まりん組・図書係 marinegumi.exblog.jp

海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
プロフィールを見る
画像一覧

迷子のお知らせ (10枚)

a0152009_20213222.jpg

ゆかの持っていたソフトクリームがコーンから落ちてしまった。
普段ならべそをかくと思うのだけれど、今日は違っていた。
周りのたくさんの乗り物に興奮しているのだろう。
少し食べただけのソフトクリームだったのに、それが地面に落ちたのを見て「あ…」と小さな声を上げただけだった。
わずかに残ったアイスとコーンをバリバリと食べてしまうと私の手を引いて言った。
「もっとのるぅ」
ゆかはまだ三歳だ。
こんな小さな遊園地でも十分満足している。
そのうちディズニーランドに連れて行ってやりたいとは思っている。
どんなに喜ぶだろう。
でも、東京は遠い。
行くならせめて二泊三日だろうなと思う。
そうそう何度も連れては行けない。
そうなると、もう少し大きくなってからだと思う。
乗れない乗り物もあるだろうし、成長しても記憶に残っている方がいいと思うのだ。
ゆかの目指していたのは観覧車だった。
「ゆかちゃん。これ乗るの二度目だよ」
「のるの!」

この遊園地では平日は入場料だけで乗り物の乗り放題のサービスをしている。
平日とは言え、春休み中なので人出はかなり多い。
観覧車が上がり出すとたくさんの親子連れの姿があちこちにいるのが見えた。
両親と来ている子もいれば、母親だけや祖父や祖母と一緒らしい子もいる。
私と同じように父親だけと言うのはあまりないようだ。
妻の京子は体が弱く、遠出の時は付いて来れない事が多い。。
そろそろ昼時なのか、バーガーショップの前には行列が出来はじめている。
ジェットコースターが轟音と共に風を切って走る。
メリーゴーランドの音楽が小さく聞こえる。
人々の声はだんだん遠くなり、その姿も小さくなって行く。
風があるようで、私たちの乗っているゴンドラは一番高いところで少し揺れた。
その揺れを敏感に感じて、ゆかが不安そうな目を私に向けた。
「だいじょうぶだよ」
と、微笑んで見せると安心して、ガラスにおでこを押しつけるようにして下を見た。
「こんどあれにのる!」
ゆかが指差したのは緩やかな起伏のコースを勝手に走る自動車だ。

乗り場まで来る。
レールに沿って走る自動車なので、子供だけでも乗れるらしい。
私はそろそろ疲れはじめていた。
疲れを知らない子供に付き合って、同じように乗り物を次から次へと梯子をしたのだ。
子供が一人で乗れるものは今からは一人で乗せるようにしようと思っていた。
ゆかを車に乗せ手見送って、乗り物のコースを背にしてベンチに座っていると、ゆかの声がした。
「パパ~!」
振り返ると自動車に乗って上機嫌で飾りだけのハンドルをあちこち操作している。
手を振ってやった。

