夢図書館 (8枚)

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夢図書館と名付けられた図書館がある。
夢図書館という名前ではあるが、夢の中にある図書館というわけではない。
それは現実に存在するのだ。
しかし、所番地は定かではない。
草原にポツンと建っていたと言う人もあれば、都会の路地の奥にあると言う人もいる。
海辺の砂浜に建ち、その外壁が波に洗われているのを見た人もいる。
森の奥深く迷い込んだ人が見かけたという話もある。
いずれにせよ、あなたが偶然そこへ行けたなら、自分の夢を手に取る事も出来る。
そう、あなたがいつか見たけれど忘れてしまっている夢も、そこでは書物となり本棚に収蔵されている。
もちろん見知らぬ名も知らぬ人の夢や、歴史上の有名人の夢までもそろっているはずなのだ。

夢図書館が近所の公園の奥に現れた夏のある日。
あなたは一冊の本を借りて来た。
それには悲しい夢ばかりが納められていた。
あなたはひとつひとつの夢を読みふけり、時間を忘れる。
見知らぬ人の夢の物語に入り込み、その悲しさにひたり、心ふるえ、惑わされ、用意したハンカチはいつの間にか涙ですっかり濡れてしまっている。
あなたの心はすっかり冷え切り、窓の外の日差しさえ寒々と感じられ、ショールを羽織る。
その時、掛け時計が5時を打つ。
あんなに分厚かった本なのに、不思議なことにちょうど読み終わっている。
そしてあなたの手から本は消えてしまうのだ。
同時にあなたは悲しみから解放され、また夏の熱気の中にいるのに気が付く。

夢図書館のエレベーターには不思議な階数表示がされている。
1階(ノンレム睡眠)
2階(ノンレム睡眠)
3階(ノンレム睡眠)
4階(ノンレム睡眠)
5階(レム睡眠)
そして本の所蔵数は圧倒的に5階に多い。
その階数表示よりも更に不思議な事は、そのエレベーターの動きだ。
あなたは5階へ行こうと思い、「5階(レム睡眠)」のボタンを押す。
するとエレベーターは、あるはずのない地下へと下降し、気がつくと明らかに横に動いていたりする。
次には上昇するものの、いきなり4階のランプが点いたり3階だったり、どうもまともに階数通りには動かないのだ。
それも毎回動き方がの順番が違う。
でもまあ心配はいらない。
間違いなく押したボタンの階にいつかは到着する。
たまには2~3日後になる事もあるのだけれど。

夢図書館では月に一度、特別展が開催される。
今月の展示はあなたの目の前にあるポスターの通り「眠りのない夢 特別展」だ。
基本的に夢図書館の蔵書は人々が眠りの中で見た夢を書物化したものだ。
それが設立当初の大きな目的だった。
しかしそれだけでは来館者の数が頭打ちだと言う。
月一のペースで特別展なる物が催されるようだ。
今回の「眠りのない夢 特別展」では現実での夢を展示している。
つまり、あなたもいつか抱いた事のある現実世界での夢だ。
アイドルの夢。
ダンサーの夢。
科学者になりたいと願う夢、などなど。
どちらも夢と名づけられてはいるが、それは明らかに違うものだと言うのがこの特別展ではよりよく理解できる事だろう。

夢図書館には、あなたが見てそのまま忘れてしまった夢もちゃんとある。
たとえばこれはあなたが大好きな彼に告白した夢だ。
記憶にないかもしれないが、あなたはそんな夢を見たはずだ。
あなたはその夢を見た次の日に、現実の世界で本当に彼に告白をした。
そしてそれは成功し、今あなたは毎日が幸せでいっぱいなのだ。
夢のことは忘れてしまったけれど、夢の中のその告白がちゃんとリハーサルと自信になったと言う事なのだ。
いつも夢を全く覚えていないあなたのような人ために、夢図書館では夢羅針盤を貸し出している。
これを持って眠れば目覚めた後でも夢が全て記憶に残るのだ。
しかし、その夢の記憶の量は膨大な物なので、すばやく書物の形にしなければ現実の記憶との境があやふやになってしまう危険性がある。
もし借りてみようと思われたのなら、くれぐれも取扱説明書の熟読をお勧めする。

