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ジャック・オー・ランタン (5枚)

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ハロウィーンの夜。
僕は坂道を登って行く。
石畳の坂道だ。
両脇の家々はレンガ造りで、とても古い街並み。
それぞれの家の窓には暖かな明かりが灯り、家の前には思い思いのハロウィーンの飾りが置かれている。
カボチャで作ったランタンが多い。
「ジャック・オー・ランタン」
愛すべきハロウィーンの主役のお化けだ。
このカボチャ頭に体を作り黒いコートを着せている家もある。
中にろうそくの灯が入り明々と不気味な笑顔を浮かべている物もあり、まだ黒い虚ろな目をしている物もあり、今まさに家人が火を入れようとしている物もある。

その坂道を登り切った所にはちょっとした広場がある。
誰だかよくわからない男の銅像が、石の台座の上に鎮座しているその周りにベンチが4か所ほど配置された石畳の広場だ。
その銅像の前にコンクリートブロックと木の板で、急ごしらえの3段ほどの棚が作られている。
そして棚の上にはこれでもかと言うほどたくさんのジャック・オー・ランタンが並べられているのだ。
全てに灯が入り、今僕がいる場所、かなり坂の下の方からでもそれはよく目立つ。
坂を上がり、近づくにつれてカボチャ頭の表情まで見えて来る。
そのカボチャたちの後ろには、古びた板に文字が書かれた看板らしいものが見える。
この国の言葉で、おそらく「ジャック・オー・ランタン・コンテスト」とでも書いてあるのだろうか。
その文字は見なれたアルファベットではない。
坂の下から上がって来る人々、両側の家のドアからぱらぱらと姿を見せる人達が、それぞれその広場を目指している。
上の広場では、はしゃいでいる子供たちの声がする。
広場にはたくさんの男の子、女の子があふれていた。
走り回る彼らをたしなめる母親の声も混じっている。
異国の万聖節の雰囲気にどっぷりとつかり、僕は酔ったようになって歩いていた。
その時、一人の男の子がカボチャ頭を並べている棚にぶつかった。
ジャック・オー・ランタンがいっせいに投げ出された。
片側のコンクリートブロックが外れて棚が崩壊したのだ。
男の子はうまく体をかわし、怪我はなかった。、
カボチャ頭たちはその場にとどまるものもあったが、多くが坂道を転がり出した。
中に火を灯したまま、ぶきみな、愛らしい、悲しげな、恐ろしい、それぞれの様々な表情を浮かべたカボチャたちが転がって行く。
坂道の人々はそれぞれに驚きの声を上げ、それを見守っている。
子供たちは喜んでそれを目で追う。
小さな子供の中には泣きだす子もいる。
ゴロンゴロンと音を立てて坂を転げ落ちるカボチャたち。
あるものは家のドアにぶつかって止まり、あるものは街灯の柱にぶつかって壊れる。
またあるものは壊れた拍子に蝋燭の炎が紙くずに燃え移り時ならぬ小さな消火騒ぎが起きる。
ほぼ半数ぐらいが坂の下までたどり着き、漁港の海水の中に落ちた。
そしていくつかは海に落ちても、まだ灯りは消えずその不気味な笑顔を浮かべたまま漂うのだった。
まるで夢を見ているような光景だった。

日本へ帰って来てから5年後のハロウィーンの日。
その思い出の国のその街のホームページを何の気なく見ていて驚いた。
ハロウィーンの夜に行われるこの街の風習として、「『ジャック・オー・ランタン転がし』が有名である」という記事があったのだ。
そしてあの石畳を転がるたくさんのジャック・オー・ランタンの写真もあった。
思わず楽しくなってしまった。
そうなのか。
あれをきっかけに毎年カボチャ頭転がしが行われるようになったと言うわけだ。
そう、あの光景は忘れられない。
幻想的で、エキサイティングで、夢の中にいるようだったのだ。
その街に新しい風習が生まれた瞬間に、僕が現場に立ち合ったんだと思うと笑いがこみあげて来た。

ホームページをもう少し見ていると、一人の少年の写真。
『カボチャ転がしのきっかけを作ったジャック君』
それはあの日、カボチャの棚をひっくり返した幼かった男の子の、5年後の姿だった。
偶然にもジャックと言う名前だったその少年は、いかにもやんちゃそうな笑顔で写真に収まっていた。



おわり



ただ今、ツイッターの僕のアカウントはハロウィーン真っ盛りです。
毎日のようにハロウィーンネタでツイノベを書いていますよ。
その中の一本を掌編小説にしてみました。
架空の外国の街の紀行小説みたいな感じですね。

少し書き足して原稿用紙4枚から5枚にしました。

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Commented by りんさん at 2013-11-01 17:13 x
どこかの国で実際にありそうな話ですね。
まるで海野さんがその場にいて見ていたようですね。
私も想像したら楽しくなりました。

日本でもハロウィーンが定着してきましたね。
だけどこんなふうに幻想的ではないですね。
うちの娘なんて、お菓子を交換して食べる日にしてますから(笑)
Commented by marinegumi at 2013-11-02 00:12
りんさんこんばんは。
これってほぼ実話ですよ。

な~んて言って、一瞬でも信じてくれたらうれしい(笑)
もちろん創作ですが、もっと書きこめば実際にあった話の様にも出来るかな。
書いている間、この街の映像がずっと浮かんでいました。

ハロウィーンもクリスマスも日本でのそれはあまり幻想的ではないですね。
借物ですからね。
より幻想的なのは、精霊流しとか、夜店なんてのは幻想的かも。
日本の物がやはりね。
by marinegumi | 2013-10-30 13:11 | 掌編小説(新作) | Comments(2)