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太陽系外惑星移民計画記念館 (10枚)

写真 能登半島UFOの町にある宇宙科学博物館コスモアイル羽咋(はくい)のホームページより
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アユムの住む高層住宅から地下リニアに乗ると「太陽系外惑星移民計画記念館」は30分とかからない。
最初は4歳の頃に両親に連れられて行ったのだが、12歳の今では一人で毎月のように出かけていた。
それは駅から地上に出るとすぐに目に付くほど、とてつもなく大きな建物だった。青い色の建物で、アルファベットの「P」を寝かしたようなデザインをしている。その「P」の文字の丸く膨らんだ部分に本物の恒星間宇宙船が展示されているのだ。
アユムは足を速めた。地下リニアの中は快適だったが、地上は日差しがきつく、すぐに汗が噴き出した。記念館に続く通路の両側の並木は青々とした若葉を茂らせていて道行く人々にわずかに日陰を提供していた。
近づくにつれて大きくなる建物。何度来てもわくわくする光景だった。

入り口で年間パスポートをセンサーにかざしてゲートの中に入ると、彼は奇妙な行動をした。
アユムの年間パスポートには長い紐が付けてあった。彼はそれを無人の出口専用ゲートのセンサーにかざしながら向こうに投げた。そしてひもを引っ張って回収したのだ。
開場して間もない時間だったのでまだアユム以外の入館者はおらず、彼の行動は誰にも見られなかった。もちろん監視カメラの画像は残っているだろうが何事かが起きなければ、それは誰に見られる事もないのだ。
アユムは半ば駆け足で色んな展示部物の前を通り過ぎた。アポロ宇宙船に始まり、スペースシャトル、国際宇宙ステーション。火星シャトルロケットやジュピター貨物船。無人の亜光速実験宇宙船などなど。
そんな展示コーナーに、アユムはチラチラと視線を向けるだけで、ほぼ恒星間宇宙船に直行した。

それは何度来ても見飽きない魅力的な展示物だった。商業施設や住宅が入った大きなビルほどもあったのだ。
恒星間宇宙船は3隻製造された。そのうち2隻が実際に多くの人々を乗せて宇宙に旅立った。
3隻目がこの「太陽系外惑星移民計画記念館」に展示されている物だった。
恒星間宇宙船は限りなく光速に近い亜光速で航行する。すると、宇宙船の中の時間は地球時間よりゆっくり流れる事になる。
宇宙船の乗組員にとっての10年が過ぎると、地球では何百年も過ぎていると言う事が起きるのだ。
乗組員にとっては慣れた地球の生活のすべてを失う事になる。
2隻の恒星間宇宙船を送り出した後、3隻目がほぼ完成する頃にワープ航法の理論が確立し、ワープ宇宙船の実現が可能になった。今は無人のワープ宇宙船の実験機が就航している。
この宇宙船を使えば以前に出発した恒星間宇宙船より早く同じ目的地に到達する事が出来るのだ。
3隻目の恒星間宇宙船はそのまま完成を見たが、建造された場所から動く事はなかった。宇宙船をすっぽりと覆う形で建物が作られ、それが「太陽系外惑星移民計画記念館」になったのだ。

アユムは宇宙船のハッチまで上がるエスカレーターに乗った。
解説をしてくれるベム(ビッグアイモニター)が空中をふわふわと近付いて来たが、エスカレーターを駆け上がって振り切った。大きな目玉とプロペラを持ったベムが、後ろの方で「走るのは危険です」と言うのが聞こえた。
恒星間宇宙船はとてつもなく広かった。何度も何度も来ているのに、まだ全部は見ていない。
アユムは下の方から丁寧に見ながら上へ上へと上がって行く。
巨大なロケットの上部にある燃料タンクや冷却機。食料などの倉庫のある層を抜け、野菜などを栽培する工場施設や何百人分もある冷凍冬眠カプセル。
あらゆる場所を見て回り、昼になるとリュックの中からサンドイッチを出して食べた。
更に閉館時間まで過ごすと彼は居住区の一部屋に入り込んだ。そしてリュックから薄いシートを取り出すとそれで体をすっぽりと覆いロッカーの中に身をひそめた。

