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夢を見る獏 食べる獏 (12枚)

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     あなたの周りにもきっと獏(ばく)がいるのです
     そう あの夢を食べると言う獏です
     彼らはあなたの夢を食べようと待ち構えています
     あなたの枕もとにうずくまったり
     寝室の天井裏に潜んだり
     ベッドの下に潜り込んだり
     そして神出鬼没の獏たちは時々
     あなたの夢に入り込むこともあります
     彼らとうまく付き合って行きたいものです
     それがより良い睡眠生活を送るコツなんです
     さてそれではそんな獏ちゃん達のお話の始まりです






ある、夏のうだるような夜の事だった。
エアコンのない部屋のベッドの上で、春香はあまりの暑さに眠る事も出来ず、何度も寝がえりを打っていた。
目を閉じて懸命に眠ろうとした。
やがて何かの足音が聞こえたので目を開けると、痩せ衰えた獏が枕元に集まってきていたのだ。
獏はみんなひもじそうに彼女の方を見ている。
「もう!あっちへ行きなさい。眠れないから夢もおあずけだよ。しっしっ、あっち行けってば」

ドアを開けて母親がのぞいた。
「まあ、はっきりした寝言。この子、どんな夢を見てるのかしら?」

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

眠っている時に、僕は眠っているんだと気がついた。
でも夢は見ていない。
ただ真っ暗なだけだ。
眠っていて、あたりが真っ暗だと言う夢を見ているのとは違うのだ。
夢は見ていない。
夢ではない眠りの中をしばらく歩いて行くと明かりが見えて来た。
そこには十頭以上の獏が集まっていた。
テーブルの上のたくさんの大きなお皿の上に、何か色とりどりのふんわりしたものが並んでいる。
「何をしているの?獏ちゃんたち」と、僕は聞いた。
「夢パーティーを開いてるんだよ」と一匹の獏が答えた。
そうするとお皿の上のは、色んな夢だってわけか。
今夜見るはずだった僕の夢も、このお皿に乗っているかもしれないね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ある日一頭の獏は気がついた。
「僕たちは人の夢を食べるけれど、僕たちも眠る時には夢を見るよね。だったらその自分の夢を自分で食べることも出来るはずじゃないか。そうすればもうこれから一生、食べ物に困らないぞ! 」
獏は初めて自分の夢を食べました。
「おいしい!人間の夢よりおいしいじゃん!」
それから一週間でその獏は小さくなって消えてしまいましたとさ。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

眠れない夜。
どこからともなく獏がやって来てベッドの上を飛び越した。
獏はだんだん増え続け、何匹も何匹も右から左へ飛び越して行く。
「獏が一匹。獏が二匹。獏が……」
ぼくはその数を数えてみた。
でも眠れない。
ベッドの右側にたくさん集まった獏たちはベッドを飛び越すと、また右側へ戻ってくる。
それを僕は数え続ける。
「獏が二十五匹。獏が二十六匹。獏が……」
獏たちはみんな僕を見てよだれを垂らしている。
お腹をすかせているのだ。
「お腹がすいたんなら他の人の所へ行けば?ぼくは不眠症なんだからさ」
聞いてみると、不眠症の人間の夢はとても珍味らしい。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

夢の中の川に船を浮かべ火を焚いているのは鵜庄(うしょう)のようだ。
たくさんの紐を器用に操っているが、その紐の先に繋がれているのは鵜ではなく、なんと獏だった。
獏たちは夢の川に潜り、夢を呑みこもうとする。
しかし、首の所で紐をくくられているので呑み込んでしまえない。
鵜庄によって船の上のカゴに吐き出さされてしまう。
カゴには色とりどりの光を放つ夢がいっぱいだった。

「なんて夢を見たんだよ」
そうみんなに話すと爆笑だった。
そうね。
鵜庄ではなく、獏庄だもんね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

わたしは夢を見ていた。
夢の中にはたくさんの獏ちゃん達が食べに来ているんだ。
それもみんな甘い夢が好物の女の子の獏ちゃんばっかり。
わたしの夢ってそんなにおいしいのかな?
悪い気はしないな。

目が覚めた。
学校へ行く支度をしてテーブルで朝食を食べている。
今日はわたしの卒業式だ。
「学校卒業したら何のお仕事しようかな。アイドルか女優がいいんだけどな~」
「甘い!」
と、新聞を読んでいたパパが言った。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ひどい悪夢を見た。
こんな恐ろしい悪夢は初めてだ。
何度も同じ悪夢にうなされて心臓をバクバクさせながら目を覚ます。
同じ夢だからって慣れる事はない。
何度見ても初めて見るように恐ろしいんだ。

獏がいつもより遅れてやってきた。
「獏ちゃんてば、何で今日は遅刻しちゃったの?悪夢にうなされて何度も目が覚めちゃったよ」
「ごめん。今日は夢の鑑賞会だったんだよ。たまには夢を食べずに、見て楽しもうと言う獏仲間の集まりなの」
「そんなのがあるんだ?」
「それでさ、君の悪夢が好評でね。何度もアンコール上映さ」
「それのせいかよ!」

