暖炉ではオイルサーディンが‥(4枚)

a0152009_1802879.jpg

私は窓から外を眺めている。
今日の空はどんよりと昏(くら)い紫色だ。
その紫色の雲からクロロフォルムの雨が降っている。
雨に煙ってぼんやり見えている物はまるで森のように見える。
でもそれは森ではなく、あまりに大きくてどこが頭なのかも定かではない動物なのだ。
明日にはどこかへ移動していることだろう。

この店の窓ガラスは雲母によく似たもので出来ている。
もちろん雲母ではない。
手触りは水晶を薄くスライスした感じだ。

テーブルの向こうでは暖炉が勢い良く燃えている。
焼(く)べているのは魚だ。
体の90パーセント以上が油だと言う川で幾らでも捕れる細長い魚。
それを私は勝手にオイルサーディンと呼んでいる。
間違っても食用にはならないけれど。
ここではそれが冬の間の主な燃料になる。
本物のオイルサーディンを私は決して好きではなかった。
でも、今ここにオイルサーディンの缶詰があれば喜んで食べるだろう。

私はカウンターに腰掛け、味はビールに近いが見かけはミルクという酒を飲んでいる。
おつまみの手羽先の骨を、ロボットのバーテンの頭に時々ぶつけながら。
金属の頭にそれが当たると「カーン」と気持ちのいい音がする。
バーテンはそのたびに骨をかがんで拾う。
手羽先。
うん、これだけは手羽先に形も味も似ている。
でもこれはこのままの形で海に棲んでいるのだという。

だいぶ酔いの回ってきた私の足元には犬に似た生き物がいる。
丸くなって眠っているとまるで犬のように見える。
そのまま眠っていろよと私は思う。
お前の歩く姿は見たくない。

私のほかにも客はいる。
そう、人間に似ているけれども人間じゃない奴ら。
あちこちから聞こえる会話は英語に聞こえるがよく聞くと一言も意味が解らない。

「おい」と私はバーテンを呼んだ。
「音楽をかけてくれ」
ロボットのバーテンは棚の数十枚のアナログレコードの中の一枚を取り出し、レコードプレーヤーに乗せた。
針の落ちる音、針がレコードをこする音。
そして始まったのはビートルズの「ヘイ・ジュード」だ。
これだけは正真正銘のビートルズだ。

バーテンの後ろにあるモニター画面にはリアルタイムの映像が映っている。
遠い遠い地球を天体望遠鏡でとらえた映像だ。
今はもうだれも住んでいない懐かしい地球がこの星の地平線から顔を出し始めたところだった。
ビートルズをバックに、わが故郷の地球が登ってくる。

私は涙を流していた。
それは涙に似てはいるがしょっぱくはない。
この私も人間のような生き物に変わって行くのだろう。




おわり




言うまでもなくツイッター小説を元に書いたものです。
元のツイッター小説はこれです ↓


外ではアンモニアの雨が降っている。暖炉ではオイルサーディンが勢いよく燃えている。足元には犬に似た生き物がまどろんでいる。古いアナログプレーヤーがビートルズを鳴らし続けているのを聞きながら誰も住んでいない地球を眺め今夜もワインの様なお酒を飲んでいる。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2013-03-29 18:02 | 掌編小説(新作) | Comments(0)