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ジョン (4枚)

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我が家の愛犬ジョンは、僕がもの心ついた頃にはすでに家にいた。
僕は僕が思い出せる限りの昔からジョンと一緒に過ごしてきたわけだ。
かといっていつも一緒に遊んだと言うわけでもない。

ジョンは昼間はいつも犬小屋の中で寝ている事が多かった。
幼い僕はお母さんが作った餌をボウルに入れ、犬小屋の中に入れてやる係だった。
なんだかいつも赤い色をした生臭い餌だった。
僕は時々犬小屋の中に入り込み、ジョンのおなかを枕にして眠った事もある。
そう、ジョンはとっても大きな犬だった。
当然力も強かった。
ジョンは他の犬や猫を見かけると、必ず追いかけて飛びかかろうとする。
一度はうっかりリードが手から離れ、本当に猫を追いかけてかみついた事もあるそうだ。
そんな時に、ジョンを引きとめる力が必要だったのだ。
だから散歩はいつもお父さんが仕事から帰って来て、食事が終わってからだった。
当然いつも夜になっていた。

僕が小学生になるとさすがに犬小屋の中には入れなくなった。
その代わりに時々は散歩に連れて行く事も出来るようになった。
いつもの習慣で、ジョンは夜にしか散歩に行きたがらなかったので、お父さんが帰って来てから一緒に行ったのだけれど、5年生ぐらいからは一人で連れて行けるようになった。
僕が塾から帰って来て、外が暗くなる頃に散歩に出かけた。

中学校から高校にかけては、もうすっかりジョンの散歩は僕の仕事になっていた。
散歩をさせていると近所の人が時々声をかけてくれる。
「ジョン。お前は長生きだなー。うちの犬はこの間死んじゃったよ。もっともっと長生きしろよ」
と優しそうなおじいさんがジョンの頭をなでながら言う。
そういえばそうなのかもしれない。
僕が2~3歳の頃にはもう大人の犬だったのだから。
犬の寿命が何歳ぐらいなのかは正確には知らないけど、ジョンは少なくとも18歳ぐらいにはなっているのかもしれない。

高校を出て東京の大学に行き、その関係で就職も故郷からずっと離れた東京で決まり、正月以外はほとんど故郷に帰る事もなく毎日忙しい日々を過ごした。
僕にも恋人が出来て、同棲を始めていたけれど、彼女は一人暮らしの頃から飼っていたトイプードルを連れて来たのだ。
「ちっこい犬だなー。まだ子供なの?」
「3歳だから立派な大人よ」
その時に、忘れていたわけではないが実家のジョンの事を思い出した。
「うちも犬を飼っているんだよな。でっかい犬だぜ」
「へー、何と言う種類?」
「セントバーナードとかだったかな?年寄りだけどまだ元気だよ」
「まさか。あなたが子供の頃からいたって、あなた今何歳よ」
「28歳だけど」
「めちゃくちゃ長生きじゃない?」
「何年か前に帰った時にいつ頃から家にジョンがいるのか聞いてみたんだけどさ。そしたら兄貴が生まれた頃に、迷い込んで来たとか言ってたな」
「お兄さん何歳よ?」
「38歳だよな、確か」
「そんな長生きの犬、いるわけないでしょ?馬鹿らしい」
「ほんとだってば!」
その時、携帯電話が鳴った。
お母さんからだった。
ひとしきり話をして電話を切った。
「何の電話?」
「ジョンが…うちの犬が死んだって。おやじが殺したそうだ」
「殺した?」
「そう。心臓に木の杭を打ち込んで…」



おわり



ツイッターで「幼いころ」の書き出しで10本のツイッター小説を書いたんですが、その過程で140文字に収まらないアイデアが出てきたのでツイッターとは別にショートショートにしたのがこれです。
伏線をどの程度入れるかいろいろ考えました。
「ニンニクが嫌い」なんて言うのを入れると、勘のいい人は、すぐわかっちゃうでしょうね。

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by marinegumi | 2012-09-26 18:30 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

Commented by りんさん at 2012-09-28 18:57 x
ジョンは吸血鬼だったんですね。
驚きました。
そう思って読み直すと、なるほど伏線が難しいですね。教会を怖がったとかでもバレそうだし^^
ジョンは人間は襲わないんですよね。
どうして殺されちゃったのでしょう。人間の生き血を求めるようになっちゃったとか…。
Commented by marinegumi at 2012-09-30 01:20
りんさんこんばんは。
そうなんですよねー
バンパイヤ犬ですね。
アイデアとしてはそれだけしかないので、ばれないように書くと言うのが難しいですね。
伏線が全くないと言うのは駄目ですし。

ジョンは一度ネコに襲い掛かり、首筋に噛みついたんですよね。
だからたぶん近くにバンパイヤ猫もいるはずですよ。

殺されたのは、あまりに長生きなので近所の人が怪しみだしたからなんです。
この家に迷い込んできた時には、すでに50年以上生きていたようです。
しかし、セントバーナードの野良犬なんて目立ちますよね。