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水族館 (3枚)

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ゆうりと二人っきりで水族館へ行った時だった。
大水槽の前でアクリルガラスに顔をくっつけるようにして魚たちを見ていたゆうりがポツリとつぶやいた。
「お魚って化けて出ないのかな?」
「え?どういうこと?」
ぼくが聞くと、ゆうりは水槽を見たままで答えた。
「お魚さんってさ、わたしたちにたくさん食べられて、きっと恨んでると思うんだ」
ぼくは吹き出してしまった。
「そんなこと思ってたらお魚食べられなくなっちゃうじゃん」
ゆうりは水槽の上の方を見上げた。
ジンベエザメのえさの時間だった。
水面に投げ込まれたえさを、ジンベエザメが大きな体をたてにして泳いで食べていた。
「ジンベエザメが食べてるのはオキアミとかの小さなエビだよ。オキアミがみんな食べられたのを恨んでお化けになって出てきたらうるさくてしょうがないよね」
ゆうりはぼくをにらんだ。
でもすぐに笑顔になってぼくの手をつかむとそのまま歩き出した。

あれから二年が過ぎた。
ゆうりが海でおぼれて死んでからも、もう一年だった。
窓の外には大雨が降っている。
夏休みに入ったばかりだと言うのに、これでもう三日降り続いている。
机のスタンドに付けているジンベエザメのキーホルダーが目に入った。
水族館であの日買ったものだ。
「お魚って化けて出ないのかな?」
ゆうりの言葉を思い出した。
思い出すと言うよりも、声が聞こえた気がした。

そのとき、コツンと、音がした。
窓ガラスを何かがたたく音だ。
梅雨時に伸びた木の枝だろうかと思った。
コツン、コツン
窓に近づいて外を見た。
あんなに激しかった雨はもう降っていなかった。
そのかわり外の街の景色はどこまでも青く、まるで海の底のようだった。
いや、あの日の水族館の水槽みたいだった。
コツン、コツン、コツン。
窓をつついているのは魚だ。
魚たちはどんどん増えて行き、群れを作ってものすごい速さで泳ぎ、窓ガラスをかわりばんこにつつき始めた。
バラバラバラとまるでヒョウでも降るように窓ガラスに当たった。
やがてガラスにひびが入った。
このガラスは水族館のような分厚いアクリルガラスじゃない。
「お前たちは、ぼくが食べた魚の幽霊なのか?」
ガラスが窓枠ごとこわれ、たくさんの魚と一緒に水が流れ込むのを見ながら、ぼくは身動きできなかった。




おわり




5月16日に書いたツイッター小説を書きのばしたものです。
この作品は「窓枠水槽」と言うタグで書いたいくつかの作品の一つになります。
「窓枠水槽」のタグ作品はこちら

ところで、作品に出てくる「ジンベエザメ」ですが、最初は「ジンベイザメ」にしていましたが、調べたところ「ジンベエザメ」が正式名称だと言うことで直しておきました。
ネットで使用されている割合では「ジンベイザメ」の方が優勢らしいですが。

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Commented by もぐら at 2014-05-18 13:38 x
こんにちは。
いつも読み逃げですみません。

私は今 仕事でお魚関係の資料を作成しているので
お魚はもういいよ~(T_T)って感じです。(笑)

前に活け蟹を茹でるとき 同じようなこと思ったなぁ。
グラグラとお湯が沸いているお鍋に蟹を入れようとしたとき、ふと蟹と目が合って
「あぁこの蟹が最後に見るのは私なんだ・・・。」ってちょっと蟹と見つめ合って固まってました。

でも茹でましたけどね。
「私はキミを食べないから。恨むんなら食べる人恨んでね~。」って。
あぁ人間って勝手。
Commented by marinegumi at 2014-05-18 14:46
もぐらさんこんにちは。
いえいえいいんですよ。
読み逃げ大歓迎です。
カニはそうですよね。
なんだかあの目が恨みがましいですよね(笑)
平家蟹なんていうのがあるので、カニ全般に落ち武者的なものを感じてしまいます。

「おさかな天国」っていう歌が流行りましたね。
 さかなさかなさかな~
 さかなをたべると~
 からだからだからだ~
 からだにいいのさ~
そのPVでおさかなさんが楽しそうに踊ってる(笑)
Commented by 雫石鉄也 at 2014-05-19 14:11 x
私は水産学科出身です。ですから、普通の人よりもたくさん魚には接してきましたが、こんなことを考えたことはなかったなあ。さすが海野さん、面白いことを考えますね。
Commented by marinegumi at 2014-05-20 00:33
雫石さんこんにちは。
なんかね、最近年のせいか(笑)小さいものの命を考えちゃうんですよね。
こないだ、車の運転中にスズメが道路で何かついばんたんですが、車が近づくと逃げるだろうと思ってそのまま走らせると、これが逃げない。
タイヤが轢いた様な感触があって「うわ」と思いました。
さっきまで生きてたのに一瞬にペッチャンコ。
食べ物を見つけて、それを食べてこれからまだまだ生きて行けたのになんて思うとちょっとブルーになってました。
その後、仕事を終わって引き返してスズメを轢いたらしい場所をもう一度通るとスズメの死骸も、血の跡とかもない。
ええ~?と思いました。
轢かなかった?
スズメは逃げて、スズメが食べようとしていた何かを轢いただけ?
そこでちょっと気が楽になりましたね。
でもまだそうとは言い切れないんですよね。
タイヤに巻きこんで車の裏側にへばりついてるとか(笑)
怖くて調べられません。
Commented by りんさん at 2014-05-20 18:48 x
ゆうりは海でおぼれて死んだというのが、何とも悲しいですね。
だって、ゆうりは魚たちに食べられてしまったかもしれない。
ゆうりを食べた魚たちが、彼を連れに来たのかもしれませんよ。
不思議で雰囲気のある話でした。

ところで我が家は今夜マグロなんですが、まさか化けて出ませんよねぇ(笑)
Commented by marinegumi at 2014-05-21 09:59
りんさんこんばんは。
魚たちに食べられてしまったとまでは考えていませんでした。
溺れて死んだんですからね。
魚の幽霊に海に引きずり込まれたんでしょうか。
見た目にはただ溺れて死んだとしか解らないけれど、ゆうりには魚の幽霊が見えていた。
そんな感じね。

>不思議で雰囲気のある話でした。
なんかこの雰囲気、好きですね。
少年少女と水族館。
シリーズ物にしたい誘惑がちらりと。

マグロですか?
食べる前にちゃんと手を合わせて「いただきます」と言えば大丈夫ですよ。
by marinegumi | 2014-05-18 11:56 | 掌編小説(新作) | Comments(6)