公園都市にふさわしい雲ではあります(笑)

そう言うわけで、まだまだ毎日が「空見の日」です。

「空見の日」の作品を考えている時に、一度短い物を書いては見たもののあまり気に入らなかったので、それは捨ててしまうつもりで別の物を書きました。
それが「空の住人」です。
その最初に書いたものを後で読み返してみるとそんなに悪くもなかったので、かよ湖さんのブログの「空見の日」作品「空を見る」のコメント欄に上げたんですが、かよ湖さんから「もったいないんじゃない?」と言われ、その気になって少々手を加えて、形にしたのがこの「空を見ていた」です。

haruさんがこの作品を映像とともに朗読してくださっています。

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Commented by かよ湖 at 2012-04-02 01:07 x
やはり海野さんのブログで、きちんとした形で読む方がいいですね。
空。そら。くう。から。「空見の日」から「空」への想いが少し変わったように感じます。特に、海野さんの作品が1番そのような影響を与えているのかも知れません。
不思議な世界を旅しているような気分になる作品を、ありがとうございます。
そして、雲の写真。より、神秘を感じさせてくれますね。
Commented by marinegumi at 2012-04-03 13:55
かよ湖さんこんばんは。
コメント欄のものは、前半が弱かったですね。
後半を受けるにはもうちょっと肉づけをした方がいいと思って、こうなりました。

「空」イコール「くう」と考えるとこの世が「空」なんですよね。
そこに地球やいろんな生命が存在する。
たぶん宇宙そのものが「空」の中で起きている現象なんでしょう。
Commented by もぐら at 2012-04-04 23:21 x
こんばんは。
初めて雲が繋がっている写真を見たとき、銀河鉄道のレールみたいだな
と思いました。
そして最後の写真を見たとき、汽笛が鳴ったと思いました。

そんなことを言うのが恥ずかしかったんですが。エヘ。
でも何度見てもそう見えるんです。
Commented by marinegumi at 2012-04-05 01:08
もぐらさんこんばんは。
おおー、銀河鉄道!
もちろん宮沢賢治ですよね。
「ブルースカイ鉄道の朝」って感じかもしれません。
でもでも、言われて改めて見るとけっこうすごい写真ですね。
そして汽笛が鳴る。
放射状になっているのは蒸気が噴出しているのかもしれません。

そうかそうか、この雲の上をまさに今、汽車が走っているというイメージですね。
by marinegumi | 2012-03-28 02:58 | 掌編小説(新作) | Comments(4)