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僕のクローン (10枚)

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僕のクローンは笑って僕の腕を掴んだ。
思ってもいなかった機械と機械の間から腕が出て来たのでちょっとびっくりしてしまった。
「もうかくれんぼはやめようか?」
そう言うと狭いすき間から出て来ようとしたけれど、かなり無理をして入り込んだらしく、やっと出て来た時には右腕の肘をすりむいて血がにじんでいた。
「そんなに無理やり隠れなくてもいいのに」
二人は顔を見合わせて苦笑いをする。
「かくれんぼだって本気でやらなくちゃ、すぐに飽いちゃうからね」

宇宙船の居住区は人口重力を作るため、それ自体が回転していて頭の上には回転軸が見える。
その回転軸に、倉庫で探して来た長いロープを2本くくりつけて降ろし、鉄のパイプをくくりつけてブランコを作った。
これに揺られるのはとても気持ちがいい。
時々予測できない動きをするからだ。
床の上にはこれもまた倉庫から探して来た予備の機械類を分解して組み立て直したりして作ったロボットやヘリコプターや色んなおもちゃがあった。
みんな僕と僕のクローンが自分で作ったものだ。
それを備蓄食料の箱で作った地球の街の模型の上を飛ばしたり、歩かせて壊したりして遊ぶのだ。
そうやって僕たちは暇をつぶしながら、宇宙船が目的地に着くのを待っていた。

数ヶ月前、僕たちの乗った宇宙船はどうやら宇宙塵の直撃を受けて船体に穴が空いてしまったらしかった。
らしかったと言うのは僕たちはみんなその時は人工冬眠で眠っていたからだった。
僕が非常を知らせるけたたましい警報を聞きながら目覚めると、多くの大人たちはふたの開いた人工冬眠カプセルの中で死んでいた。
宇宙塵は小さなもので数ミリだったが、船体を貫通する時にコンピューターの一部も破壊していた。
そのため一時的にコンピューターが遮断され、非常覚醒の手順が滞ったのだと、あとで調べてわかった。
そして僕と妹の二人だけが残った。
子供用の冬眠カプセルは非常時でも、すぐには覚醒手順に入らない。
遅れて始まるため、コンピューターが自動で修復され回復してから僕たちは正常に目覚めたのだ。
船体の穴も自動的に塞がれていた。
大きな宇宙船に子供の僕と妹の二人きり。
そして30人以上の大人たちの死体。
最初はどうすればいいのか判らなかった。
数日して、妹は怖がるし、死体が臭い始めて来たのでエアロックから外へ捨てる事を思いついた。
でもどうやって運べばいいのだろう。
コンピューターに尋ねると、いい方法があった。
居住区の回転を止めればそこは無重力になるのだ。
僕は慣れない無重力状態の船内を大人たちの死体を引っ張って移動してエアロックの前まで運んだ。
運び終わると2人ずつエアロックの中に入れ宇宙へと放出した。
最後にお父さんとお母さんを入れる時には僕と妹は抱き合って泣いた。

それから地球時間で何日かしたある日、横に眠っていた妹がいない事に気が付いた。
探し回っているとエアロックの横の格納室にあったはずの子供用の宇宙服がなくなっていた。
そして、エアロックの作動ランプが点滅しているのを見て死ぬほど驚いた。
妹はエアロックからたった今外へ出てしまったのだ。
船外カメラで船の外を探したけれど見つからなかった。
外へ出ただけなら宇宙船と同じ速度で移動しているはずだと思って宇宙船の周りもくまなく探した。
最後には僕自身が外へ出て、安全ロープを引っ掛けてカメラの死角になっている所まで探しに行った。
それでも見つからなかった。
妹は外へ出てから船体に足をかけ、蹴ったのだと思う。
お父さんとお母さんが流れて行った方向へ。
あれから妹はお父さんとお母さんを思って毎日泣いていた。
そんな妹を僕は最後には慰めきれなくなって、昨日きつい言葉をかけてしまった事を思い出した。
妹はお父さんとお母さんを追いかけたんだ。
きっと僕がエアロックを操作するのを何十回も見ていて覚えてしまったんだと思う。
あの場に妹をいさせるんじゃなかったと後悔をした。

それから僕は何十日も孤独な日々を過ごした。
いっそ妹と同じように宇宙に身を投げようかとさえ思った。
食料品は有り余るほどあって生きて行くには困らなかったけれど。
ただ一つの話し相手のコンピューターは人格を持っていなかったので人と話している感じはしなかった。
でも必要な事は教えてくれた。
そして、いろいろ話して行くうちに、ある部屋にクローン製造機がある事がわかった。
どうしてそれにもっと早く気が付かなかったんだろう。
気が付いていればお父さんやお母さん、妹やほかの乗組員のクローンを作る事が出来たのに。
ほんの少しだけ細胞を採取していれば。

