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湖の少女 (3枚半)

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遠い星からやって来た少女は、壊れた宇宙船を捨て、深い森を歩き始めた。
一人乗りの宇宙船には、自分のDNAを採取したメモリカプセルを残してきた。
いつの日か、少女の星から誰かが偶然にこの星にやって来る事があれば、か弱い救助信号を出し続けている彼女の宇宙船を見つけてカプセルから少女をクローン再生し、メモリチップから彼女の記憶を移植してくれるかもしれない。
そうすると、彼女の両親は彼女を失った悲しみをいくらかでも和らげてくれるだろう。
それはおそらく、ほんのわずかの可能性だったけれど。

どこまで歩いても森は深くなるばかりだった。
この星の大気が、少女には合わないらしく、ひどく体が重く、頭痛が激しくなった。
もう正常に考えられなくなっていた。
そう言ったものから彼女を守るはずの生命維持装置などは、全て宇宙船と一緒に壊れてしまった。
実際の状況よりも必要以上に悲観的になり、陽が落ちると彼女の心は絶望に満たされた。

すると、少女の目の前に、まるで彼女を待っていたように暗く冷たく水を湛えた小さな湖が現れた。
ほんの少しの間、少女は立ち止まり、それが決められた運命だったように湖に足を踏み入れた。

あっけなく湖が少女を呑みこむと、後に出来た波紋もすぐに治まり、何事もなかったように夕暮の森は闇に包まれた。

水底に沈みながら少女は、宇宙船から持ち出した液体のカプセルを開けた。
その液体は少女を包みながら少女と同じ速さで湖底へと沈んで行った。
少女は間もなく意識を失い、その心臓は鼓動を止めた。
液体は高度に発達した防腐剤のようなものだったのだ。
何万年でも、水が涸れない限り彼女を包み、その姿を美しいまま保存する事だろう。

森に朝が来た。
遠い山々から日が昇り、森の木々に光を投げる。
陽が次第に高くなると、湖にも直接太陽は差し込んだ。
すると最初はごく薄く、幻のように少女の姿が湖の上に現われたのだ。
その姿は次第に色も濃くなり、七色の輝きに包まれて湖の水面すれすれを優雅にくるくると舞い踊った。

少女の沈んだ湖の底では水がわき出していて、その水流が彼女の体を舞い踊らせていた。
そして彼女の周りの特殊な液体が太陽の光を異常に屈折させ、少女の姿を湖の上の霧に投影していたのだ。
その姿は太陽が湖を照らし始める時間には数分間、必ず見られた。

誰もそれを見る者はいなかったけれど。



おわり



旅行から帰って来てからはツイッター小説ばかりなので、何かを書かなければと思ってとりあえず書きました。
ひょっとしてツイッター小説しか書けなくなってる?と言う恐怖心があったのですが、大丈夫そうですね。
大丈夫だと言っておくれ~

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Commented by りんさん at 2012-11-13 16:30 x
大丈夫です(笑)

とりあえず書いたなんて思えません。すごくいいですよ。
美しい映像が浮かびました。
神秘的です。
ずっとずっと先になって、冒険家か誰かが発見するかもしれませんね。あまりの美しさに恋に落ちてしまって…
ろいろ想像して楽しみます。
Commented by haru123fu at 2012-11-13 18:42
わぉ~!ロマンチックなお話ですね。朗読してみたいです。
ん?ロマンスものは私にはムリがあるかもですね。
海野さんのイメージはどんな感じで朗読したほうが良いと思いますか?
なんちゃって、聞いたからできるとは限らないのに。(笑)
お願いします。
Commented by marinegumi at 2012-11-13 18:59
りんさんこんにちは。
そう言ってもらえると大丈夫なような気がしてきました。
これはまず映像がありました。
湖の上に浮かんで舞い踊る少女。
水中の少女の姿がどうやって水上に投影されるのかいろいろ考えましたが、SFにしちゃって安易に解決(笑)
Commented by marinegumi at 2012-11-13 19:03
haruさんこんばんは。
これはロマンスものではないですね。
ロマンチックと言うのではなく…
そうそう、りんさんのおっしゃる神秘的と言うやつでしょうか?
救いのない、どこか冷たい、それでいて美しい。
そんな感じを目指しました。

朗読するにはやはり神秘的な音楽ですね。
声は高く透き通って(無理ですか?)
そうだなー、ささやくような、ちょっとかすれた感じが良いかもしれません。
Commented by 雫石鉄也 at 2012-11-13 21:11 x
野田昌宏さんの名言に「SFは絵だね」というのがありますが、この作品は、まさしくそれですね。
非常に美しいビジュアルが目に浮かびます。美しい作品ですね。
Commented by marinegumi at 2012-11-14 20:24
雫石さんこんばんは。
おおー、宇宙大元帥のお言葉。
SFもんの雫石さんからほめていただくと一安心です。
SFっぽい物は、これでいいのか?と不安を抱きながらいつも書いているのです。
by marinegumi | 2012-11-12 23:17 | 掌編小説(新作) | Comments(6)