母の日に (2枚)
「母の日だって言うのにプレゼントが来ませんね。あなた」
「しようがないだろ、それは。みんな忙しいんだよ」
「いくら忙しいとしてもですよ、母の日なんて前から判っているんですからね、いまどき宅急便なんて便利なものもあるじゃないですか」
「それもそうだけどさ」
「テレビではもう1週間も前から母の日、母の日って言い続けてますしね。忘れようたって忘れられないんじゃありませんか?」
「まあ、いいじゃないか。忙しくてテレビを見る時間もあまりないのかも知れないよ」
「あなたはいつもそうなんです。子供に甘くって。わたしが厳しく躾けようとしているのに、『まあ、いいじゃないか』って。そればっかり」
「私はね、子供をやさしい人間に育てたかったのさ。思いやりがあって、いつでも笑顔で、誰にでも優しい、そんな大人になって欲しかったのさ」
「それじゃあ、あなた。わたしの育て方が悪かったとおっしゃるんですか?」
「な、何もそんな事は言ってないじゃないか」
「いいえ、あなたは遠まわしに、そう言っています」
「違うんだよ、お前」
「そう言えば、去年もなかったですよね、母の日に。カーネーションの一本でも持ってきて、『お母さんありがとう』ってそれだけでいいんですよ。何も豪華なプレゼントをよこせって言ってるわけじゃないし。そうですよ、手ぶらだってかまわないんです。元気な顔を見せてくれるだけでうれしいんですよ、母親はね」
「お前さあ、考えてみれば、おと年も誰も来なかったんじゃないか?」
「おや、そうでしたっけ?」
「そうだよ。その前の年も、ずっと前から誰も来やしないんだ」
「…………」
「母さんや、どうしたんだい?」
「ねえあなた。そもそも私達の間に子供なんて生れて来なかったんじゃありませんか?」
おわり
元は母の日に書いたツイッター小説です。
長くしていくうちに別役実さんの不条理劇にだんだん似て来るなーと思いながら書きあげました。
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by marinegumi | 2013-05-14 20:55 | 掌編小説(新作) | Comments(8)
新作がUPされている。(@_@;)ビックリ
こんな偶然もあるものなんですね。面白い!夫婦の会話に笑ってしまいました。
そう言う偶然ってなんだか面白いですよね。
ちょっとなんだかうれしいような。
朗読楽しみにしています。
さっき「死神」を聞いたいたんですが、聞くたびにこの作品いいんじゃないかなと思えてきます。
音声の編集でピッチを少し上げられないのかしら。
編集ではできないので、やり直しするしかありません。
今度もう一度練習してみて挑戦するのもいいですね。
海野さんの落語原稿がスゴク良かったです。
きっと私が関西人ならもっと良かっただろうなって思います。
最初は、奥さん死んじゃってるのかな、と思ったりしました。最初から子供がいなかったとは(笑)
あまりにも世間が「母の日母の日」と騒ぎすぎるから、こういう人が出てきてしまうのかも^^
>あまりにも世間が「母の日母の日」と騒ぎすぎるから
そうそう、そういう感じですね。
毎日のように聞かされると、ふと子供がいないのになんで私の所は母の日なのに…
なんていうお年寄りが実際にありそうです。
これをもうちょっと発展させたミステリーなショートショートもありですね。
よく考えると子供は死んでいた。
もっとよく考えると自分が殺したという記憶がよみがえるなんてね。
晩婚化・少子化が進むと、いつの日か母の日はなくなっちゃうのかな?あ、その前に父の日が先になくなりますね。シングルマザー増加で。
しかし、りんさんへの返信コメント衝撃的ですね。ミステリーショート、楽しみにしています。
>途中から死んじゃっているのかと
なーるほど。
リンさんもかよ湖さんもたぶん、お墓の中に入っている夫婦の会話かなんかだと思ったのかなと、いま思いつきました。
そういうほんわかしたオチにはあまりしたくないかな。
ぼくが好んで書こうとしているのは人間の記憶のあいまいさですね。
あいまいだった記憶がはっきり甦ると衝撃の事実が…とか。
りんさんへの返信コメントがそんな感じね。