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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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標本棚 (4枚)

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「生物室なんて、皮肉な部屋もあるもんだよね」
ゆりあはそう言って標本棚のホルマリン漬けのカエルが入っているビンを、指でコツンとはじいた。
そして、まゆをしかめて鼻をクンクンさせながら標本棚を見て回った。
放課後の生物室。
ぼくたちは理科クラブに入っている。
週一回のクラブは終わり、部員はみんな帰ってしまっったところだ。
クラブ日誌を書き、後片付けをした。
生物室のドアをロックすれば、あとは先生にカギを返しに行くだけだった。
「皮肉って、どう言う事だよ」
さっきの一言からずっと何も言わないので、ぼくは聞いた。
ゆりあは振り向いて、目にかかった髪の毛をひとさし指でかきあげた。
大きな瞳がぼくを見た。
「だってそうでしょ。ここにあるのはみんな生き物の死体ばっかりじゃん?」
そう言うと大きなビンの中の解剖された猫とにらめっこするふりをした。
「あんたの負け~」
よく見るとその猫はまるで笑っているような表情だった。
おなかを切り開かれ内臓をあらわにされ、それでも笑っているように見えるなんて。

標本棚には他にも、もっとたくさんの標本が並んでいる。
ホルマリン液で満たされたビンの中で茶色っぽく変色しているいろんな生き物たち。
海に棲んでいた魚も、陸に棲んでいたネズミも同じようにホルマリン液の中だ。
標本箱にピン止めされたたくさんの種類の昆虫たち。
けっこう古いものは崩れて粉になって落ちている物もある。
犬やタヌキの骨格標本もあれば、鳥類の剥製もある。
「ねえ。りくくんとわたし、二人してホルマリン漬けになったらいいかもね」
「え?ど、どう言う事だよ、いきなり」
ぼくは本当に面食らってしまった。
「この辺がいいかな?」
そう言いながらゆりあは標本棚の外れのあたりの床を指差した。
「ここに大きなビンを二つ並べてさ、わたしたちの名前は書かないの。『少年12歳』『少女12歳』とだけ書いたラベルを張っておくのね。そうだなー。りくくんだけは解剖標本にしてもらおうか?」
「何言ってんだよ。気持ちが悪い」
ゆりあはそんな想像をするとは思えない優しい笑顔を見せ、声をあげて笑った。
笑い声が収まると、一瞬、生物室はしんと静まりかえった。

ゆりあは床に置いていた自分のカバンを持ち上げる。
帰るのかと思っていると、中から何かを取り出した。
それを標本棚のネズミとカエルのホルマリン漬けの間に置いた。
手の上に乗るほどの小さなおもちゃの水槽だった。
その中では小さな魚が二匹、どう言う仕掛けなのか分からないけれど、まるで生きているようにゆらゆらと泳いでいた。
窓からの光でそれだけが明るく照らされていた。

いつか生きていた者たちはみんな動かない。
初めから生きてはいなかった物だけが動いてる。

ぼくとゆりあは手を繋いで生物室を出た。




おわり




「小説の虎の穴」の投稿作品を書かなくちゃと思いながら考えていると、ついこんなのを書きたくなってしまいました。
投稿作品と言うのはやっぱり気を使うんですよね。
誤字脱字、表現におかしな所はないか、ぴったり5枚に納める為の文字数や改行ののやりくり。
つい、気楽に書けるものを書いてしまいます。

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Commented by りんさん at 2014-07-31 17:24 x
いいですね。
どこかの生物室で、実際にありそうな会話です。
日常を切り取りながら、一歩間違うと不思議な世界に迷い込みそうな、
そんな不思議な雰囲気のある話ですね。
こういうの好きです。
Commented by marinegumi at 2014-08-06 13:44
りんさんこんにちは。

ありがとうございます、僕もこの作品を読み返しているとだんだん好きになってしまいました。
特に不思議な事は起きないけれど、起きそうな雰囲気。
こう言う作品がたくさん書けたらいいんですけどね。
by marinegumi | 2014-07-23 16:14 | 掌編小説(新作) | Comments(2)