オレンジ (2枚)

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夕暮れ時
道路の真ん中にオレンジがひとつ落ちていた
普段なら交通量の多い時間帯なのに車は一台も見えなかった
歩道にいた僕はそのオレンジの所まで歩いた
それはつやつやとした美しい本物のオレンジだった
それを拾い上げた方がいいのか そのまま置き去りにした方がいいのか
僕は少しのあいだ迷った
なぜかそれはただのオレンジではないような気がしたからだ

僕はまだ迷っていた
車は一台も通らず 人の姿も見えない
夕日もさっきから空の同じ所でじりじりしていた

僕はオレンジを拾い上げた
それと同時に道路はたくさんの車に埋め尽くされた
そしてあらゆる騒音や人の声 風の音 鳥の鳴き声が聞こえた
そしてブレーキの音

オレンジはそこに置かれた時に 世界の時間を止めてしまったのだ
その場所が特別な場所で そのオレンジも特別なオレンジで
何億分の1の確率でそれは起きてしまった
僕がオレンジを拾い上げなければ世界は止まったままだったんだ
そして僕が生まれて来たのも このオレンジを拾い上げるためだった
世界に時間を取り戻すためだったんだと言う事がわかった

僕はオレンジを持ったまま 大きなブレーキ音を立てて迫って来る車の前にいた



おわり



道路の真ん中にオレンジがぽつんと一つ置かれている。
そういう光景をさっき実際に見たわけですね。
たぶん買い物帰りのおばちゃんの自転車の後ろかごから落ちたとかそんなことなんでしょうけど。
なんか面白かったので、即、作品に仕上げました。
画像は合成で、実際には写真は撮りませんでした。
だって、車が危ないでしょ。


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Commented by ヴァッキーノ at 2012-04-28 17:11 x
壮大なお話しですねえ。
梶井基次郎の檸檬を出すのもはばかるくらい、
なんとも面白いお話しでした。
ボク、こういうの好きです。
なんでもないものが世界を支配してるってのが。
Commented by haru123fu at 2012-04-28 18:48
運命ってやっぱりあるのでしょうかね。
誰かがどこかでなにかをすることで、
まったく違う未来が広がっていく。

海野さんが掌編小説を書いている。
朗読なんて思いもしなかった私が、その小説を朗読する。
まったく知らないどこかの誰かがユーチューブで、それを聞く。

そんなことを思っていたら、最後のブレーキの音が
聞こえたような気がしました。(笑)
Commented by 春待ち りこ at 2012-04-28 22:56 x
いいですねぇ。。。
こういうお話、大好きです。
文章も美しい。。。オレンジの存在感も鮮やか
まさに海野さんワールドですね。
結末は、シュールで。。。それもまたいいです。
>夕日もさっきから空の同じ所でじりじりしていた
ここの描写が好きです。。。
時間が止まっている姿。。。見てしまった!!!(笑)

不思議な世界観のある作品ですね。
とっても面白かったです。楽しみました。
ありがとっ♪
Commented by りんさん at 2012-04-29 23:06 x
夕陽にオレンジっていうのが、何とも鮮やかな構図ですね。
短い中に、不思議な世界が広がって、とても面白かったです。
時間を取り戻すことが彼の使命だったんですね。
それを思い出したときが、人生の終り?
シュールで切ないラストも素敵でした。
Commented by marinegumi at 2012-04-30 08:44
ヴァッキーノさんこんにちは。
梶井基次郎も真っ青(檸檬だけに真っ黄?)と言うところまで行ってますでしょうか?
>道路の真ん中にオレンジがひとつ落ちていた
と言う書き出しで、ツイッター小説を考えていたものがこうなりました。
Commented by marinegumi at 2012-04-30 08:47
haruさんこんばんは。
おー、運命論ですか?
運命だったのか―と思う事はあっても、運命があらかじめ決まっているとは僕は思いませんね。

>最後のブレーキ音
それが聞こえたという事は、ちゃんと運転手はブレーキを踏んでいるので、車は止まってくれそうですね。
Commented by marinegumi at 2012-04-30 11:17
りこさんこんばんは。
実際に見た光景から連想して行って、お話にするというのが、最近は調子が良いですね。
以前はなかなかうまくいかず途中で捨ててしまう事が多かったです。
結末を考えずにとりあえず書き始めても、途中で素敵な結末が思い浮かぶのが不思議です。

>夕日もさっきから空の同じ所でじりじりしていた
これはちょっと気取ってあまり使わない表現を入れようと思ったところです。
Commented by marinegumi at 2012-04-30 11:22
りんさんこんばんは。
実際に見た光景。
道路の真ん中にオレンジが一つ。
その時、車で通りかかったんですが、他には通る車もなく、何か静かな感じで不思議なひと時でした。

実際は夕暮れ時ではなく、午前中でしたけどね。
オレンジの色を際立たせるために夕暮れにしたというわけです。
by marinegumi | 2012-04-28 16:39 | 掌編小説(新作) | Comments(8)