リモコン (5枚)

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仕事から解放され、帰りの電車に乗った。
窓の外を流れて行く夜の都会の風景は、あまりにも現実的だった。
高層ビルの群れ。
そこを縫って走る電車や自動車の多さ。
迷路のような交通網。
そしてあまりにもたくさんの人、人、人。
あまりにもそこは広く、あまりにも複雑で、あまりにも質量にあふれていた。
軽い頭痛を感じて目を閉じた。
でも精神は冴えたままで電車の音を聞いていた。

マンションの自分の部屋に帰るともう何もする気にはなれない。
テレビを見ながら、きのうのカレーの残りを食べ、それだけで夕食は済ませる事にした。
早く眠ってしまいたかった。

ベッドに横になる。
今から眠ってしまうと10時間も眠れる。
でも、少しも眠くはないのだった。
常夜灯だけを残して照明を消した。
いつもこの状態で眠る。
部屋の壁や、カーテンの柄、本棚や洋服箪笥等がうっすらと見えている。
うっすらと見えてはいるが、それはそこに確かに存在している。
そう、あの街と同じように確固とした質量としてそこにあるのが判る。
都会もこの部屋も、私には私を圧倒する存在なのだ。
それらがそこに存在していると言うだけで感じる圧迫感が私には耐えがたいのだ。

ふと、部屋を真っ暗にしてみようかと思いついてリモコンのボタンを押す。
部屋は暗闇にのまれる。
すると嘘のように圧迫感を感じなくなった。
ベッドの上に横になっているのか、立っているのかさえ分からず、重力から解放されたような気もする。
わたしはベッドを離れて立ち上がった。
恐る恐る歩いて見た。
手を前にさしのばして、2歩、3歩。
意外な事に手はどこにも触らない。
そんな馬鹿なと思いながらじわじわとすり足で前に進むが、それでもまだ壁に届かない。
さすがに少し不安を覚えて後ろに下がるとベッドがあった。
ベッドのまくら元の照明のリモコンを手探りで掴んだ。
ボタンを押すと元通りの自分の部屋だ。
その明るさに目を細めた。
しばらく考えた。
ベッドから降りて、たぶん10歩ぐらいの距離は歩いたはずだ。
それなら壁に突き当たっていて当たり前だ。
不思議な事がある物だとは思ったが、さっきのあの開放感を思い出した。
そして、今感じている圧迫感。
恐る恐るもう一度照明を消した。
真っ暗になると圧迫感は消え、宇宙の真ん中に浮かんでいる気分になる。
私はまた立ちあがった。
手には照明のリモコンを持って。
数歩歩いてみた。
壁には届かない。
最初はゆっくり、次第に普段歩く速さで歩いていた。
いくら歩いても何もさえぎる物はなかった。
私は最後には走り出していた。

もう何時間経ったのだろう。
走ったり、歩いたりを繰り返した。
ふと、手に握っているリモコンの事を思い出した。
もう今はさえぎる物は何もない。
しかしこのスイッチを入れると、また私の部屋があり、その外には現実的な都会が広がり、その質量で私を圧倒しようとするだろうと思った。
そうか。
これが。
私の握っているこのスイッチが世界を出現させるのかもしれない。
だとすれば。

私は手に持っていたそのリモコンを力いっぱいに投げた。
出来るだけ遠くへ。

どこかに落ちる音はいつまでたっても聞こえなかった。




おわり



この作品は例によってTome館長さんのブログ、「Tome文芸館」の作品、「真っ暗闇」を読んで、想像力を刺激されて書いた作品です。
Tome館長さん、いつもありがとうございます。

さてさて、書き続けている角川ツイッター小説の「どこまでも遥香」は今のところ212ツイートになりましたよ。
原稿用紙にすると50枚は超えている感じかな?

それからですねー
応募していた「Twitter小説大賞」で、僕の作品がノミネートされています。
応募総数2.383編。
ノミネートは128編です。
大賞/優秀賞/佳作が選ばれます。
それぞれ賞金が出ます(笑)
人気投票が行われていて、受賞作品選考の参考にされるようですので、皆さんの投票をよろしくお願いします。
投票にはツイッターのアカウントが要ります。
僕の作品は こちら

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Commented by curatortome at 2013-05-25 01:10
想像の展開力、ありますね。
私には発想力あるみたいですが、先が続きません。

