海のクリスマス (7枚)

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海に雪が降っている。
何億、何百億という数の雪の粒が夜の海に降り続いている。
冥(くら)い海の水に落ちた雪の粒はそのまま海に溶け込んでしまう。
高く果てしない空から海までの空間を、埋め尽くして降る雪も、海でさえぎられ断ち切られる。

マモルはもう沈んでしまった。
さっきまで目の前で同じ板切れに捉まっていたのに。
このあまりの寒さに凍え、捉まる力を失い、静かに姿を消して行った。
私はそれを見ていたけれど、悲しみは不思議に襲ってこなかった。
雪の一粒が海に消えて行くのと、一人の人間が海に沈んで行くことに大きな違いがないような気さえしていた。
そう、このわたしも間もなく沈んで行くのだし。

『クリスマスイブ・星空のクルージング』に誘ったのはマモルだった。
ディナー付きの若いカップル向けの短い船の旅と言う、クルージング会社の企画だ。
沖から見る港の明かりはとてもきれいで、付き合い始めたばかりの二人にとってこの上なくロマンチックな夜だった。
美味しい料理でお腹いっぱいになり、暖かい服を着ているのでデッキの冷たい風も気持ちがよかった。
一時間後、更に沖へ出た頃に雪が降り出した。
ずっと空は曇っていたので星が見えないのが少し不満だったのだけれど、そんな事は瞬間に忘れてしまった。
クリスマスイブに雪が降る事さえ珍しい暖かい地方なのに、船の上でその雪を見る事が出来るなんて何という幸運だろうと感動していた。
船のデッキの上のイルミネーションに彩られたクリスマスツリーの上に降る雪。
思い思いに語らっている恋人たちの上に降る。
そして、明かりに照らされている船の周りだけではなく、雪は暗い海の上に、どこまでも降り続いている。

海に雪が降っている。
何億、何百億という数の雪の粒が夜の海に降り続いている。
冥い海の水に落ちた雪の粒はそのまま海に溶け込んでしまう。
高かく果てしない空から海までの空間を、埋め尽くして降る雪も海でさえぎられ、断ち切られる。

「ねえ、マモル。あの雪たちはみんな喜んでるのかなあ。自分の体が溶けて水になって、大きな大きな海と一緒になるんだからさ」
「なんだ?今日は詩人モードかよ」
二人は大笑いした。

突然、大きな振動が伝わった。
船が大きく揺れた。
そのあとすぐに更に大きな音と衝撃が襲った。

そして今、わたしは冷たい海の上にいる。
船の残骸の板切れに捉まって。
マモルが目の前にいたのはずっと前だったような気もするけれど、たった今沈んで行ったばかりのような気もする。
なんで自分がこんな所にいるのか、よく思い出せない。
ふと船の乗客たちが海に投げ出される場面が浮かぶ。
人々の悲鳴が耳に残っている。
でもそれは、いつが見た映画、「タイタニック」の一場面だったようにも思う。
わたしの髪の毛に雪が積もり始めていた。
上を見上げると空一面が雪だった。
薄れて行く意識の中でその雪の描く模様を見ていた。
雪は大きな大きなもみの木の形を作る。
白い光のイルミネーションが輝いている。
ツリーの飾りが空を駆け回る。
ホルンを吹く天使達。
大きな大きな星の形。
そして巨大な雪の結晶がクルクル風を切って舞う。
ありえない物を見ているんだとわかっていた。
このままでは死んでしまうんだと。
でもどうすることも出来なかった。
トナカイが引くそりに乗ったサンタがやって来る。
サンタの顔が大きく目の前にあった。
真っ白いひげの真っ白い服と帽子を着たサンタクロース。
ふと、クリスマスの幻影は消え、しばらく雪だけが降り続いた。
しかしまた雪は何かの形を創り出す。
女の人の顔?
王冠を冠(かむ)っている。
雪の女王だ。
目の前に雪の女王は立ちふさがり、そしてし氷の様な冷たい声で話した。
「マモルは私がもらったよ。もうお前の物ではない」
「か……返して」
わたしはそれだけを言うのが精いっぱいだった。
「マモルはね、お前なんかを愛してはいなかったんだよ。一度たりともね。だから悲しむことはないのさ」
風に渦を巻く雪の中に、女王の姿も消えた。