やがて閉館時間を知らせるアナウンスが流れ、館内の音楽も止まり、空調の唸り音も消え、次第にあたりは静かになって行った。
そしてやがて照明が切られる。
アユムが身にまとっているのは熱を遮断する特殊なシートだった。
「太陽系外惑星移民計画記念館」のコンピューターは閉館時に赤外線センサーでお客が残っているかどうかを確かめる。熱遮断シートをかぶったアユムの体温は感知されず、館内には誰も残っていないと判断されたのだ。
もちろん入口のゲートでの入館者の出入りの数にも矛盾はなかった。

アユムは30分ほどしてからロッカーから出た。
真っ暗だった。
リュックから有機パネルライトを取り出して頭に装着して点灯すると、シートをたたんでリュックにしまう。
館内では閉館中にも色んなセンサーが働いていたが、展示物の中のセンサーは火災などの検知を除いてほとんどが休止しているのをアユムは知っていた。
彼の目的はこの恒星間宇宙船の中の通常開館時には見る事が出来ない場所を見る事だった。
見学のコースはほぼ決まっていて、コースを外れたり、立ち入り禁止のスペースに入ると、案内役のベムから即駄目だしされるのだ。

アユムはライトの明かりで照らし出されるコクピットの巨大な計器群の前のシートに座り、圧倒されながら宇宙船の大きさを思った。エアロック室に並んだ宇宙服を一つ一つ触りながら歩いた。格納庫に固定されている宇宙空間用の小型艇や、新しい星に着いてから活躍するはずの農業機械や地上車や垂直離着陸飛行機や建設機械など全てじっくりと確認して回った。
宇宙船は新しい大地に着陸するとしばらくそれ自体が大きな家になる。台地で農作物が収穫できるようになるまでは、その中にある工場でさまざまな野菜が栽培されるはずだった。そして今はデモンストレーションで実際に一部で栽培されてもいた。

次にアユムは冷温冬眠室までやって来ると冬眠カプセルを手動で開け、その中に恐る恐る横たわった。かつて実際に冬眠したまま宇宙を渡って行った乗組員たちの事を思った。
カプセルの透明カバーが閉じ、カプセルは代謝を下げるガスで満たされる。
体がだんだん冷えて行きながら人々は何を思っていたのだろう。
気の遠くなるような距離を渡り、二度と帰って来ない人は自分は、もう地球にとってはいないも同然なのだと言う事を受け入れる事が出来たんだろうか。
地球の大地、緑の山々、命あふれる海。そしてあまりに大きくなりすぎた世界中の都市に住む人々。そんなものをすべて後に残し、新しいまだ見ぬ異星に住みつく事に大きな希望を持っている人ばかりだったんだろうか。
また、そんな人々を送り届けると地球に帰るはずの数少ない人達もまた、大きな犠牲を払う。
彼らが帰って来た時には地球ではもう数百年が経過しているのだ。
もちろん肉親はみんな土の下に眠り、出迎える人は見知らぬ顔ばかり。
それどころか見知らぬばかりではなく、数百年も文明の進んだ未来人に迎えられる事になる。
その時、その人々は自分を原始人か何かのように思うに違いない。帰って来ても自分の居場所があるのかさえ分からないのだ。
そしてさらにまた一つ大きな疑問が残る。亜光速の宇宙船が異星を目指しているうちに、新しい航法の宇宙船が建造され、それが自分たちより先に目的地に着くと言う事が十分に考えられたからだ。そうなると自分たちの存在理由さえ緩いでしまう事になる。それほど大きな疑問?リスク?を抱えた人々なのだ。
人々はそれぞれにそれぞれの思いを抱きながら遠い異星を目指したのだと思う。
それぞれの人に書き著す事さえ出来ない様々な物語があったのだと思う。
それをアユムは冬眠カプセルの中に横たわる事によって想いやる事が初めて出来た気がした。
「僕はもう冬眠中だ」
アユムは夢のない冬眠を続ける人たちのその眠りを感じようとした。

