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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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手鏡の中の顔 (5枚) 

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わたしは日当たりのいい縁側の籐椅子に凭れて、手鏡を覗いていた。
わたしの顔は目が大きくてまつ毛が長い。
誰にでもかわいいと言われるのが素直にうれしい。
肌は自分の手で触ってもすべすべしてて気持ちよくて、しわの一つもない。
頬はふっくらと丸く、紅をさしたように明るい。
くちびるもイチゴのようにかわいくて、開くと歌が自然に出て来る。
手鏡をスカートから出たひざの上に置いて部屋の隅のベッドに寝ているおばあちゃんを見た。
ちょっと苦しそうな寝息をたてて、とてもよく寝ている。
そのまま眠っていなさいねとわたしは思う。
起きてしまうと大変なんだもの。
腰が痛いとかお腹が減ったとか、いろんなことを言う。
いくら腰をさすってあげても痛みは治らないし、ご飯を食べたことを忘れてすぐにお腹が減ったと言うんだもん。
最後にはお前は誰だ?って私に聞くんだからいやになっちゃう。
わたしは絶対あんな年寄りにはなりたくない。
いや、絶対にならないと思う。
手鏡を持ち上げ、もう一度覗き込むとさっきと少し違う顔がそこにある。
目は変わらずに大きいけれど、まつ毛も変わらず長いけれど、何となく瞳が濁って見える。
目の下や目じりにも、少しだけれどしわが見えている。
肌の色にも陰りが見えている。
これがシミというものになるのかしら。
ため息をついて胸の前に手鏡を持った手を置く。
部屋の奥を見ると仏壇がある。
おばあちゃんの写真が見える。
台所からは小気味のいい包丁の音が聞こえている。
そしてお味噌汁の匂い。
炊飯器が気持ちのいい蒸気の音を上げている。
高校生の娘が最近は料理をしてくれるようになった。
もう一度手鏡を持ち上げる。
その手鏡が急に重くなったような気がした。
手鏡の中の顔はずいぶん年老いて見えた。
あんなにキラキラして好奇心一杯だった私の目がどこかへ行ってしまった。
しわが増え、深くなり、顔色も悪い。
天気の良い日の陽当たりのいい縁側で、籐椅子に座っているというのに。
男の子が部屋に入ってきた。
今日は娘の家族が帰って来ている。
孫は私の方を珍しそうに見ていたと思うと何も言わずに出て行ってしまった。
「ゆうちゃんおいで」
私はそう言いながら手鏡に陽の光を受けて、向こうの暗い廊下に丸い光を投げた。
その光をクルクル動かしていると、年老いた飼い猫が入って来た。
猫は光を見つけ、少しだけじゃれるようなそぶりを見せてすぐに隅っこで丸くなった。。
お前も年をとったもんだなと思う。
手鏡を伏せてひざの上に置くと裏側の装飾に反射した光の模様が天井に映えた。
そのまま一瞬うとうととしたようだった。
目が覚めると、日差しで手が温かい。
手鏡を持ち上げる。
私のその手はなぜか少し震えている。
覗き込む。
一瞬、見えているのはおばあちゃんだと私は思った。
でもよく見るとやっぱり私なのだ。
孫だから似ていて当たり前ねと私は納得する。
お腹がすいたので娘の名前を呼んだ。
でも来てくれたのは見知らぬ女の人だ。
ご飯はまだかと聞くと「今さっき食べたでしょ」と言う。
そんなはずはない。
こんなにお腹はペコペコなんだから。
「娘を呼んでください」と言うと「娘さんは一週間に一度しか来られませんよ」と、私の顔も見ずに言う。
気が付くと私は部屋の隅のベッドに寝ているのだった。
「さ、おしめを取り換えましょうね」と、見知らぬ女の人は手鏡を取り上げようとする。
私はそれをしっかりと握り、渡さなかった。
もう一度それを覗けば、きっとあの日の、まだ幼くて可愛らしい私が見えるはずだと思った。
必ずそうなるはずだと思っていたけれど、私は胸の上にそれを伏せたまま持ち上げられなかった。
手鏡が重いからなのか、それを見る勇気がないのか、私にはわからなかった。




おわり




この作品はharuさんのショートショート「手鏡」をヒントに頂いて書いたものです。
haruさんのこの作品は僕なりにこうやれば面白くなるのになーと思って、その事をharuさんにお伝えしようと思いかけてやめたんですが、それは、haruさんのこの作品はこのままでいいんだと思い直したからなんです。
作品の書き方は人それぞれ。
素直に書いたものがベストですからね。
それで、思い切り自分なりに書いて、「手鏡」のコメント欄に書かせてもらって、それに手を入れた物がこれ「手鏡の中の顔」というわけです。
リンク先は朗読の動画ですが、文章もあります。
「年が明ける」です。
一年以上前に書かれたこの作品が朗読「手鏡」の原作と言う事になるんでしょうね。
で、この「年が明ける」の方のコメント欄にぼくがこう書いています。
>手鏡をもうちょっと重要な小道具にしたかったのですが。
すっかり忘れていたんですが、この朗読の方を聞いても同じような事を思ったんでしょうね。
手鏡を徹底的に小道具に使うと、こう言う感じになると言う事でしょうか。

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Commented by marinegumi at 2013-04-13 16:19
まほさん、いつもいつも「イイネ」をありがとうございます。
Commented by haru123fu at 2013-04-14 09:37
海野さんありがとうございます。なるほどな~と思いました。
どうも、単純な文章しか書けないもので。(^^ゞ

この前の落語に書き換えて下さった作品すごく面白かったです。
もっと勉強して、本物の落語に聞こえるように頑張りたいと思い
ました。また何か落語調で書いてほしいなぁ~!なんてね。
私の書いた「夢かうつつか幻か」なんてどうでしょうか。ムリありますね。(笑)
Commented by marinegumi at 2013-04-14 18:00
haruさんおはようございます。
掌編小説的に面白くしようとするとこんななっちゃいました。
「手鏡」は結構ドギュメンタリーっぽい感じがありますね。
「夢かうつつか幻か」は貧乏神のお話ですよね。
桂枝雀さんの落語に、そのものずばり「貧乏神」と言う落語があります。
それとけっこう似ている部分があるんですよね。
落語にするとなるともうちょっとストーリーを膨らませないといけませんね。
思い浮かべばいいのですが、一応心に留めておきます。
Commented by haru123fu at 2013-04-14 20:52
海野さんのおっしゃる落語のテンポというのが少し分かった気がします。
ブログ友のyokuyaさんから桂雀三郎さんのCDを5枚も頂いて、
それを聴くともっとテンポアップでトントントーンっていうような
テンポで進むのですね。さすがに話芸とはこういうことを言うのかと
感心しました。もっとも、私にはまるっきり無理ですけど。(笑)
大阪弁の凄さを実感しました。
Commented by marinegumi at 2013-04-15 13:06
haruさんこんばんは。
まあ、あれですよ。
落語家さんにもいろいろありますからね。
早口の人もあれば、ゆっくりしゃべる人もいる。
お年寄りの落語家さんなんか、一瞬、寝てるのか?と思う人がいたり(笑)
まあ、人それぞれで、落語に聞こえればいい。
haruさんのは十分落語してます。
by marinegumi | 2013-04-13 15:34 | 掌編小説(新作) | Comments(5)