マンションの高層階のようなので、リモコンスイッチを手放したら、闇が消えて地面に落下するのではないか・・・・・・ちょっとドキドキ。
Commented by haru123fu at 2013-05-25 19:18
もう一度投票しようとしたら一人1回だけなんですね。(笑)
あ、この作品朗読したいです。お願いします。
Commented by marinegumi at 2013-05-25 21:30
Tome館長さんこんばんは。
ありがとうございます~
僕に画力があればねー
漫画を続けられたのにと思います。

結末をどうするかは考えながら書いて行きました。
ちょっとした連想の違いで全然別の結末になったかもしれませんね。
Commented by marinegumi at 2013-05-25 21:33
haruさんこんばんは。
そうですそうです。
投票は1作品に対しては1回だけです。
何作品に投票してもいいんですけれどね。

朗読よろしくお願いします。
毎晩のツイッター小説と、角川ツイッター小説とで、ブログの作品が滞っていましたね。
Commented by かよ湖 at 2013-05-25 23:27 x
ご無沙汰しています。
海野さんの作品は、不思議な感覚になるものが多くて、コメントが難しく、他の人のブログより読み逃げ率高いです。(笑)
現実とファンタジーの融け合い加減が絶妙ですね。多和田葉子さんの作品で味わった感覚に似ています。
また、たびたび黙って遊びに来ますね。(笑)
Commented by haru123fu at 2013-05-26 07:41
海野さんのツイッター小説、「haruの朗読の部屋」の2部に
1~5、5~10とまとめてUPしたのを改めて聴いてみました。
こうして続けて聴くと、全く違うお話がポンポン飛び出してくる
のですが、一つのマンションに住んでいる別々の人達のような
不思議な重みと感覚でした。
朗読している私が、今頃づいてどうするんだ!って感じでした。
ツイッター小説、頑張ってください(笑)
Commented by marinegumi at 2013-05-26 11:09
かよ湖さんこんばんは。
わかります。
感想の書きにくい作品ってあるんですよね。
多和田葉子さん?
まだ読んだことがない作家さんですね。
芥川賞作家ですね。
アマゾンであらすじだけ読んでも結構不思議な話だというのが分かります。
僕好みかも知れません。

>たびたび黙って遊びに来ますね
「おっす!」ぐらいは声をかけてくださいませ。
Commented by marinegumi at 2013-05-26 11:13
haruさんこんにちは。
『その角を曲がると』シリーズですね。
>一つのマンションに住んでいる別々の人達
うまいこと言いますね。
そういう感じ受けるのはharuさん自身が、声を作品ごとに変えていることによるのが大きいのではないでしょうか?
Commented by 平渡敏 at 2013-05-26 18:26 x
こんにちは。
ツイッターやめているのですが、とりあえず海野さんに投票するためにアカウントを作りました。
フォロワーゼロの人が投票しても組織票と判断されるかもしれませんが。
Commented by haru123fu at 2013-05-26 19:05
あ!平渡さんだ!
とつぜん消えてしまうから心配でした。
お元気ならいいのですが。。。私にもコメント下さい。(笑)
あら、海野さんのブログコメで見つけたもので。(^^;)
スミマセンm(_ _)m
Commented by marinegumi at 2013-05-26 21:59
平渡さんこんばんは。
わざわざツイッター復活させてまでの投票、ありがとうございます。
haruさん、そうですよね。
ブログを消してしまうなんて、なんか寂しかったです。
お気に入りに入れている「平渡敏のブログ」をクリックしてもFC2ブログのトップページが出るだけなのがねー
かと言ってお気に入りから消してしまうのはもっと寂しいような気がして、まだそのままです。
これを機会に、ツイッターで時々つぶやいてくださいね。
お願いします。
Commented by りんさん at 2013-05-27 17:06 x
不思議なお話ですね。
海野さんワールドとでも言いましょうか^^
この人は現実から解放されたかったんでしょうね。
リモコンを投げてしまうところは、潔ささえ感じました。

ツイッター大賞ノミネートおめでとうございます。
この話憶えてますよ。
入賞するといいですね^^
Commented by marinegumi at 2013-05-29 17:29
りんさんこんにちは。
半分Tomeさんワールドですけどね(笑)
最近はけっこう結末を考えずに書き始めて、何とかまとめられるようになりました。
これまでは結末をきっちり考えておかないと書き始める事も出来なかったんですけどね。
その分気楽に書けてます。

ツイッター小説大賞。
賞金が欲しい~
by marinegumi | 2013-05-24 22:40 | 掌編小説(新作) | Comments(13)