非常口 (7枚)

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僕がこの世界で、生きて行く意味なんてあるんだろうか?
僕の居場所はこの国にあるのだろうか?
この家にさえ安らげる場所などないと言うのに。
あまりにたくさんの人々の中で僕はひどく孤独だった。
あまりに無意味に過ぎて行く日々を数えながら僕は立ち止まっていた。

ただ一人、僕の事をわかってくれたのは君だったよね。
僕がこんな所から逃げ出したいと言ったあの日。
「じゃー、逃げ出す扉を作ろうよ」
君は笑顔でそう言った。
僕がポカンとしているのを見ながら君は続けた。
「そうだなー。ベニヤ板が一枚と、ドアノブがあればいいね」
そう言うと君は僕の手をひいて外へ飛び出した。
近くのホームセンターに行くと本当に、大きなベニヤ板を一枚とドアノブを買った。
君がお金を出しても足りなかった分は僕が払った。
人がじろじろ見る中を二人でそれを持って帰り、僕の部屋に運び込んだ。
「ドアノブは片方だけでいいね」
表側にそのドアノブをつけると、それだけでベニヤ板は立派なドアに見えた。
「これをどこに付けるのさ?」
そう僕が聞くと、君は天井を指差した。
「これを部屋の壁に付けたとしたら、もし開いても外に出るだけじゃん」
「でもさー、天井に付けて、もし開いたら天井裏じゃね?」
君は少しムッとしたように、口を尖らした。
「とにかくあそこに付けるわよ!」

脚立を二つ並べて、そのベニヤ板のドアを二人でやっとの事で取りつけた。
取り付けたと言っても、ねじで固定したら、そのねじが見えていて、開くような気がしないと言うので、強力な両面テープで張り付けたのだ。
君はその出来上がりに満足したようで、ハミングしながら帰って行った。
一人残った僕は天井のドアを見上げてため息をついた。
窓から庭を見下ろすと、君が門から出て行くところだった。
その後ろ姿が、君を見た最後になった。

人間なんて簡単に死んでしまうんだ。
どんなに頭がよくっても、どんなに可愛くても、どんなに人に必要とされていても。
人間なんて死ぬ時にはあっけなく死んでしまう。

僕は毎日眠る時に、天井にあるドアを見る事になった。
君が思いついて、二人して作った偽物のドア。
あの日、ホームセンターで買って来た物はもう一つあった。
「非常口」と書かれたアクリルのプレートだ。
それは天井のそのドアに取り付けてある。
何かがあれば、あそこから逃げ出せばいい?

僕がこの世界で、生きて行く意味なんてあるんだろうか?
僕の居場所はこの国にあるのだろうか?
この家にさえ安らげる場所などないと言うのに。
あまりにたくさんの人々の中で僕はひどく孤独だった。
あまりに無意味に過ぎて行く日々を数えながら僕は立ち止まっていた。

もう何もかもが嫌だった。
ずっと前から僕は「非常口」を必要としていたんだ。
ドアが取り付けられたあの日から、僕の部屋には脚立がそのまま置かれていた。
君がそう言ったのだ。
「脚立をいつもここに置いとこうね。この世界がどうしても嫌になったらそれに昇って、あのドアを開けるのよ」
そうだ、それは最後に君の姿を見たあの日から2日ほど後の事だった。
電話で君がそんな話をしたのを思い出した。
「ばっかじゃないの」
そう言って僕は電話を切ったのだ。
最後に君のささやくような笑い声が聞こえた。

ベッドに横になり、僕はドアを見上げていた。
涙があふれ、止める事が出来なかった。
本当にもうこんなどうしようもない辛い世界が嫌だった。
君のいないこんな世界は生きて行く価値なんてないんだと思った。
僕は起き上がり、部屋の隅に立てかけてあった脚立を広げてその上に上がった。
ドアノブを回して引けば、それが開くような気がしていた。

ドアは僕が手を触れる前にゆっくりと開いた。
その隙間から明るい日差しが差し込み、緑の木々の風景が細く見えていた。
夜だと言うのにそこはとても明るかった。
僕は自分が脚立の上に立っているのか、ドアの前に寝そべっているのか判らなくなった。
天井のドアの向こうにはドアに対して垂直な世界があったのだ。
ふと足元を見るとドアの向こうとは向きの違う部屋の床がある。
頭は混乱して平衡感覚がおかしくなって、体がふらついてしまった。
とっさにドアノブを掴もうとしたけれど手が滑り、脚立から落ちてしまう。
もう一度あわてて脚立に上がった時にはもう天井のドアは閉じていた。
ドアノブをいくら引いてもそれは開かなかった。
単に両面テープで張り付けられただけの偽物のドアだった。
僕はこのどうしようもない世界で生き続けなければいけないのだと思った。

それから数カ月が過ぎたある日。
学校から帰って天井のドアをなんとなく見上げた。
何かが変わっているような気がしたのだ。
そしてなぜか、そのドアが、僕がいない間に再び開いたんだと思った。
開いてどうなったんだろう?
なぜ開いたんだろう?

