まりん組・図書係 marinegumi.exblog.jp

海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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図書室 (3枚)

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僕は図書室が好きだった。
学校の図書室はいつもしんとして、そこだけ違う空気が流れているような気がした。
生徒たちが授業を受ける教室は、この図書室がある棟(むね)とは別になっていて、授業中の音や、休み時間の騒音もほとんどここには聞こえて来ない。
北側の窓は中庭に、南の窓は雑木林に面しているので、運動場からの声も聞こえない。
生徒たちも、放課後にはここにやって来るけれど、みんな「図書室では静かに」という掲示の文章を、おかしいほど真剣に守っていて、ここが騒音にさらされる事はなかった。

そう、本当に僕は図書室が好きなんだ。
真夏の太陽が差し込み、冷房も入っていない蒸し暑い図書室が、あの「雪の女王」を手に取れば、たちまち冬の冷たい空気に満たされた。
別の本棚から「白鯨」を手に取れば、山の中のこの学校の建物が、たちまち大きな帆船に姿を変えた。
ここにはありとあらゆる季節があるし、人がいる。ありとあらゆる場所や、国がある。
ありとあらゆる言葉と、数字。希望や、絶望や、様々な思い。
そして、宇宙さえも広がっているのだ。

僕はずっとここにいる。
いじめられて教室へ行けず、図書室に一人閉じこもっていた時に迎えに来てくれた、あの少女の名前も忘れてしまった。
それほど長く僕はここにいる。
図書係の生徒たちも先生も、次々に入れ替わった。
本の数が増え、本棚が増やされ、新しい本が並び、古くなって傷んだ本は処分された。
それは身を切られる思いだったけれど、いつか処分された本の数さえ忘れてしまった。
そんなに長い時間、僕はこの図書室で月日を重ねている。

でも僕の姿は子供のままだ。
僕が死んでしまったあの日のままなんだ。

気が付くと僕はここにいた。
一番好きだったこの図書室に一人で立っていた。
そしてそれから何処にも行かず、毎日ここで本を読み続け、心だけは大人になって行った。
生きていれば本当に経験できたはずの人生。
それをここにある本だけで経験して、知識だけはすっかり大人になった。
そんな僕が、まだ少年の姿のままでここにいる。


  さらにたくさんの年月が過ぎて行った。
  図書室にはひと時、もっと静かな時間が訪れた。


静かだったこの図書室が今は騒音の中にある。
本はすっかり運び出され、毎日鈍い重機の音が響いている。



おわり



もうすぐ仕事終わりという頃に時間が出来たので、さっき思いついたお話をアップします。
これは先日の「屋上」みたいな作品をもう一本書いてみたいと思っていろいろ考えていると浮かんだものです。
最初は少年がいる場所はデパートの屋上だったんです。
昔遊園地があったデパートの屋上に、なくなってしまった後もそこにいるみたいなね。
それを図書室に変えてみました。
ブログトーナメントにちょうど「図書館に関する記事」があったからなんですが、これは変えて正解でした。
デパートの屋上のままで書くのに行き詰っていたんです。


この作品は「図書館に関する記事ブログトーナメント」に参加していましたが、準決勝で敗れ、決勝戦まで進む事ができませんでした。
応援ありがとうございました。
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Commented by りんさん at 2012-04-20 23:27 x
図書室って、独特の雰囲気ありますよね。
本好きの子供が、図書室で心や知識だけ大人になっていくのが切ないですね。
この建物が壊されちゃったら、少年はどこに行けばいいのでしょう。悲しいですね。

トーナメント参加したんですね。
応援します^^
Commented by marinegumi at 2012-04-21 08:40
りんさんこんばんは。
仕事で時々いろんな学校へも行きます。
古い学校っていいですよね。
特に図書室と、理科室(理科準備室とかねー)なんかに入ると眺めてしまいます。
何か小説のヒントを探してしまいますね。

今回はこのトーナメントのおかげで、行き詰っていた捨てられる運命のお話を完成させる事が出来ましたね。
よろしく。

Commented by haru123fu at 2012-04-21 19:47
トーナメントは、4月23日からですね。応援しま~す。
とっても切ないけれど美しい作品なので、多分大丈夫でしょう。
応援団もついていることだし。。。(^O^)!
トーナメントが終了したら、朗読させてくださいね。
Commented by marinegumi at 2012-04-21 21:04
haruさんこんばんは。
よろしくお願いしますね。
え?
投票と、朗読、両方ですが。

ところでところで、僕はこの作品を朗読してみました。
録音もして一度聞いてみたのですが、まあったく!だめですね。
声は出てないし、活舌は悪いし。
少々なら目をつぶって…と思っていたんですが、これはもう絶対的にNGでした。
これは作者の特権ですが、自分で読みやすいように書きなおしたりしながら読んで行ったんですけどねー
聞くに堪えず消してしまいました。
当分挑戦する気にもならないでしょう。
by marinegumi | 2012-04-19 18:34 | 掌編小説(新作) | Comments(4)