朝早く家を出たのでずっと眠気が残っていた。
暖かい日差しが気持ちよく、ベンチでちょっとうとうとしてしまった。
夢うつつで園内放送を聞いていた。
「迷子のお知らせを申し上げます。やまぐちしんやくんと言う、三歳の男のお子様をお預かりしています。お心当たりのお客様は……」
(三歳と言うとゆかと一緒だな…)
そう考えている自分に気がつくと、みるみる眠気は去って行った。
目を覚ました瞬間にベンチから立ち上がっていた。
ゆかの顔を目の前に見つけ、ほっと気が緩む。
「終わったのか?今度は何に乗る?それともお腹がすいたか?」
「もういちどこれにのるの」とゆかは言う。
そして自分から乗り場へと駆けて行った。
初めて自分一人で乗ったので、それが気に入ってしまったらしい。
ベンチの後ろを通るゆかの車に手を振って見送った。
その時、また園内放送の声が聞こえた。
「よしだけいすけくんのおじい様。よしだけいすけくんのおじい様。けいすけくんがお客様広報センターでお待ちです。この放送を……」
(おいおい、じいさんが迷子かよ)
私は苦笑した。
けいすけと言うしっかりした男の子のイメージが浮かんだ。
しばらくしてまた園内放送だ。
「たかだあやかちゃんと言う四歳の女のお子様をお預かりしています。お父様お母様お聞きでしたら……」
(なんだ?やたらに迷子の放送が多いな)と思いながら聞いている。
園内の人の流れは午前中よりずっと少なくなっているような気がした。
それなのに迷子が多いというのはどういう事だろう。
おそらく遊園地内でもこの辺はあまり人気のアトラクションがないエリアなのかもしれない。
「迷子のお知らせです。赤い上着にジーパンを履いた二歳半ぐらいの女のお子様をお預かりしています。お心当たりの親御さんは、お客様広報センターまで……」
(おいおい、それにしても迷子、多すぎやしないか?)
何となくベンチから立ち上がっていた。
ほんのわずか、胸騒ぎのようなものを感じたのだ。
まだ昼を少し過ぎただけのはずなのだが、空の光が夕方っぽい色になっていた。
人影もめっきり減っている。
ゆかはまだ乗り物から降りてこないのだろうか?と、ふと不安になる。
一周するのにどれぐらい時間がかかるのか、そういえば最初の時は居眠りをしていたので把握していなかったのだ。
乗り場へ行ってみた。
そこには色とりどり車が十数台待機していた。
そこにいる係員に聞いてみる。
「娘がこれに乗ったんだけど、まだ帰ってこないんだが…」
「ああ、あと三台まだ走ってるね。あ、ほらほら一台帰ってきましたよ」
見ると、それはゆかではなかった。
男の子だ。
しばらくしてもう一台が帰ってきた。
遠目で、女の子らしく見えるけれど着ている服の色が違う。
乗り場には、新しく乗ろうとする子供はいない。
女の子が乗り場に着くと同時に最後の一台が遠く、帰って来るのが見えた。
その時、またも園内放送の声がした。
「迷子のお知らせをいたします。かわぐちゆかちゃんとおっしゃる三歳の女のお子様をお預かりしています。お心当たりの親御さんは……」
(ゆかだ!)
わたしは係員にお『客様広報センター』の場所を聞くと、最後の車が近づくのも待たずに走り出していた。
観覧車の前を通り過ぎ、チケットブースを通り過ぎ、お祭り広場を横切り、ショッピングモールの裏側に入った。
そこにあるはずのお客様センターは見つからなかった。
(え?どういうことだ)
確かこの売店の並んでいる裏側……
見ると向かい側にも何軒も並んだ売店があった。
その裏側に入ってみたがやはり見つからないのだ。
園内地図を探して広場へと出て来た。
その時に気が付いた。
遊園地には殆ど人がいないのだった。
遊びに来ている客は一人も姿が見えない。
男女の係員の姿がさっきまでちらちらしていたのだが、建物の中に入ったり、植込みの向こうに歩き去ったりして、気が付くと私一人になっていた。
そして空はすっかり夕暮れの気配だった。
園内地図をやっとのことで見つけ、しっかりと記憶して、慎重に道をたどって着いた所に、『お客様広報センター』があった。そのドアノブを掴み、回そうとした。
しかしそれには鍵が掛かっていたのだ。
窓から中を覗き込むと、一人の係員が向こうのドアから出て行こうとしているところだった。
窓枠を手でたたいて大きな音をたてた。
しかし係員は気が付かずにドアの向こうに消えてしまう。
同じ建物の他のドア全てを順に開けようとしたが、どれもみな鍵が掛かっていた。
そして、園内には蛍の光が流れ始める。
「どこだ!どこでこの曲を流してるんだ!?」
私の大声は園内に響き渡った。

人っ子一人いない真っ暗な遊園地で私は途方に暮れていた。
なぜこんなあり得ない事が起きてしまったのだろう。
ひょっとして私はまだあのベンチで眠っているのだろうか?
それにしてはあまりに遊園地の風景は黒々と重く、空気は肌寒く、足元をカサコソと風に運ばれて行く紙くずは現実的だった。
今朝入って来た遊園地のメインゲートは閉ざされていた。
私はこれからどうすればいいのだろう。
柵を乗り越え、警察へ駆けこむべきなのだろうか?
しかし今日あった事を信じてもらえるのだろうか?
この遊園地が明日には普通の遊園地に戻ってしまっているとすれば。

その時、遠く声が聞こえた。
今日、何度も聞いたあの声だ。
「迷子のお知らせを申し上げます。かわぐちけんじくんとおっしゃる三歳ぐらいの男のお子様を探しています。お母様がお客様広報センターでお待ちです。かわぐちけんじくんと…」
その声は遠く小さく、風にとぎれとぎれに聞え、そしてチャイムの音で終わった。
あとはもう風の音が聞こえるだけだった。

  カワグチケンジハボクノナマエダ

      オカアサンガボクヲサガシテルンダ

            デモドコへイケバイイノカワカラナイ




おわり



今年の初めぐらいだったかな?
その頃に書いたツイリミを元に書いています。
書き上げて、即アップしています。
出来立てのほやほやですから、まだおかしな文章があるかもしれませんが、それはちょこちょこ手直しして行きますね。
ぼくの気持としては、「ブログの作品は下書き。完成させるのはそのうちにね」
と言う感じでやっています。

ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
[PR]
Commented by りんさん at 2013-04-11 21:34 x
不思議な話ですね。
異次元に迷い込んでしまったのか、それとも娘と遊んだことが幻だったのか。
もしかして、迷子のアナウンスをされた人は、みんな異次元に行っちゃった?
閉園した遊園地に残されるのって、怖いですよね。

余談ですが、東京ディズニーランドって3歳まで無料なんですよ。
だから娘が3歳の時、年に5回も行きました。
憶えていないんだろうけど…^^
Commented by marinegumi at 2013-04-13 00:20
りんさんこんばんは。

うーむ、これは結局どうなってしまったのかと言うのは作者も決めていません(笑)
子供を人ごみの中に連れて行く時の責任感と、不安感を表現してみたかった感じかな。

いくら無料とは言っても、子供だけ行ってらっやいと言うわけにはいきませんからね~
近かければ小さいうちに何度でも行っとけ、と言う感じでしょうけど、親も泊まりがけと言う事になるとお金もかかるし。
やはり、せめて記憶に残る年齢になってからと思うんですよね。
by marinegumi | 2013-04-09 20:23 | 掌編小説(新作) | Comments(2)