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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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再会 (10枚)

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   僕は「生まれ変わり」なんて言うものがあるなんて
   そんな事は信じてはいなかった
   でもこうやって新しい体で生きているからには
   信じないわけには行かなくなってしまった
   そうだったんだ
   僕たちのこの世の仕組み
   生命(いのち)のシステムはこういう事だったんだ
   肉体はほろび、精神はまた新しい肉体に宿る

愛犬のココを毎朝10分ほど、高校に行く前に散歩させるのは康介の役割になっていた。
両親とも早くに仕事へ出かけてしまうし、康介の行っている高校は目と鼻の先にあり、朝の時間に余裕があった事もあり、自然にそうなってしまった。
散歩は毎朝ほぼ同じ時間に出かけるけれど、ココはトイプードルという小型犬なのでそんなに長い時間をかける必要はなかった。
いつもと同じコースを、ごくゆっくり歩いたとしても15分もあれば帰って来られるのだ。

その散歩の途中に時々会う女の人がいた。
たぶん30前後の長い髪の女の人だった。
彼女も康介と同じように犬を散歩させているのだが、毎朝決まって会う訳ではないので、その日の気分で時間やコースを変えているんだと思った。
いつからかココは、その女の人の連れている犬に会うと立ち止まり、見えなくなるまで見送るようになった。
他にも犬を散歩させている人を見る事は結構多いけれど、ココはその女の人の連れている犬にしか興味はないようだと康介は思った。
その犬はココと同じトイプードルで、色は黒だった。
ココの毛色はと言えば、いわゆるアプリコットという明るい色だ。
ココはオスだけど、ひょっとしてその黒いトイプードルはメスなのかもしれない。
いつかその女の人と口をきく事でもあれば、それを確かめてみようと思っていた。

その女の人と愛犬とは同じ道をすれ違う事もあるし、遠くの道を歩いているのを見かけるだけの事もある。
近い時はもちろんだが、かなり遠くにいてもココは必ず気が付いた。
そして、リードを引っ張っても動こうとせず、見えなくなるまで見送るのだ。

時には同じ細い道をすれ違い、犬と犬が触れそうになる事もある。
そんな時、女の人は康介に何も言わず笑顔で会釈をする。
そしていつからか、康介はその女の人の目に、見覚えがあるような気がしてしょうがなくなっていた。
わずかに青みがかった瞳の切れ長のあの目はいつか見た事がある。
康介は確信を持っていた。

   僕は何かを思い出そうとしていた
   それは僕の前世と関係があるように思えた
   僕が新しい体で生まれ変わったのは
   間違いのない事だったけれど
   前世での気憶はとてもあいまいで
   まるで霧がかかったようでもどかしいものだった

ある日曜日の事、康介は母親に何となく気になっていたその女の人の事を話した。
「散歩で会う女の子?」
母親はそう言いながら笑顔になった。
ここは康介の家の庭先で、母親は冬の間に殺風景になってしまった庭に、色んな花のプランターを並べている所だった。
「女の子、っていうほど若くはないけどさ。30前後の女の人」
康介が言うと。
「あんた、熟女が好みだったっけ?」
と母親は手を止めて立ち上がって康介の方を見た。
「違うよ、そんなんじゃなくて。ただなんか見覚えがあるのに思い出せなくてさ。なんかもやもやしてると言うだけだから」
「もやもやね?むらむらじゃなくてよかったわ」
「なに言ってんだよ!」
ちょうどその時に、噂をしていた女の人が康介の家の前を犬を連れて通りかかった。
いつものように会釈をする。
「あの人だよ。今言ってた…」
女の人が通り過ぎてから母親に言った。
「あー、なんだかお母さんも見覚えがあるような気がする。誰だったっけ?」
そう言いながら、すぐに庭の手入れに集中してしまった。
ふと見ると、部屋の中のココが後ろ脚で立って窓ガラスに前足を付けてこっちを見ているのが目に入った。
「あ、そうだ。ココに餌をやらなくっちゃ」

   僕は思い出そうとした。
   それを思い出す事が自分にとっていい事なのかどうなのか
   それは解らなかった
   たぶん思い出さない方がいい様な気がしたけれど
   それはもう止められなかった
   毎日必死で思い出そうと考え続けた

ある日、高校から帰って来ると、康介はいつものように台所へ行って冷蔵庫から牛乳を出して飲んだ。
「こらー、パックごと飲むのはやめなさいってば」
夕食の支度をしていた母親が言った。
「いいじゃんか。もう少ししか残ってない。全部飲んじゃうから」
二階に上がりかけた康介を母親が呼びとめた。
「この前言ってたでしょ?あの女の人」
「ああ、黒いトイプードルの?」
「そう、あの人誰だかわかったわよ。康介の担任の前川先生のお姉さんなんだって。お隣の奥さんが教えてくれたの」
「えー?そうなの」
「それがさー、前川先生とは双子なんだって。それで見覚えがあったんだよね」
「初耳だなー」
「34歳で独身だってさ。康介、可能性あるよ」
「だから、そんなんじゃないってば!」

   僕は夢を見ていた。
   美佳が僕の顔を覗き込むのがうすぼんやりと見えた
   その目にはいっぱい涙があふれていて
   僕の名前を呼ぶのも聞こえた
   僕はうれしかった
   最後の最後まで病院に来てくれた事が
   好きだったよ美佳
   僕たちはずっと一緒に生きて行くはずだったのに
   ごめんね、美佳