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

バレンタインの日。
大好きな人に渡そうとしたけれど、受け取ってもらえなかったチョコレート。
一晩かけて、寝不足になってまで作ったチョコレート。
その箱を抱えて帰り道。
急につらくなっちゃって、思いっきりそのチョコの箱を道路にぶつけてやった。
箱からチョコが飛び出して散らばった。
するとどこからともなく獏が現れ、そのチョコレートを食べ始めた。
夢しか食べない獏がなぜ?
そうか。
そうだよね。
そのチョコにはわたしの夢がいっぱい詰まってたんだものね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

雪山で吹雪に遭い、身動きがとれなくなった。
だんだん寒さも感じなくなり、どうしようもなく眠くなってきた。
雪山で遭難死ってこんな感じなんだな。
眠ってはいけないと解っているのに、ほんわか気持ち良くなってくる。
ああ、向こうに青空が見えて来た。
その下に色とりどりのお花畑が広がっている。
美しい風景の中を小鳥たちが鳴きながら飛び回っている。
すると突然その美しい景色がはじっこから消えて行き出したんだ。
え?どうしたんだろう。
またたく間にきれいさっぱりなくなってしまった。
あれは獏だ。
獏たちが僕の夢を食べているんだ。
その中の一匹の獏が僕のそばに来て言った。
「われわれは、獏ちゃん冬山レスキュー隊です!」

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

わたしは獏を殺した。
だってわたしは夢を見るのが大好きなんだ。
その夢を食べるなんて許せなかったんだ。
獏はわたしの夢の中に沢山いたので全部殺すまで一週間かかってしまった。

それからは、毎日毎日膨大な量の夢を見た。
まるで現実の様な夢を毎晩、初めから終わりまできっちりと見続けた。

眠っているのに寝不足になってしまった。
いくら眠ってもずっと夢を見続けるので神経が休まらないのだ。
獏を殺してはいけなかったんだね。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

獏が異常発生した。
ありとあらゆる人々の夢は喰い尽くされ、誰も夢を見なくなってしまった。
いや、見てはいるのだが見ているそばから獏に喰われてしまうので記憶に残らないのだ。
ある日、学校の国語の授業があった。
作文の時間だ。
テーマは『私の将来の夢』
全く思いつかない。
さては獏のやつ、眠って見る夢だけでは足りずにこの夢まで?

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

夜、眠れないでいると獏の親子がやってきた。
一頭の子獏を連れている。
獏が子供のうちは決まった人間の夢だけしか食べられないのだと言う。
「それじゃあ、その子はわたしの夢しかだめなの?こまったわね」
その子獏はわたしが眠れないのでひもじい思いをしているのだそうだ。
男の子に片思いをしていて眠れないのだと言うと、その恋を叶えてあげますと言ってくれた。
獏にはそんな能力があるんだ?

その晩はうれしくて眠れなかった。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「みんな。よく耐えて来た。しかしこれで終りの様だ。我々は多くは望まなかった。我々にとって食料は量ではない。良質であればたった一つでも何万頭もの仲間がそれを分け合えた。しかし今、人類最後の一人が息を引き取った。最後に夢を見る事もなく」
広場に集まっていた獏たちは、みんな嘆きの声を上げた。

       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

労働者不足の未来。
人類は眠りが不要になる薬によって疲れも知らず、長時間働けるようになった。
そしてまた長時間働きもするが、同じように有意義に24時間の半分をレクリエーションに使えるようにもなったのだ。
街には娯楽があふれていた。
人類はよく働き、よく遊んだ。
全く眠らずに。

夢を食べられなくなって絶滅寸前だった獏は人工に夢を生成する装置の普及によって、だんだんその数を増やしていると言う。




おわり




ツイッターで書いたツイノベのうち「獏(ばく)」が登場する物からピックアップして長めに書き伸ばしたものです。
面白そうなものだけを選んだので、これで半分ぐらいかな?
全部で14本ありますが、まだまだ書けそうなおいしいテーマですね。

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by marinegumi | 2014-03-26 20:44 | ツイッター小説プラス | Comments(6)

Commented by okuma at 2014-03-27 20:59 x
すばらしい。堪能しました!!
Commented by marinegumi at 2014-03-27 23:51
okumaさんこんばんは。
ありがとうございます。
堪能はいいけれど、ゲップが出てはいないかと心配です。
Commented by okuma at 2014-03-28 01:32 x
え? クドくないか、という意味ですか? 全然そんなことはないですよ。
Commented by marinegumi at 2014-03-28 17:21
一安心です。
くどくならずに済んでいるとしたらそれは僕の努力のたまものです。
Commented by okuma at 2014-03-28 21:22 x
ふたつやみっつでは意味がないんですよね。これだけ獏ばなしが集められたから、素晴らしいんです。
という次第で、海野さんの努力のたまものであるのは間違いありません(^^;
Commented by marinegumi at 2014-03-29 00:18
ありがとございました~d(⌒o⌒)b
ふぁぼろぐ http://favolog.org/
と言うやつで自分のツイッターのお気に入りを見ると言葉で検索できるんですよね。
「獏」と「貘」で検索すると30以上ずら~っと出てきました。
べんり。