クローン製造機は特に取り扱いを覚えるまでもなかった。
まだ一度も使われていない様子の真新しい箱から、使い捨ての細胞採取器を一本取り出して僕の指先に当てがい、わずかな痛みを我慢する。
それをそのままクローン製造機に入れると、すべて自動で始まる。
卵型の上部が透明なクローンマシンは聞こえるか聞こえないかぐらいの低い音を立て、わずかな光を放ちながら10日間ほどで停止した。
透明なフードが開くと、そこから裸の僕が出て来た。
基本的な僕の人格と記憶はコンピューターに保存されていてクローンに刷り込まれている。
生まれてすぐでも僕のクローンは僕と同じようにふるまう事が出来た。

それから僕たちはただただ一緒に毎日遊んだ。
新しい遊びを二人で考えて宇宙船がアルファケンタウリとか言う星に着くまで遊び続けようと思った。
しばらくすると遊びはだんだん危険なものに変わって行った。
回転軸から下げた何本ものロープにぶら下がり、よじ登り軸の近くへ行くと無重力になり、体が浮いた。
ポーンと床にめがけて足を蹴ると、急激に重力が増して床に叩きつけられるぎりぎりでロープにつかまったりしてスリルを楽しんだ。
だんだんそれはエスカレートして行き、ある日僕は手を滑らせ、床から飛び出した制御盤の角に頭をぶつけて死んでしまったのだ。

僕のクローンは僕の体をエアロックから宇宙へ放出した。

残った僕のクローンは自分の指に細胞採取器を当ててクローン製造機に入れた。
そして自分のクローンを作ったんだ。
だから僕は元の僕ではないのかもしれない。
でもそんな事はどうでもよくなっていた。
僕のクローンも元の僕も、僕のクローンのクローンも、みんな僕には変わりがないからだ。
僕たちは毎日遊びながら宇宙船が新しい星に着くのを待っていればいいんだ。

かくれんぼをするうちに今まで入った事のない小さなドアを見つけた。
開いたけれどそこは部屋ではなかった。
ドアの裏側が冷凍の収納になっていて、そこは細胞採取器がずらっと並んでいたんだ。
手に取ってみるとそれは細胞を取った後の採取器の様で、それぞれ名前のラベルが貼ってあった。
その中にお父さんとお母さんの名前と、妹の名前もあった。
僕はその妹の分だけを取り出した。

しばらくは僕たち3人だけで遊ぶとしよう。



おわり



書いてすぐにアップしています。
ちょこちょこ直しが入るはずですので、そのつもりで。
元はクローンネタのツイッター小説です。
4枚ほどのショートショートにするつもりが、みるみる長くなってしまいました。
いやいや、久しぶりに小説を書く面白さを感じる事が出来ました。

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by marinegumi | 2012-10-02 16:28 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

Commented by りんさん at 2012-10-04 00:08 x
読みごたえがありますね。
SFはワクワクして、書くのも読むのも楽しいですね。

クローンが簡単に出来るようになると、こんな風に命が軽くなるのかなあ…なんて、考えてしまいました。
淡々と感情を抑えた書き方が、子供の残酷さを引き出しているように感じました。
最後に両親じゃなくて妹を作るあたりも、冷めてるなあ…と思いました。
Commented by marinegumi at 2012-10-04 14:29
りんさんこんばんは。
読み応えなんてうれしいです。
たった140文字の作品があれよあれよと言う間に長くなって行きました。
楽しかったです。

>冷めてるなあ…と思いました。

そうですねー
案外子供ってそんな感じなんですよね。
両親のクローンを作るとあれこれやかましく言われるかもと思って、後回しにしたんでしょうね。
しばらく自由に遊びたいなんて。
Commented by かよ湖 at 2012-10-13 01:04 x
お久しぶりです。
読み進めていくうちに、だんだん怖くなってきました。
ラストの残った3人のうちの1人でもは、「僕」ではないんですよね?「僕のクローンでも僕には変わりがない」という諦めというか割り切りには、ドキッとさせられました。
Commented by marinegumi at 2012-10-13 16:11
かよ湖さんこんばんは。
ブログの方は毎日チェックさせてもらっていますよ。

残っているのはみんなクローンになってしまいますね。
でも、人間って記憶がすべてですからね。
クローンでも記憶があれば人間なのかも知れません。
やっぱりちょっと怖いですねー