冷温冬眠は、当時の技術では半年が限界だった。
恒星間宇宙船の移民メンバーたちは半年眠り、1週間目覚め、また半年眠ると言う風に繰り返しながら目的地を目指す。一瞬の半年と、長い退屈な一週間だ。
アユムはカプセルの中で一睡もせず、長い長い半年を感じていた。本当に冬眠に入れば一瞬で過ぎ去る半年。
だがやはりそれだけの長い時間が流れているのだし、地球ではさらにその何十倍もの長い時間が過ぎているのだ。
その時間の不思議さをアユムは今、体中で受け止めていた。

長い夜はいくら長くとも必ず明ける。
「太陽系外惑星移民計画記念館」の開館時間と共にアユムは冬眠カプセルを出て、隠れていたロッカーにもう一度入り込み、見学者が増えるのを待った。
そしてゆっくり歩いて外へ出たのだが、ゲートのランプが点灯し、小さくアラームが鳴った。
アユムは次第に足を速め、最後には全力疾走をして地下リニアの駅を目指した。全速で「宇宙開発記念館」の通路と並木道を走ったので、体が熱くなっていて、外の空気の冷たさが判らなかった。
並木道の木々はすっかり葉を落とし、空はどんよりと曇り、やがて雪がチラチラと降りだしていた。

その時になって初めてアユムは気がついた。
自分が夏から冬へと、半年を飛び越してしまった事に。



おわり



例によって書き上げて即アップしています。
基本的にブログに載せるのは下書きの感じです。
いつか本に載る事があるのならその時に清書すればいいよなーと言う乗りなんですね。
でもまあ、ちょこちょこ手直しはして行きます。

これもまたツイッター小説が原作です。
ていうか、最近作はほぼそうなんですよね。
夏のスランプ…
いやいやそれはスランプなどではなく、ただ、夏のハードな仕事で疲れて作品が書けないと言う、いわば「疑似スランプ状態」なんですが、それを克服してから後に書いた新しいツイッター小説を元にしたものばかりなのです。

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Commented by haru123fu at 2012-10-14 08:50
少年の好奇心や冒険心がひしひしと伝わってきます。
古代遺跡に夢を馳せる私みたい!

最後の2行にはビックリさせられました。半年が過ぎ去っていととは。(゚o゚;;
Commented by 春待ち りこ at 2012-10-14 09:36 x
おぉ。。。
読み入ってしまいました。
端々に散らばる海野さんらしい素敵な表現を楽しみながら。。。
>一瞬の半年と、長い退屈な一週間だ
こういう表現、大好物です。( *´pq`)クスッ

この少年も、一瞬の半年を経験して
移民メンバーの気持ちを少しだけ体験することになるんですね。
半年遅れた勉強は。。。辛そうです。。。
未来人の中の原始人。。。とまではいかなくても。

楽しみました。ありがとっ♪
Commented by りんさん at 2012-10-14 14:32 x
私も読み入ってしまいました。
かなり本格的なSFですよね。
アユムは何がしたいのだろう…と考えながら読みました。
好奇心が旺盛で、何でも身を以て感じたい少年なんですね。
最後の一行は、ちょっとドキッとしました。
面白かったです。
ところで、後半の2か所、アユムがヒロムになってました。
Commented by marinegumi at 2012-10-14 14:41
haruさんおはようございます。
haruさんて、古代遺跡マニアでしたっけ?
初耳ですが。

ラストで、ほんとにびっくりさせちゃったようですね。
思いっきり噛んでいますから(笑)
>半年が過ぎ去っていととは
Commented by marinegumi at 2012-10-14 14:44
りこさんおはようございます。
これはもっともっと少年の思いを詩的な文章でつづりたいところなんですが、頑張ってこの程度ですねー
ちょっと長くなると根気が続きません。
Commented by marinegumi at 2012-10-14 14:49
りんさんこんにちは。
テイストはSF、と言うか、道具立てはSFだけど、ストーリーはファンタジーですね。
少年に起きた事の科学的な説明がなしですから。

アユムとヒロム(笑)

書いているうちにアユムがいつの間にかヒロムになってて直したつもりで抜けてましたね。
ありがとうございました。
2か所ではなくて3か所ありました(笑)
もう1つ言葉がおかしいところを見つけてたんですが、いざ直そうとすると見つからないのです。
おかしいなー
by marinegumi | 2012-10-13 21:50 | 掌編小説(新作) | Comments(6)