それは判らないけれど、その事で何かが変わるような気がしていた。




おわり




ツイッター小説「扉が開いた」の中の一つをグレードアップ(?)したものです。
皆さんはどうなのかは知りませんが、ちょっとしたアイデアがある時に、細かい部分が全く決まっていない時は、とりあえず書き始めて見るというのがいいようですね。
僕の場合ですが。
書き始める事によって、物語の画像が浮かび、また、頭も回転し始めて、お話を展開して行き易くなるんだと思います。
書き始める前は思いもよらなかった、ストーリーを思いつく事がよくあります。

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Commented by haru123fu at 2012-05-31 14:24
彼女は、きっと自分が死ぬことを察していたようなそんな気が。。。
そして、少年とその扉を作ることでいつまでも繋がっていると思いたかった。
ということではないのかな?な~んて、勝手に想像してしまいました。
>それは判らないけれど、その事で何かが変わるような気がしていた。
この最後の一行で、不思議さが倍増しますね。
Commented by marinegumi at 2012-05-31 21:02
haruさんこんにちは。
>彼女は、きっと自分が死ぬことを察していたようなそんな気が
ふーん。
それをいただきましょうか?(笑)
もっと短くまとめるつもりだったんですけど、エピソードをいろいろ思いついてしまって。
なんかもっともっと、この二人の色んな物語を書いてあげたくなっちゃいましたね。

最後の一行はこのお話でただ一つ悩んだ所でした。
何カ月もたってから開かないはずの扉が開いたという確信を持つ。
そこから何が入ってきたのか?または出て行ったのか?
その事によって少年が少しでも生きる目的を見つけられればいいなと言う感じですね。
Commented by ヴァッキーノ at 2012-05-31 21:53 x
なんかこれ、あれですよね。
前にツイッターで連作してたやつじゃないですか?
それを長くしたんですね。
ツイッターの時のサクサクっとした歯ごたえも良かったと思いますが、こっちは、より映像表現的に飛躍したッテ感じです。
長いのを短くするのも面倒ですけど、短いのを長くするのも面倒っすよね。
Commented by marinegumi at 2012-06-01 01:14
ヴァッキーノさんこんばんは。
ツイッターは、あれですね、アイデアの貯金箱と言うか。
なんか新作をアップしたいけど、これと言うのも思い浮かばないなー
と言う時にツイッター作品から物になりそうなのを探すという感じですね。

>長いのを短くするのも面倒ですけど、短いのを長くするのも面倒っすよね。

やだなー
その面倒さがいいんではないですか?お互いに。
いろいろ悩んで作品に仕上げるという作業が楽しいから、誰に頼まれたわけでもないのにこうやって書いてるんですからね。
Commented by りんさん at 2012-06-01 18:44 x
わあ、なんだかいろいろ想像したくなるお話ですね。
このドアは、彼のためじゃなくて、死んだ彼女のためにあるのかも。
こっそり戻ってきてるのかもしれません。

ところで私も、とりあえず書く派です。
セリフとかが突然浮かんできて、そこから膨らませていったりします。
Commented by marinegumi at 2012-06-01 21:18
りんさんこんばんは。
そうそう、最初考えたラストは、この主人公の少年が少しでも明るく生きられる希望みたいなのを予感させて終りたかったんですよね。
それで、ドアの向こうから、誰かがやってきたと。
それは「君」ではないけれども、「君」に代わる大切な人になるはずだ…
と言うような文章があったんですが、省きました。
すべて読者の想像に任せようという感じですね。

とりあえず書くというのは漫画ではあまり考えられないんですよね。
漫画を書いていたから、ストーリーをきっちり組み立ててから描く癖が付いていて、同じ方法で小説も書いていました。
とりあえず書くという方が楽に書けるというのは発見でしたね。
by marinegumi | 2012-05-31 08:45 | 掌編小説(新作) | Comments(6)