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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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落ち葉のクリスマス (4枚半)

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窓の外は落葉樹の林。
どこに道があるのかさえ分からないほどに落ち葉で埋め尽くされている。
もう今夜はクリスマスイブだと言うのに雪はまだ降らない。
まだ?
そう、まだ降らないじゃなくて、もうずいぶん前から雪など降らないんだ。
わたしは雪の降らないこんなところに引っ越して来てしまったんだ。

前にあなたと住んでいたのは北国だったから、クリスマスと言えば必ず雪が積もっていた。
毎年12月24日には仕事帰りのあなたがプレゼントの包みを抱え、雪をさくさく踏みながら帰って来る姿を見つけようと、椅子に座りカーテンを開けて外を見ていた。
待ちくたびれて眠ってしまい、夢の中であなたの足音を聞いて目が覚めると、あなたの笑顔がいつもあった。
毎年そんな事の繰り返しだった。
そんな子供みたいな、ままごとのような生活だった。

ある年のクリスマスイブ。
二人分の御馳走を用意して、買って来たケーキをテーブルに置いた。
そして毎年、店先に一羽分の丸焼きが並んでいるのを横目で見ながら買って来る、七面鳥のモモ肉。
「丸焼き、二人じゃ食べきれないしね」と呟いてみる。
本当はあれを食卓に一度は置いてみたかった。

小さなクリスマスツリーの点滅するイルミネーションに照らされて、あなたの帰りを待っていた。
鏡に映るわたしの顔が、点滅のたびに明るく幸せそうに見えたり、暗く沈んで見えたり、若く輝いて見えたり、年老いて見えたりを繰り返していた。
御馳走はそのまま冷え切ってしまい、あなたは帰って来なかった。
悲しい知らせの電話のベルが鳴った時、お腹の中のあの子が少し動いたのを覚えている。
ちいさな命は予感に震えたんだろうか。

あれからずいぶん年月が経ったようでもあり、あの日がそのまま今日と言う日につながっているような気もした。
窓の外の景色はどこまでも落ち葉で色取られている。
時々ささやくような足音が聞えた。
何か小さな動物たちの落ち葉を踏む音だ。
今夜のために御馳走を用意しながらそんな足音にも耳を澄ませている。
テーブルの上には三人分の食器が並んでいた。
お鍋の料理を盛り付け始めてそれに気が付いた。
どうやら無意識のうちに並べてしまっていたらしい。
料理はちゃんと二人分なのに、食器を三人分用意するなんて、自分でもおかしかった。
スープとリゾットと七面鳥のモモ肉、そしてケーキ。
それぞれ盛りつけ終わると、妙に何も乗っていないもう一人分の食器の白さが冷たく感じられて戸棚に片づけた。
窓辺の椅子に座り、窓の外を眺める。

夢を見ていた。
どんな夢なのかは思い出せないけれど、その夢の最後の方で足音が聞えた。
凍りかけた雪を踏むさくさくと言う足音?
いや、それは落ち葉を踏みながら近づいて来る、人の足音だった。
足音が扉の前で止まるとわたしは目を覚ました。
すっかり暗くなった部屋にツリーのイルミネーションの光だけが影を落としていた。
誰もいなかった。
テーブルの上の二人分の御馳走はすっかり冷えてしまっていた。
今年のクリスマスもまた二人分作ってしまった。
そうなんだ。
あの子もやっぱりわたしを置いて行ってしまったんだ。
点滅するイルミネーションの光がわたしの顔を照らす。
鏡の中のそれをわたしは見ている。
明るく幸せそうに見えたり、暗く沈んで見えたり、若く輝いて見えたり、年老いて見えたりを繰り返している。




おわり




毎年、と言うか、今年で三年目なんですが、クリスマスにちなんだお話を書いています。
前の二作品は思いっきりハッピーなお話だったのですが、今回はご覧のとおりのお話です。
haruさんのリクエストで書いたのですが、まだクリスマス気分が盛り上がらないのに書くとこうなっちゃうのでしょうか(笑)
ひょっとしていよいよクリスマスが近づくと別のハッピーなお話を書くかもしれませんね。

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Commented by haru123fu at 2012-11-19 12:35
うわー!ご主人もお子さんも亡くなってしまったなんて
一言も書かれていないのにそれが分かりました。
すごいなっ!早速練習しなくては。私の朗読でそれが
伝わるかなあ~?!
Commented by ヴァッキーノ at 2012-11-19 18:48 x
やっぱ、正直言って、まだボクはクリスマスって
気分じゃないんですよね。
だいたい、ボクはクリスマスの週から、31日まで
ずっと仕事だっつうんですから!
なにがメリークリスマスだ!
と言いつつ
まだ1ヶ月以上ありますもんねえ。
Commented by りんさん at 2012-11-20 17:23 x
すごく雰囲気のあるお話ですね。
寂しくて切ない。
空のお皿が載ったテーブルは、きっと冷たいのでしょうね。
イルミネーションも悲しく感じます。
あと1か月くらいでクリスマスなんですね。
早いなあ。私も何か書かないと^^
Commented by marinegumi at 2012-11-21 11:16
haruさんこんにちは。
朗読もなかなか良い物に仕上がりましたね。
もう一つハッピーなクリスマスのお話が書ければいいな。
Commented by marinegumi at 2012-11-21 11:20
ヴァッキーノさんこんばんは。
いやいやもう、僕の仕事場はすっかりクリスマスバージョンですよ。
でもまあ、なかなかクリスマスと言うのは当日でないとそう言う気分になりませんよね。
また、1日でも過ぎてしまうとクリスマスの飾りつけが色あせて見えちゃう。
欧米ではそんな事はないんでしょうけれど。
新年を迎えるまでクリスマス気分。
Commented by marinegumi at 2012-11-21 11:25
りんさんこんにちは。
ありがとうございます。
初めはストーリーがなくって雰囲気だけの作品だなーと思いながら書いて行ったんですが、まあ、まあ、ストーリーらしい物も浮かび上がってきました。
最初から最後まで、けっこうすんなり、浸って書き終わりました。
このブログを初めて3年目。
3本目のクリスマス作品です。
by marinegumi | 2012-11-18 20:21 | 掌編小説(新作) | Comments(6)