ソメイヨシノ (4枚)

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彼女は実に長い時間、何度も何度もプレパラートを替え、顕微鏡で観察していた。
息を止めてじっと数十秒。
そして小さくため息をつき、ふと視線を上げる。
そこには壁に飾られた桜の花の写真があった。
ま正面の写真の木は、まるで雲海のように咲き誇る満開の桜だった。
研究室には他にも写真はある。
可憐な花のクローズアップの写真。
色の濃い蕾(つぼみ)の写真。
木漏れ日が美しい葉桜の写真。
その全てが桜、ソメイヨシノの写真だった。
ぐるりと見回してまた正面の写真を見ると、少しかすんで見えた。
目が疲れているのだと自覚していた。
椅子の背もたれに体重を預け、腕組みをして目を閉じる。
目を閉じて数秒後、彼女の後ろで音にならないほどかすかな音が聞こえた気がした。
ひそやかな、空気をわずかに震わせる、ささやくような音。
彼女はゆっくり後ろを振り返った。
そこには高さ1メートルほどの桜の木が植物育成用のLEDライトに照らされて立っていた。
土を入れた大きなコンテナに桜の木は十数本植えられていたが、あるものは枯れ、あるものは葉をつけただけだったりするが、そのうち一本だけがわずかに数個の蕾を付けていた。
そしてその蕾のうちの一つが奇跡の様に開いていたのだ。
彼女は立ちあがってその花に顔を近づけた。
「さっきの音はあなただったのね」
花に手を伸ばした彼女の手はわずかに震えていた。
その手は花には触れずにしばらく愛おしく花を包んでいた。
「やっと咲いたのね」
80年ほど前からソメイヨシノの伝染病が猛烈な勢いで広まり、食い止めるために多くの木が伐採された。
しかし効果は全くなく、またたく間にソメイヨシノは全滅してしまった。
数年遅れてアメリカや他の国のソメイヨシノも同じ運命をたどった。
その伝染病はまた、突然変異を繰り返し、ジワリジワリと他の木々にも魔手を伸ばし、全国の山々は茶色く変色して行くのに任せた。

ある農業施設に何十年も冷凍保存されていたソメイヨシノの苗木があると聞いて彼女たちのチームはそれをもらい受けたのだがすでに冷凍庫は故障して久しく苗木は腐蝕してしまっていた。
それでも彼女は諦めなかった。
腐った苗木からわずかに生き残っている細胞を取り出して培養を始めた。
彼女のチームが桜の復活を目指して研究をしていると聞いた人々は誰もが笑い飛ばした。
誰もがそれは無理だと口をそろえた。

それがやっと今、小さな木に成長して十数本のうちのただ一本が育ち、葉をつけ、葉を散らし、蕾をつけ、ついに一輪の花が開いたのだ。
彼女の目はその一輪の桜の花の向こうに満開の桜の木を見ていた。
雲海のようにうねる桜並木を見ていた。
「この木はきっとどんな伝染病にも負けない強い桜になるわ」
彼女は自分が着ているおばあちゃんからもらった割烹着を見た。
研究室では白衣代わりに着ているものだ。
「おばあちゃん。わたし頑張ったわよ。おばあちゃんみたいに」




おわり




昨日書いた三本のツイッター小説のうちの一本を長くしてみました。
珍しく時事ネタだったりして。

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Commented by okuma at 2014-04-06 21:29 x
おお、いいですねえ。リケジョ三世?
初代もがんばれ(^^;
Commented by marinegumi at 2014-04-07 13:43
okumaさんこんばんは。

うふふふ。
小保方さんの逆襲が楽しみです。
Commented by りんさん at 2014-04-07 23:32 x
ホントにタイムリーですね。
リケジョもそうですが、先日病気になった梅の木が切られたニュースを見ました。
小保方さん頑張って^^
Commented by 雫石鉄也 at 2014-04-08 13:42 x
あした、ご本人が会見するそうですね。
小保方さんがんばれか、小保方自業自得か、私にはわかりません。
Commented by marinegumi at 2014-04-08 17:00
りんさんこんばんは。
ほんとに珍しく時事ネタですが、初めはそうではなかったんですよね。
書きながらラストをどうするかと考えていると、ピンと思いつきました。
Commented by marinegumi at 2014-04-08 17:05
雫石さんこんにちは。
がんばってほしいです!(笑)
小保方さんを一人悪者にする見苦しい大人たち。
まあ、STAP細胞がちゃんと出来れば文句はないんですけどね。
by marinegumi | 2014-04-05 22:44 | 掌編小説(新作) | Comments(6)