サンタクロースはどこから来るの? (5枚)
帰りの電車にゆられながらクリスマスに浮かれている街の明かりを見ていた。
寒空の下に暖かい世界があった。
私だけがその世界の住人ではないような気がした。
電車を降り、しばらく自転車で走ると我が家のある静かな住宅街だ。
どの家にも暖かそうな明かりが灯っている。
ふと、小さく家族の話し声や笑い声が聞こえた。
「クリスマスイブだよなー」
ため息とともに声に出していた。
重いペダルを踏んで我が家にたどり着く。
門柱灯は自動点灯なので明々と灯っていたが、玄関や窓はどこも真っ暗だ。
鍵を取り出してドアを開けると部屋の中の空気が外よりも冷たく感じた。
実際はそんな事はないだろう。
たぶん真っ暗なせいだ。
明かりをつけると、愛犬のジルが走って現れ飛びついて来た。
顔をペロペロなめられる。
ジルはプードルだ。
ちっこいトイプードルではなく、普通のプードル。
わたしが犬を飼うときにトイプードルに決まりかけていたのを反対したのだ。
あまり小さい犬は好きではなかった。
「会社から帰ったら、ジルの散歩をお願いします」
嫁さんの言葉を思い出した。
カバンを玄関に置いてリードをジルの首輪に付けた。
嫁さんは二人の娘と一緒に今日から三泊四日の旅行に行っている。
わざわざクリスマスに出掛けなくてもいいようなものだけれど、クリスマスイベントのある大型テーマパークに行くのだと言う。
「三日間よろしくな。ジル」
そう声をかけると、愛犬は首をかしげた。
通勤の服装のまま散歩に出かけた。
ジルはぐいぐいとリードを引っ張る。
あまり散歩をさせた事はないが、先になって引っ張るのは犬としてのしつけが悪いんじゃないかと思った。
でもまあ、いつもはどう言うルートで散歩させているのか分からないので、ジルの行きたい方向へ行かせればいいかとも思っていた。
ジルはどんどん街灯のない暗い道へと入って行った。
「おいおい、いつもこんな暗い道を通るのか?」
自分でそう言った時に気がついた。
いつもは嫁さんか娘が散歩させている。
夜にさせたりはしないのだ。
もっと早い時間に済ませているわけだ。
「懐中電灯でも持ってくりゃよかったかな」
そう呟いた時、道が結構明るく照らされているのに気がついた。
何の明かりだろうとよく見てみると、なんとジルの鼻が光っているのだった。
「お、お前。その鼻は?」
振り返った愛犬が急に大きくなった。
足がするすると伸び、体もスマートになった。
そしてなんと頭から角がにょきにょきと伸びたのだ。
びっくりして尻もちをついた。
それはまるで鹿、いや、トナカイだった。
そしてどこからともなく表れた他の犬たちが4~5匹集まって来る。
トナカイに変身しながら近づいてくるのだ。
ふと横を見ると大きな橇(そり)が止まっている。
「どういうことだ?!」
訳が判らず頭に手をやるとかぶった覚えのない帽子が触った。
思わず口を押さえるとひげが生えている。
服装は真っ赤な、袖に白いファーがついたオーバーだ。
トナカイたちは橇の引き紐に自分から首を通してちゃんと整列している。
橇の後ろには大きな白い袋が3個もある。
「なるほど。そう言う事なんだな」
私は理解していた。
「サンタクロースに任命されたわけだ」
そう言うことだったんだ。
毎年こうやって家族とクリスマスを過ごす必要のない人物がサンタクロースに選ばれているに違いない。
「ようし。それなら思いっきりサンタクロースを楽しんでやろうじゃないか」
私は橇に座るとムチを振り上げた。
ジルの変身した赤い鼻のトナカイがこっちを睨んだので強く当てたりはしなかったけれど。
「待ってろよ、子供たち!」
橇は半分の月のかかる夜空高く舞い上がった。
おわり
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by marinegumi | 2013-11-20 17:33 | 掌編小説(新作) | Comments(8)
なるほど、一人で暇な人からサンタさんが選ばれるのですね。
それもまた、聖夜の不思議でしょうね。
色々なアイデアで、12月はとっても楽しくなりそうです。
海野さんとしてはどちらも、もぐらさんが良いのではとおもいますが、
15枚ある方は私で我慢してくださいね。
おうおう、長いものに挑戦ですね。
挑戦と言うか、もうすでに長いものは宮沢賢治とかで挑戦済みでしたね。
楽しみにしています。
あ、もぐらさんもありがとうございます。
初もぐらですね~(笑)
こらこら呼び捨てになってる。
初久実って音的には初音ミクの方が近いね(笑)
ツイッターで、ぽっと思いつきで書いたものがけっこう発展させて面白くなることがありますね。っていうか、今はほとんどそんな感じですが。
お二人のクリスマス企画は、ほんとに楽しみですね。
いろいろ大変な事があるのにバイタリティーを感じますね。