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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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冬のアリス (4枚)

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その朝は目が覚めると一面の雪景色でした。
アリスは食事もそこそこに暖かいファーのついた真っ白のコートを着て、耳あてをして家を飛び出します。
お姉さまにスキーを教えてもらうことにしたのです。
雪はまだ少ししか積もっていなかったのですが、川べりの土手の上からなので結構よく滑ることが出来ました。

アリスは何度も転ぶし、お姉さまは笑い転げるしで、いい加減いやになって来ていました。
お姉さまはとてもスキーが上手です。
そろそろアリスに教えるのも飽きて来たのか、自分一人で何度も滑っています。
アリスはスキーを履いたまま腕組みをしてしばらくそれを眺めていました。
朝はまだちらちらしていた雪も降り止み、空は晴れ、太陽が顔を出して暖かい日の光が差しています。
「これじゃあすぐに雪は解けちゃうわね」
アリスがそうつぶやいた時、一匹のウサギが通りかかりました。
真っ白な毛並みの、赤い目をしたウサギですが、驚いたことに服を着ているではありませんか。
ちゃんとしたタキシードにズボン、手にはステッキまで持っています。
そしてなんと人間の言葉をしゃべったのです。
「ああ、もう時間がない。急げや急げ」
言いながらウサギは内ポケットから懐中時計を出してそれを見ました。
「たいへんだ。なんてこったい。これじゃあ、間に合わないぞ」
そしてものすごいスピードで走り出したのです。
アリスは思わずスキーで追いかけました。
それこそ自分がスキーでうまく滑れているのにも気が付かないぐらい夢中でした。

ウサギは森の中へと入って行きます。
お母様に一人で入ってはいけないと言われていたのですが、ウサギを追いかけるのに一生懸命で、すっかりそんなことは忘れていたのです。
森の中入ると間もなく雪がなくなりました。
うっそうと茂る木々の枝に雪が降り積もっていますが、地面までは少ししか落ちてこなかったようです。
滑っているうちは追いつきそうだったのに、スキーを脱いで歩き出すと、みるみるウサギは遠く小さくなって行くではありませんか。
アリスは懸命に追いかけました。

ウサギを見失い、それでも見当を付けてしばらく歩いて行くと、懐中時計が落ちていました。
あのウサギが持っていた物に間違いありません。
そしてまたしばらく歩き続けると今度はステッキが落ちていました。
そしてまたしばらく歩き続けると次にはタキシードの上着が落ちていました。
拾い上げてみるとなんだか少し濡れているのでした。
そしてまた歩き続けるとさらに今度はズボンが落ちていました。
またしばらく歩いて行くとやがて、大きな木の根っこの部分に空いた穴が見えてきました。
「どうやらウサギはあの穴の中に入ったようね?」
アリスはそう思いながら近づいて行きました。
穴をのぞいても何の音も聞こえません。
「ウサギがこの穴の中を走っているとすれば足音が聞こえないはずはないわよね。ほら穴って音がハンキョウするって言うから」
アリスはそう声に出して言ってみて、覚えたての「反響」と言う言葉を使ったことが少々誇らしく思えました。
「穴に入ったのじゃないとすると……」
アリスは自分が走って来た方を振り返りました。
すると、そこには小さな水たまりがあったのです。
その水たまりの中に何か赤い小さなものが二つ落ちています。
拾い上げるとそれはナンテンの実でした。
アリスはそれを手のひらに載せてじっくりと見ました。
そして思い出したのです。
今朝、自分の家の庭にあるナンテンの実を採ったことを。
その実を二つの目にして雪ウサギを作ったことを。

「そうなのね。溶けちゃわないうちにこの穴の中に入りたかったのね」



おわり



ひさびさの暇な日曜日。
仕事中にもかかわらず、2本も書いて画像を用意してアップすることが出来ました。
これも、元はツイッター小説です。

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Commented by 雫石鉄也 at 2014-01-13 13:54 x
かわいらしくって素敵なファンタジーでした。
Commented by marinegumi at 2014-01-13 23:39
雫石さんこんにちは。
ありがとうございます。
不思議の国のアリスはお話のモチーフやパロディーのネタとして魅力的ですよね。
そう言えば、海神シリーズでアリスのパロディーやりましたね。
Commented by りんさん at 2014-01-17 17:27 x
可愛いお話ですね。
雪うさぎとは予想外でした。
次に雪が降ったとき、ひょっこり穴から出て、赤い目を探して歩くかもしれませんね。
夢のある素敵なアリスでした^^
Commented by marinegumi at 2014-01-18 18:38
りんさんこんにちは。
ありがとうございます。
>次に雪が降った時

地面に落ちたナンテンの実の上に降り積もった雪は誰もウサギの形にしてくれなかったのでうすっぺらい雪のまま動き始めました。
赤い目をきょろきょろさせて。
冬のホラーになっちゃいますね。
by marinegumi | 2014-01-12 15:13 | 掌編小説(新作) | Comments(4)