海に雪が降っている。
何億、何百億という数の雪の粒が夜の海に降り続いている。
冥い海の水に落ちた雪の粒はそのまま海に溶け込んでしまう。
高かく果てしない空から海までの空間を、埋め尽くして降る雪も海でさえぎられ、断ち切られる。

雪の粒たちは喜んでなんかいないんだ。
空の上で生まれ、降り注ぎ、短い一生を海で終える。
恐怖に支配された雪たち。
人間だって一緒だ。
マモルもわたしも。

暗い海と空に白い雪だけのモノクロの世界に、一つ二つ赤や青の光が浮かび、だんだん大きくなるのが見えた。
そのささやかな光だけで、わたしは暖かい部屋で過ごした家族とのクリスマスの場面を思い出していた。



おわり



うわー
なんという悲惨なクリスマスを書いてしまったのでしょう。
まあ、まだまだクリスマステーマで書いて行こうと思いますが、出来れば明るく楽しい物も出来るといいですね、って人事みたいに。

これはツイッター小説が元になっていない、珍しい作品です(笑)
書き下ろし、て感じね。

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Commented by 春待ち りこ at 2013-11-13 01:12 x
おぉ。。。
クッ。。。クリスマスが。。。クルシミマスに!!!
こんなに悲惨な内容なのに
描写が美しくそれだけで感動すら覚えてしまう。
本当に筆力がありますよね。
海野さんの凄いところをつくづく実感いたしました。
いやぁ。。。すっかり寒くなりました。。。
冥い海。。。やっと地上に舞い降りて
積りも出来ずに海に消えてゆく雪
やっとこの世に生まれてきて
大したものにもなれずに人生を終えてゆく人間。。。
似たり寄ったり?。。。かもしれません。(笑)

クリスマスの明るいバージョンも期待してます♪
Commented by marinegumi at 2013-11-13 16:43
りこさんこんばんは。

おお~
クルシミマスって久しぶりに聞きました(笑)
うーむ、かえって新鮮かも。

拙い描写力を褒めていただいてありがとうございます。

>やっとこの世に生まれてきて
>大したものにもなれずに人生を終えてゆく人間。。。
>似たり寄ったり?。。。かもしれません。(笑)

どんなに偉業を成し遂げた人でも、何も成し遂げなかった人も歳をとって死んで行く時は同じようなもんだなと、最近はよく思うんですよね。
普通の一人の人間なんだなって。
Commented by haru123fu at 2013-11-13 18:33
わぉ~!なんだか感動して、涙が。。。あ、泣かないんだった。(笑)
さっそく朗読・動画の準備をして、12月からクリスマス企画を発表していきます。
順次書いて下さっても、朗読していきますので、よろしくお願いします。(^_-)ヨロピク
Commented by marinegumi at 2013-11-14 20:39
haruさんこんばんは。
よろしくおねがいします。
楽しみにしていますよ。
やっぱりねー
12月にならないとなかなかクリスマスモードにはならないので、ちょっと悲しすぎるお話しになってしまったようです。

ところで、「泣いたりしない」のコメントで『聞くだけで疲れてしまいます』と言うのはちょっと言葉足らずでしたね。
haruさんの大変な毎日を思うとharuさんの疲れを自分のことの様に感じてしまったと言うことでありました。
Commented by りんさん at 2013-11-15 17:13 x
悲しい…悲しいけど、すごくいいですね。
海に沈んでいく雪と命。
なんて儚いのでしょう。
最後は、救助が来たということなのでしょうか?
それともマッチ売りの少女みたいに、温かい幻をみた?

どうもマモルが、タイタニックのデカプリオに思えて仕方ないんですが、そうなると彼女は助かるんだけどなあ~^^
Commented by marinegumi at 2013-11-15 23:13
りんさんこんにちは。
ありがとうございます。
主人公が助かったのかどうか。
最後まで決められずにぼかして終わってしまいました。

そうです。
書き始めからタイタニックが頭にありました。
読んだ人が「なんだこれ、タイタニックじゃん」の一言で片づけてしまわないように作中でタイタニックの映画に言及しています。

>そうなると彼女は助かるんだけどなあ~^^
助かることにしましょう!
by marinegumi | 2013-11-13 00:23 | 掌編小説(新作) | Comments(6)