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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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顔 (8枚)

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朝、顔を洗い、鏡を見ながら歯を磨いている時にふと違和感を感じた。
「私って、こんな顔だったのかしら」
切れ長の目。ふっくらとした唇。鼻梁はまっすぐですっきりしている。左目の下に小さなほくろ。
ふだん長時間見ている顔はメイクをした後の顔なんだなと、改めて思った。
朝は忙しく、起きるなり手早く化粧をして出かけてしまうし、夜は夜で風呂場でメイクを落とすとすぐに寝てしまう。ノーメイクの自分の顔をしげしげと見ると言う事があまりなかったと言えばその通りだ。
気が付くと、歯ブラシを咥えたままブラッシングも忘れて自分の顔を見つめていた。
ブラッシングを再開し、しばらくするとまたその手が止まる。
自分の顔に感じている違和感は、「自分の顔が自分ではないような気がする」と言うのとは少し違っていて、「この顔はどこかで見覚えがある」そんな感じだった。
毎日見ている顔だから見覚えがあって当たり前なのだけれど、「当り前」で片づけられない何かがあった。
早く着替えて、早くメイクして、早く食事をしなくては…
そう心の別の所ではせわしなく思ってはいたけれど鏡から目が離せず、どんどん時間が過ぎて行った。
これではいけないと無理やり視線を鏡からひきはがした。
まともに鏡を見ずに簡単にメイクを済ませ、あわてて着替えると空腹のままアパートの部屋を飛び出した。
鉄製の階段で靴がわずかに滑り、一瞬ひやっとする。昨日の雨で濡れて滑りやすくなっていた。

通勤の電車の窓ガラスに映る自分の顔は確かに私の顔だった。

会社が終わるまでに、幾度か鏡やガラスに映る自分の顔を見たけれど、今朝感じたような違和感は全くなかった。それはそうだと思った。違和感を感じたのはノーメイクのわたしの顔だから。そうは思ってもやはり一日中自分の顔が気になっていた。
帰り道。
おんぼろアパートまでは電車を降りてから15分ほど歩く。
その道すがら。ふと民家の塀に貼ってあるポスターに目が行った。
「探しています」
そう書かれた大きな文字の下に女性の写真。
訳のわからない胸騒ぎが起きる。写真の下には名前と年齢や身体の特徴と連絡先の電話番号。
近寄って写真を見る。
初めは誰かの悪戯だと思った。誰かが自分の写真をこんなポスターの上に張り付けているのだと思ってはがそうとしたけれど、それはちゃんと印刷されたものだった。
もう一度よく確認するために見直した。
切れ長の目。ふっくらとした唇。鼻梁はまっすぐですっきりしている。左目の下に小さなほくろ。
「なあーんだ。全然似てないじゃん」
何でさっきはこの似ても似つかない人の写真を自分だと思ってしまったのか、解らなかった。

朝、顔を洗い、鏡を見ながら歯を磨いている時にふと違和感を感じた。
「私って、こんな顔だったのかしら」
丸く大きなうるんだような目。薄くてルージュなしでも赤い唇。鼻は丸く小さく愛らしい。唇の右上に小さなほくろ。
ふだん長時間見ている顔はメイクをした後の顔なんだなと、改めて思った。
前にもこんな変な感じを自分の顔に持った事があるような気もしたが思い出せなかった。
マンションの部屋を出てエレベーターで最上階から一気に1階まで降りる。
出口には「プレステージ2001」と書かれたプレート。
足早に歩きながら、ビルの壁に貼られたポスターがふと気になる。
「特別指名手配犯」の文字の下に女性の写真。
心臓がドクンと大きく打った。
近くによってじっくりとその犯人の写真を見た。
丸く大きなうるんだような目。薄くてルージュなしでも赤い唇。鼻は丸く小さく愛らしい。唇の右上に小さなほくろ。
「なあーんだ。全然似てないじゃん」
何でさっきはこの似ても似つかない人の写真を自分だと思ってしまったのか、解らなかった。
そしてこんな愛らしい顔をした人がなぜ指名手配されているんだろうと思った。
ふと、足音に振り返ると自分が出てきたばかりのマンションに警官が5~6人と刑事らしい人が3人入って行くのが見えた。
マンションの前にはパトカーが数台停車していた。

店長を務めるヘアーサロンでの昼休みに、テレビのニュースを見た。
「指名手配犯が潜伏先から逃亡」という文字を背景にしてアナウンサーがしゃべっている。
「共犯者の自供から判明したマンションに警察が踏み込んだ時には、家財道具はそのままで逃走した後でした」
その映像に映っているマンションには何となく見覚えがあった。

