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死神 桂枝雀バージョン

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「死神」 桂枝雀バージョン

                             原作 haruさん

はい、いらっしゃいませ
今日もまたお話を聞いていただくわけでございますでございますけれど
昔、長屋と言う物がありましたな
いわゆるロングハウスというやつでして
今で言えばアパートですかねー
平屋で軒(のき)の繋がった木造住宅みたいなね
落語ではおなじみの大家さんなんちゅう人が管理していらっしゃいましてね
そんな長屋が2,3軒集まった路地の一番奥の家、吹き溜まりみたいな所に一人の男が住んでおります
名前を清八(せいはち)と言います
上方落語ではおなじみの登場人物、喜六、清八のコンビの片割れですな
その清八が歳をとりまして、晩年を迎えていると言う設定のお話であります

両親や、嫁はんにも先立たれ、娘のおさきと二人暮らし
そんな清八が病気にかかりまして、長い長い病院暮らしをしております
治る見込みもありませんな
そんなある日、清八は看病をしてくれているおさきに言います
「治らん病気やったら、わしは家に帰って畳の上で死にたいんや」
「まあ、お父さんあほらしい。家に帰っても死ぬのは布団の上でしょ」
「なに言うてんねんな。家に帰ってそこで死ぬ事を畳の上で死ぬちゅうんやないかいな」
「まあ、お父さん。そんな弱音吐かんとってください」
「頼むから、わしを家に連れて帰ってくれ」
「まあ、お父さん。わたしがなんぼ力持ちでも歩かれへんお父さんをおぶっては、よう帰りまへんえ」
「なに言うてんねんな。お前が背(せ)たらわんでも、人力車でもリヤカーでもええねん」
「ほな、駅前のレンタカーでも借りて来まひょか?」
「お前なー、この時代にレンタカーなんぞあらしょまい?」
「まあ、お父さん…」
「もうええ、もうええ。お前のボケで、話が進まんがな」
なんやかんや言うても、優しい娘はんでんな
そんな父親の願い通り、病院と話をつけて長屋に帰ってまいります
清八は安心したのか、家に帰って布団に横になるなりそのまま寝たきりになってしまいます
言葉も塩梅(あんばい)しゃべれんようになるわ、目角も悪うなるわ、意識混濁も引き起こします
「意識混濁」やて
こんな難しい言葉、他の人の落語には出て来ませんよ
「お父さん、お父さん、大丈夫?」
おさきはそんな父親が心配で声をかけますな
清八にはその声が聞こえてはいるんですが、これが返事をすることも出来ません
自分を家につれて帰ってくれた娘に感謝の一言でも伝えたいんやけど
その言葉が声にならへんのですな
声帯まで弱って来たんでしょうな
心配そうに自分の顔を覗き込んでいるおさきの目に涙が見えます
「なに?お父さん。私が泣いてるのん見て泣き虫やな~思てはる?そんなんちゃうで。今さっきサンマを外で焼いてたさかいや。なに?サンマの匂いがせえへんて?お父さんのいけず!」
「わしゃ、何も言うてえへんがな」と清八は言おう思ても声が出ませんな

