雪だるま (4枚)

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夏休みのある日、僕は庭で生温かい風に吹かれていた。
エアコンの室外機が回っている。
ふと、その上に小さな雪だるまがふたつ乗っていた場面を思い出していた。

それは冬休みのことだった。
夜に吹雪になって一晩のうちに庭に雪が積もった。
朝には降りやんでいたけれど、庭に出てみると少しの風でもほっぺたが切れそうなほど冷たく感じた。
ぼくは庭に積もった雪で雪玉を作ってそれを投げてみた。
木の枝にあたると雪玉は割れて、枝に積もっていた雪と一緒に粉になって落ちる。
もう一度雪玉を投げようとしてかまえたとき、隣の田中さんちの二階の窓に女の子が見えた。
ガラスに顔を押しつけるようにしてこっちを見ている。
ぼくが手招きすると笑顔になってそこからいなくなった。

女の子はファーのついた可愛い赤いコートを着て下りて来た。
「雪だるま作らないの?」と、その子は聞いた。
そういえば田中さんちには庭がなかったんだ。
道路の雪はもう車に踏まれて泥で汚れたりとけてしまったりたりしている。
うちの庭は一面真っ白な雪だ。
ふたりして大きな雪だるまを作った。
風が強くなり、また少し雪が降って来たけれど、作っているうちにふたりとも汗をかいていた。
出来上がった雪だるまを見ながら、手のひらに乗るほどの小さな雪だるまも作った。
ぼくがひとつ、女の子もひとつ。
それをエアコンの室外機の上に並べてみる。
ぼくたちは顔を見合わせて笑った。
女の子は可愛かった。
その笑顔は学校のクラスの女の子の、だれよりも可愛いと思った。
また少し強く風が吹いた。
とても冷たい風だったけれど、汗をかいているぼくたちには気持ちがよかった。
女の子は田中さんの親戚で、遠い町から遊びに来ていただけだった。
だから次の日にはもう帰ってしまうのだと言った。
それを聞いても、その時にはとくに何も感じなかった。

あくる日、ぼくが家から外に出たとき、ちょうど女の子の乗った車が走り出すところだった。
女の子は車の後ろの窓から僕に手を振ってくれた。
走り出す車。
小さくなる女の子。
胸がチクリとした。
何か大事な物を失くしてしまったようなどうしようもない痛み。
そんな気持ちは初めてだった。
春休みになると、またあの子は田中さんちに遊びに来るんだろうか?
もし来たとしたら、今度はもっと仲良くなれる気がした。

待ちどうしかった春休みは来たけれど、そのまま何もなく終わってしまった。
田中さんに女の子の事を聞いてみたいと思ったけれど、恥ずかしくてとても聞けなかった。

夏休みももうそろそろ終わる。
汗をかいた僕は家の中へ入るとコーラを飲もうと冷蔵庫を開く。
コップに注ぎ、飲みながら今度は冷凍室を開けた。
そこにはあの日の二つの小さな雪だるまがあった。
冷凍室の冷気が顔にふれ、あの冬の日の冷たい風を思い出して、また胸がチクリとした。



おわり



この作品は公募ガイド8月号の「第16回実践シナリオ・小説教室」に応募して、落選だった作品です。
テーマは「風」でした。
元は原稿用紙2枚半でしたが少々手を入れて長くしています。

同じ公募ガイド8月号の「第29回小説の虎の穴」に応募した作品も落選でしたが、これも近いうちに公開します。
しかし同じ号で両方落選と言うのはちょっとがっくりきますね。

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Commented by りんさん at 2014-07-18 19:59 x
切なくて可愛い幼い恋。
冷凍庫の雪だるま、夏なのに冷たい風を思い出すところが、なかなか上手いなと思いました。
胸がきゅんとなりますね。いい話だと思います。

シナリオ教室にも挑戦しているんですね。
私も気になっていました。今度書いてみようかな。
Commented by marinegumi at 2014-07-19 17:12
りんさんこんばんは。
この作品はシナリオ・小説教室の記事を読まずに書いたものなんです。
やっぱり毎回の記事をちゃんと読んで勉強してから投稿した方がよかったような気がしますね。
次回の「階段」も投稿済みです。
by marinegumi | 2014-07-09 17:14 | 掌編小説(新作) | Comments(2)