朝、顔を洗い、鏡を見ながら歯を磨いている時にふと違和感を感じた。
「私って、こんな顔だったのかしら」
黒目がちの少し垂れた大きな目。いわゆるおちょぼ口。鼻は少し大きめだけれど、それがエキゾチックな印象だ。ほとんど目立ったほくろのない肌。
ふだん長時間見ている顔はメイクをした後の顔なんだなと、改めて思った。ノーメイクの自分の顔をしげしげと見ると言う事があまりなかったと言えばその通りなのだ。
早く着替えて、早くメイクして、早く食事をしなくては…
そう心の別の所ではせわしなく思ってはいたけれど鏡から目が離せず、どんどん時間が過ぎて行った。
これではいけないと無理やり視線を鏡からひきはがした。
手早くメイクを済ませ、あわてて着替えると空腹のまま家を飛び出した。
「おかあさーん。行ってきます」
外へ出ると見知らぬ街だった。
一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。そして自分が誰なのかさえ。
ふと、めまいに襲われてよろよろと後ろの塀にもたれる。しばらく目を閉じ、またゆっくりと開けた。
横を見ると家の門柱に表札がかかっている。
「志水…」
と、声に出して読んでみると何の疑問も不安もなくなっていた。そう、私は志水香織。生れてからずっと暮らしてきた家と、見慣れた街並みがあった。
私は最初はゆっくりと、次第に足早にいつもの駅へと向かった。



おわり



こういうことってあるんですねー、小説を書きかけて、そのまま忘れていたなんてこと。
ふと、「顔」と言うタイトルの付いたファイルがあるのを発見。
読んでみるとほとんど完成している小説で、確かに書いた覚えはあるもののブログにアップしたかどうか定かではない(笑)
一度ブログの小説のタイトルを確かめて、完成させてアップしております。
記憶のあいまいさですねー
この小説のテーマがまさにそれで、ここまで行っちゃうともう、この世界がわけわからん状態ですが。

そうだ!思い出した(笑)
そう言えばこの作品は、りんさんのWANTEDのコメント欄に書いたコントを元にして書いたものだったんですよ。
それもすっかり忘れてました。
コメント欄の作品はきっちりオチのある作品ですが、これはもう全然別の作品になっていますね。

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Commented by ヴァッキーノ at 2012-07-11 21:01 x
いやあ、混乱してきますね。
こういうことありますよね。
本当に自分なんだろうか?
もしかしたら・・・っつう感じで。
鏡をじっくり見るところが
ゾクっとしますね。
Commented by marinegumi at 2012-07-12 00:22
ヴァッキーノさんこんばんは。
そうなんですよねー
見なれたはずの自分の顔を鏡で見て、こんなだったっけとか、写真を見てマジかよーなんて。
まあ、人間なんて細胞が数年単位ですっかり入れ替わっているらしいですから、昔の自分とは別人と思っていた方がいいかもしれませんね。
記憶だけを受け継いでいる。
その記憶があやしくなるとこうなっちゃいます。
Commented by 春待ち りこ at 2012-07-12 20:37 x
うわぁ~
なんて不思議な感覚のお話なんでしょう。。。
人の記憶というのは、あやふやですからね。。。
ねつ造なんてことも、当たり前に行われているし
案外、こんなこともあったりして。。。
自分の存在は、あやふやな記憶のみで
かろうじて。。。現在に繋がっている。
だとしたら。。。不意に入れ替わっても
記憶さえ与えられていれば
自分ですらわからない。。。なんだか怖い気もしますが。。。
あるかも。。。です。(¬_,¬)フッ

朝のバージョンを変えた繰り返しのシーンが
効いてますね。。。素晴らしい!!!

すっごく面白かったです。
最近のお絵かきブログも素晴らしいし。。。
多才で羨ましいです!!!
バンブーをお使いだったんですね。
やっぱり、あのくらいのお値段はするんですね。
私にはもったいない。。。かも。(。 ゝ艸・)クスクス
Commented by りんさん at 2012-07-14 10:12 x
りこさんの言うように、本当に不思議な感覚。
毎日見ている自分の顔なのに、あれ?と思ってしまう。
それは、現実逃避だったりするのかもしれませんね。

ここには3人の女が出てきますね。
最初は同一人物で整形しているのか…などと想像しましたが、最後の「おかあさん、行ってきます」で違うのかな…と思いました。
真相はいかに??
Commented by marinegumi at 2012-07-14 22:37
りこさんこんばんは。
女の人ってメイクしますからねー
男よりもこんな感覚ってあるかもしれないなーなんて思いながら書きました。
まあ、男の自分も、イケメンならいざ知らず、さえない顔だとあきらめてあまり鏡を見る事はないのですが、ふと、しげしげ見ると「こんな顔だった?」と思う事がありますね。
それをどんどん大げさに引っ張って行くだけで出来たお話です。

普段使っているタブレットはインティオスというでかいやつです。
これの古い方を仕事場で使っています。
バンブーの方はあまり使わなかったので人に上げてしまいましたね。
Commented by marinegumi at 2012-07-14 22:47
りんさんおはようございます。
不思議な感覚のお話が不思議なまま、すっきり解決せずに終わっちゃうそんな感じですね。
好ききらいがわかれるお話かも。

うーん、これは何と言うのかなー
登場人物はおそらく同一人物なんでしょうね。
映像で作ると、自分の顔が指名手配のポスターになっていると思って見ると、自分の顔のはずなのに、「なんだ違うじゃん」と思った時にはその人は別の人の顔になっていると言う感じでしょうか?
それの繰り返しですね。

これは不思議なまま終わってしまうお話で、すっきりした解釈を求めてはいけません(笑)
by marinegumi | 2012-07-11 18:13 | 掌編小説(新作) | Comments(6)