夢図書館は人々が見た夢を収蔵するのがコンセプトなので、その中に漫画作品はないはずだ。
もしあったとすれば誰かが見た夢の中の漫画作品なのでオリジナルではない。
ストーリーはもとより、どことなくキャラクターの顔が違っていたり、性格が変わっていたりするはずだ。
ところが、なぜか「ハチミツとクローバー」は全巻揃っている。
どうやら司書の一人がファンだったらしく、私物を並べて貸し出しているらしい。
厳密にいえば、これはルール違反と言えなくもない。
しかし館長以下誰もが黙認しているのは、みんながその作品のファンだからかもしれない。

夢図書館には結末のない夢の断片も多く収蔵されている。
これは書物にするにはあまりに断片的で、とるに足らない物ばかりだ。
しかし一応、文書として綴られ保存だけはされているが、貸し出される事はないのが普通なのだ。
夢図書館では最近、こういったものを活用するために音声として録音して夢電波に乗せて発信するザービスを始めた。
夢を見る能力のない人に、よりよい夢を見るきっかけとして利用してもらうためだ。
「続きをどうぞ見てください」と言う事である。

夢図書館はある日忽然と、あなたの街に現れるかもしれない。
あなたが天体望遠鏡で月の表面を観察している時に、夢図書館をそこに発見するかもしれない。
デート中、高速を走る車の窓の外を通り過ぎて行くかもしれない。
寝坊をした朝、駅へと急ぐあなたは夢図書館の前を気がつかずに通過しているかもしれない。
でもいつかきっと夢図書館の自動ドアをくぐる時が来る。
それはたぶんあなたが夢図書館を本当に必要としている時なのだ。
夢図書館はあなたを待っている。

そして、世界中の人々の夢を納めるために夢図書館の建物は毎日毎日大きくなって行っている。




おわり



連作ツイッター小説を元に膨らませて書いたものです。
特にオチのないただただ夢図書館の紹介のような、お話のような、それこそ夢のような作品ですね。

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Commented by 大熊宏俊 at 2013-03-15 02:37 x
おお、いいですねえ。 まるでボルヘスみたい!
Commented by marinegumi at 2013-03-15 08:30
大熊さんこんばんは。
え~、そうですか?
「神聖代」読み終わったばっかり。
あれはボッスか?(笑)
ボルヘス読んだことありませ~ん。

「バベルの図書館」?
読んでみなくちゃ。
Commented by marinegumi at 2013-03-15 10:57
さっそくセブンネットで注文。
Commented by 大熊宏俊 at 2013-03-15 12:38 x
そうそうボッスでしたね(エッシャーも入ってなかったっけ)。
海野作品では語り手が即主人公であることが多いのですが(視界の限界性を利用する)、この作品は主人公が存在しないですよね(あえていえば図書館が主人公)。語り手はもっと遠い位置からこの世界を視る・俯瞰する存在で、その形式の取り方がボルヘスに似てるなーと感じました。
Commented by りんさん at 2013-03-18 18:49 x
タイトルが素敵。どんなお話だろうとワクワクしますね。
夢には2種類ありますけど、どちらにも対応しているんですね。
誰かの夢をのぞくのは面白そうだけど、若いころに見た夢に再開するのはちょっと気恥ずかしい。
でも、どこかでこの図書館を見かけたら、絶対入ってみたいなあ。
面白かったです。
ここからいろんな方向に話が広がりそうですね。
Commented by marinegumi at 2013-03-19 01:29
りんさんそうなんですよ。
>ここからいろんな方向に話が広がりそうですね。
これもツイッターで「夢図書館」のお題で書くときに、「夢図書館」とはどういうものなのかの設定を羅列して行ったものなんです。
これを踏まえてどういうお話が展開して行くのかという事なんですが。
まあ、これだけでなんとなく作品になっているので、まあいいかと(笑)
by marinegumi | 2013-03-14 22:22 | 掌編小説(新作) | Comments(6)