   目が覚めると悲しい思いだけが残っていた
   その人の名前も顔もどこか遠くの
   カギのかかった記憶の箱の中だった

康介はその日もココの散歩に出かけた。
そして家を出てから5分ほどで、久しぶりに黒いトイプードルを連れた女の人に出会った。
このまま行くと、同じ道をすれ違いそうだった。
歩きながら「前川先生にはいつもお世話になっています」と、そう言った時の彼女の意外そうな顔を想像していた。

その時、急にココが走りだした。
ゆるく掴んでいたリードが手から離れてしまう。
ココは一目散に黒いトイプードルに向かって全速力で走った。
そして、飛びつくかと思った時、ココは女の人の足にまとわりついたのだ。
笑顔で彼女がしゃがむとココはぴょんぴょん跳ねて彼女の顔や手をペロペロなめ続けた。
ちぎれるほどにしっぽを振っている。
「ごめんなさい、美佳さん」
ぼくはココのリードを引っ張ったが、必死で離れようとしなかった。
「どうして私の名前を知ってるの?」
と彼女は康介の方を見た。

ココは自分が前世で愛したその人が今、自分の目の前にいるのをはっきりと理解していた。
人間として生きて来た17年間のたくさんの思い出を全て理解し、納めておくには犬の脳はその容量があまりに少なすぎたのだ。
だからその記憶の全てをいつでも自由に取り出せないでいたのだった。
でも今は違う。
ココの頭脳はフル回転し、全てを思い出していた。
犬として美佳と再会してしまった悔しさと悲しみの入り混じった、狂おしいほどの喜びを体全体で表していた。

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おわり



これも仕事中の成果ですねー
仕事の方はどうなってるんだ?なんて言う心配はいりません。
仕事もしながら、ごく短時間に集中して書いていますからね。

ところで、ここのところごく単純なタイトルがお気に入りみたいですね。
しばらくこう言った感じで行きましょうか。


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Commented by konnakanjiyakedo at 2012-04-21 21:06
こんばんは。
散歩中寄らせていただきました。生まれ変わりを感じる瞬間って、めったにないけれど、あったらきっと、確信に近いものを得られるんでしょうね。生まれ変わりについて感じたいって思いました。
Commented by marinegumi at 2012-04-21 21:43
こんな感じやけどさん?こんばんは。
散歩中に散歩の話に行きあたったと言うわけですね。

嘘でもいいから自分に前世の記憶みたいなものでもあれば、死ぬ恐怖が少しでも和らぐかもしれませんね。

犬の散歩中にけっこういろんな小説のアイデアが浮かびます。
そのものズバリ、散歩のお話もいくつかこのブログにありますよ。
Commented by 春待ち りこ at 2012-04-22 00:55 x
人間が、人間として生まれ変わるとは限らない。。。訳ですね。
そして。。。康介くんではなく。。。ココだったのですね。
なんか。。。切ないな。
前世は。。。15歳で幕を閉じ
現世は。。。犬
((+_+))なぁんてこったい!!!

来世に期待!!!してしまうのは
私だけでしょうか?

面白かったです。楽しみました!!!
ありがとっ♪
Commented by marinegumi at 2012-04-22 01:05
りこさんこんばんは。
あちこち細かく修正している最中に読んでいただいたようですね。
ココの前世の少年は15歳を17歳に引き上げました。
なぜでしょうかねー
真剣に恋をするには15歳はちょっと幼すぎると思ったからかな。

犬の散歩は本当にいろんな物語を生みだしてくれますね。
Commented by haru at 2012-04-22 08:29 x
作品のペースが早いですね。(笑)
↓ この作品朗読したのに消しちゃったんですか!
もったいないなぁ~。海野さんの朗読聞きたかったです。残念!
Commented by marinegumi at 2012-04-22 13:41
haruさんおはようございます。
なんか、ちょっとスランプ発言をして以来好調ですね(笑)
まあ、それほど好調不調の波は先がわからないという事なんでしょう。

朗読ねー
お聞かせしたいのは山々ですが、自分で許せる範囲の出来でなければだめですよね。
Commented by りんさん at 2012-04-22 15:10 x
そうか…犬の記憶だったんですね。
17歳しか生きられなかった少年の記憶だったんですね。
犬の脳では納まらないっていうところが、悲しくて切ないですね。
美佳さんが34歳独身っていうのも、彼のことがあったからかな…とか思うと、みんな幸せになってほしいなあと思ってしまいます。
ちょっと、感情移入しちゃいました。
素敵なストーリーでした。
Commented by marinegumi at 2012-04-22 16:05
りんさんこんにちは。
この作品は自分が散歩させている犬が人間の生まれ変わりだったら…
というアイデアだけで書き始めてしまいました。
書きながら考え、考えながら書くという感じで、それにしては結構まとまったお話になりましたね。
こんなことがあるからお話を書くのはやめられないのかも。
Commented by 雫石鉄也 at 2012-04-24 13:31 x
男-女 男-犬 犬-男 犬-女
と、このアイデアで四つ話が出来ますね。
この作品は、犬-女のパターンですね。
さらに、犬でもメスとオスでも違う話になりますし、いろいろ楽しめますね。
Commented by haru123fu at 2012-04-24 18:44
図書室投票してきましたよ。もちろん海野さんに!(笑)
Commented by marinegumi at 2012-04-24 20:45
雫石さんこんにちは。
最初は、犬―犬にするかどうか迷いました。
結局犬―女だったんですが、と言う事は五つの違うパターンですね。
いやいやまだまだパターンは考えられますよー
今思いつきました。
書いちゃうかも。
Commented by marinegumi at 2012-04-24 20:47
haruさんありがとうございます。
川越さんによるトーナメント再開されないかなー
今ならどんなお題でも書けそうな気がしています。
by marinegumi | 2012-04-21 20:42 | 掌編小説(新作) | Comments(12)