みゆき (4枚)

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みゆき。
お前は気の弱い女だったな。
俺と暮らした短い年月の間、言いたいことも言わず俺の言いなりになっていた女だった。
でもきっと心の中は決して穏やかではなかっただろう。
陰気な女だったが俺は気に入ってたんだぜ。
お前の顔立ちやその体つきはな。
それだけにお前の性格が余計に嫌になったのかも知れない。
そうさ、あのひどく迷信深かったところもな。
一緒に暮らし始めて間もないころ、俺が夜遅く足の爪を切っているとき、お前は部屋に入って来ると、そこに立ったままで俺をじっと見ていた。
何か言いたそうにして。
「なんだよ?どうかしたのか」
俺が聞いたら、何かぶつぶつ言いながら洗濯物を持って出て行こうとした。
「はっきり言えよ!」
もう一度聞くと、お前は言った。
「夜に爪を切ると親の死に目に会えないって言いますからね」
俺は軽く噴き出してしまった。
「なんだそれ、古臭い迷信を持ち出して来るんじゃないよ」
出て行くみゆきの背中に俺は言った。
「親の死に目になんか会わない方が気が楽かもな」

そうだ、そう言えば俺はよく手鏡を使ってそのまま部屋の絨毯の上や、テーブルの上に表向きのまま置いていたことがあった。
それがふと気がつくといつの間にか裏向きに置いてあるのだ。
必ずそうだった。
これもきっとみゆきがやっていたんだと思う。
鏡を表向きのまま置いておくとよくないことが起きる。
そんな迷信がきっとあるのだろう。

あいつと暮らした古い一軒家を後にして今は新しい街で暮らしている。
新しい仕事を見つけ、働き始めて三カ月目に今の女と暮らし始めた。
みゆきと別れる原因になったのも迷信がらみの些細な口論だったような気がする。
俺はたまたま虫の居所が悪く、たぶんみゆきもちょっとイライラしていたのかもしれない。
今でも思い出せないほどのどうでもいい事を二人とも譲ることが出来なかったのだ。
思わぬ激しい口調で喰ってかかるみゆきを見て、俺も必要以上に激高したのだ。
初めてあいつに手を上げてしまった。
そんな事を思い出しながらいつもの会社帰りの道を歩いている。
我が家のある古い二階建てのマンションへ通じている狭い路地へ入り、少し歩いた所で、急に猫が飛び出して来た。
真っ黒い猫が、左側の家の生け垣の間から出て来て俺の前を横切ったのだ。
猫は道の右側で立ち止まって、俺の方を見上げた。
目と目が合った時、俺は訳のわからない寒気を感じた。
その猫の目に見覚えがあるような気がしたのだ。
「ニャア~」とそこだけ赤い口を開いて猫は鳴き、家と家の隙間に消えた。
俺はあの古い貸し家の下、土の下深く眠っているみゆきを思い浮かべた。
そうなのか。
今のはお前なんだな、みゆき。
今のが、気が弱い迷信深いお前の、ささやかな俺に対する仕返しなんだな?
それでお前の気が済むのならこの先の悪運を受け入れてもいいんだぜ、みゆき。

俺はそんなものはこっから先も信じてはいないけどな。




おわり




つい最近書いたツイッター小説を長くしたものです。

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Commented by haru123fu at 2014-04-27 00:41
びっくりしました。まさか別れただけだと思って読んでいたら、殺していたなんて!
ウッソー!信じられな~い!でもこのお話面白いです。
いつもなら、朗読のお願いをするところですが、今はいつYouTubeが使えなくなるかも知れない状態です。
後、1回警告が来たらアウトです。昨年の10月の著作権法の改定からの作品は、全てフリーの素材を使っているので著作権侵害は無いのですが、過去記事に警告が来ると全作品が抹消されるので、申し訳ないです。
この作品を朗読したかったです。これからも、海野さんのブログには朗読したくなる作品が沢山載るのでしょうね。残念です。ごめんなさい。(._.)ペコリ
Commented by marinegumi at 2014-04-27 10:22
はるさんこんばんは。
ありがとうございます。
最近は結構調子がいいですね。
掌編になりそうなアイデアがツイッターでどんどん出てきます。

この際、YouTubeのアカウントをもう一つ取ると言うのはどうなんでしょうかね。
by marinegumi | 2014-04-26 22:44 | 掌編小説(新作) | Comments(2)