おさきは、かいがいしくも、涙ぐましくも、たまには手を抜いたりもして、毎日世話を続けております
ある日のこと、清八がいつものように自分の世話をしてくれるおさきを見上げると
おさきの他にもう一人誰かの顔が自分を覗き込んでいるのが見えます
不思議なこともあるもんやなと、かすんだ目を見開いて…もよく見えません
反対に目を細めると結構よく見えたりすることもあります
そうやって目を開いたり細めたりしておりますと
その顔はどうやら痩せこけたお爺さんのように見えるんですな
二人暮らしのこの長屋にそんな老人がおるはずがありまへん
まさか、おさきがどこかの誰かを引っ張り込んで同棲をしているのではないかと
そう思っても聞く事も出来ません
同棲をするにしてもこんな年寄りはやめておきなさいとアドバイスをしようにも叶いません
「お父さん。わたし、お父さんが入院中に誰かを引っ張り込んだりはしてませんよってに、安心してくださいね」
「ええ~?こいつ、わしの心見通してんのかいな。こわ」
そう思いはしたものの、どうやらおさきは、その老人がそこにいる事にさえ気が付いてない様子なんですな
それからと言うもの、その老人はしょっちゅう清八の顔を覗き込むようになります
日に何回も目が合(お)うたりするようになったんですな
目が合うたんびに薄気味悪う、にた~りと笑います
ある日はじっと熱く見つめていたかと思うと唇を寄せて来て濃厚な口づ……そんなあほな事は起きません!
考えるだけで気持ち悪いので今のはなかった事にお願いしますです
どうやらその老人はいつも清八の枕元に座り込んでいるらしい言うのがわかります
清八が毎日目が覚めると、がさごそと起き上がって、清八の顔を覗き込むんですな
そこで清八は昔おじいさんから聞いた話を思い出します
死神が病人の枕もとに座っていれば、その病人はもうすぐ死ぬ
それが足元の方におったら、ある呪文を唱えて柏手(かしわで)を二つ打てばまだ助かる
そのお爺さんが落語好きで、その死神の話も落語のネタのひとつやったらしいんですな
清八にとってみればそれが今、どうやら自分の身に起きとる事やないか
リアルタイムじゃん、と気が付いたわけですな
「これはまたえらい事になってしもた。このままやったら、わしは死神に連れて行かれるやないか。どないしょ?どないしたらええねんな~!」
こういうふうにまあ、心の中で叫んでおるわけです
そんな清八の顔をまた死神が覗き込んで、にたあ~りと笑います
「死神やとおもて見たらやっぱり迫力あるのう。さっきまで痩せたおいぼれじじいやとおもてたのに」
「おいぼれじじいで悪かったの」
「なんやお前、わしの言う事が判るんかいな。なんで今まで反応せえへんねん。人が悪い」
「それも言うなら、神が悪いじゃろ?」
「死神はん。あんたもおもろい人やな」
「そやから、人とちゃうて」
「そうか。あんたとこうやって話が出来るっちゅうことは、もうそろそろ向こうへ行く時間が来たんか?」
「そう言うことじゃ。まあ、支度は何もいらん。身ぃひとつでええさかいな」
それを聞いた清八はかえって落ち着いたんですな
自分の立場を納得したとでも言いますか、開き直ったと言いますか、頭がいつになく回転しております
おさきはどこにおるのかと見回しますと、かわいそうに疲れ果てて清八の布団の裾(すそ)で居眠りしています
「わしが死んだらこの子は一人ぼっちになるんやな~」
そない思うと涙がにじみます
「もう、おもろいボケをかます相手もおらんようになるんやな。しゃべられへんわしにでもボケるぐらい、ほんまにボケの好きなおなごやった。なあ、死神はん。最後に一つだけ、わしの頼みを聞いてくれへんか?」
「聞いてやりたいけど、もう時間がありゃせんがな」
「いやいや、そんなに時間がかかる頼みとちゃうがな。ちょっとだけ足の裏を搔いて欲しいだけなんや。さっきから足の裏が痒いぃて痒いぃてたまらんのじゃ。このままあの世行ってしもたら、この痒みで成仏出来んぞ。死神さんよ。痛いのはまだ我慢が出来ても痒いと言うのはそもそも…」
「もうええ、もうええ、話長ごうなるがな。ちょっとだけでええのんか?どれどれ」
そう言うと死神は清八の足元に回り、布団を持ち上げようとします
「屁、こかんといてや」
今や!と言うわけで清八はおじいさんから聞いた呪文を唱えます
「あじゃらかもくれん きゅーらいそ てけれっつのぱ!」
それで最後の最後に残しておいた力を振り絞って手を二つ叩きます

パン!パン!

手を打っても何も変わりません
おかしいなと思てると死神が顔を上げて
「死神も神様じゃ。賽銭はどうした?」




お後がよろしいようで




調子に乗って、「桂枝雀バージョン」を作りました。
故・桂枝雀さんならこういう感じに演じられるんとちゃうかいなと言うことです。
ボケをたくさん入れて笑う場所を多くした感じですね。
「上方落語バージョン」は、基本的に桂米朝さんの落語を頭に置いて書いたものです。

by marinegumi | 2013-04-03 22:26 | 落語 | Comments(4)

Commented by haru123fu at 2013-04-04 11:37
( ゚ー゚)( 。_。)なるほど、こうなると本当に落語ですね。
しかも2つのバージョンで書かれるとは。(゚o゚;;
さすが、うみのさんです。
あとは、私がどう演じるかが問題ですね。なんだか自身がないですが、
練習あるのみかな?でもすごい!ありがとうございました。
Commented by marinegumi at 2013-04-04 11:51
haruさんこんにちは。
なんか書いてるとだんだん面白くなってきました。
おすすめは標準語の東京落語バージョンか、桂枝雀バージョンですね。
桂枝雀はわりと標準語でしゃべりますからね。
それにボケがいっぱい入って面白いかも。
それともボケがいっぱい入った東京落語バージョンを書きましょうか?
Commented by りんさん at 2013-04-05 18:12 x
haruさんのお話を落語にしちゃうなんてすごいですね。
3つ読んだけど、これがいちばん面白かったです。
haruさんのも聴いて来ました。
良かったですよ~。
ふたりの競作に拍手です(パチパチ)
Commented by marinegumi at 2013-04-06 00:14
りんさんこんばんは。
三つとも読んでいただいてありがとうございます。
これ以外はあまりくすぐりを入れなかったんですよね。
ただharuさんのお話を落語っぽくしただけで。
それでなんか欲求不満だったので、好きなだけボケと突っ込みを入れて作ったのが「桂枝雀バージョン」なんです。