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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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心霊スポット (8枚)

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学校では、ぼくはいじめられていたのかもしれない。
かもしれないと言うのは、ぼくにいじめられていると言う自覚がなかったからだ。
僕は小説が好きで、いつも休み時間には教室で本を読んでばかりいたので、ちょっと変わった奴だと思われていたのだと思う。
それでからかわれたりすることはよくあった。
面と向かっていろんなことを言われた。
一番覚えているのは一人の男子が歩きながら、マイクを持っている体(てい)で「ただいま、文学少年が読書中であります」と、アナウンサーみたいに言った事だ。
これには僕も笑ってしまった。
そう、ぼくもそんなには気にしていなかったのだ。
また、読んでいた本を机に置いてトイレに行って帰ってくるとその本がなくなっていたことがあった。
不思議がるぼくを見て、ゆうみが大きな声を上げた。
「誰なの?りょうくんの本をかくしたの!」
誰も答えなかったけれど、その本は何日か後には机の中に無傷で戻っていた。
その程度の事だから、いたずらされていると言うだけのことで、とてもいじめなんていう感じはしなかった。

そう。
クラスの中でぼくと普通に接してくれるのはゆうみだけだった気がする。
他の友達はみんなぼくを変わったやつだと思っているようだった。
ゆうみだけがぼくに普通に接してくれていた。

そんなちいさないたずらばかりなのだけれど、特に困った出来事が一度だけあった。
六年生になってクラス替えがあり、ゆうみはもう同じクラスにはいなかった。
それでぼくに対するいじめと言えないほどのいじめがすこしエスカレートしたのかもしれない。
もうすぐ夏休みを迎えるというある日、教室で友達が心霊スポットを特集した雑誌を持ってきて休み時間にみんなで読んで、わいわい騒いでいた。
そのグループの一人の男子がぼくに向かって言ったのだ。
「おい、りょう。お前、なんだかいつも落ち着いてるから、心霊スポットなんか怖くないだろ?」
そして雑誌の、あるページを開いて写真を見せた。
「この病院へ行って来い」
それは学校からも近い所にある廃病院だった。
十年以上前に原因不明の火事で入院患者が何人か死んだ事件があり、その後閉鎖されたらしい。
「この写真の手術室に行って写真を自分撮りして来い。夜に行くんだ。わかったな」
いやだと言う暇もなく、彼はまた友達と話を始めた。。

仕方なく三日後、両親が仕事で遅くなる日に、自転車に乗って出掛けた。
着いた頃には空が夕焼けで、やっと暗くなり始めていたのでそんなに遅い時間ではなかった。
小高い丘の上にある建物は黒いシルエットだった。
病院へと続くひび割れたアスファルトの道は雑草で覆われていた。
「立ち入り禁止」の看板と、柵はもう腐って傾いている。
そこに自転車を止め、LEDライトを外して懐中電灯代わりに手に持って柵の隙間から中庭に入り込んだ。
病院の玄関の扉はカギが掛かっていたけれど、ガラスは殆ど割れていて難なく中に入れた。
「りょうくん待って」
後ろからゆうみの声がした。
「わたしもいっしょに行ってあげる」
ゆうみはいつもと少しも変わらない笑顔でそう言った。
「どうして今日ここに来るとわかったんだ?」
「えへへ。りょうくんのクラスにいる友達に聞いたんだよ」
ゆうみの声は明るく大きい。
「二人一緒なら怖くないでしょ?」
そうかもな、と声に出さずに一人うなづいた。
その時にはもう窓の外はすっかり暗くなってしまっていた。

ライトの輪の中に受付らしい場所が浮かび上がる。
廊下にはたくさんの書類が落ち葉と一緒に散乱していた。
窓から入り込んだ蔦の枝が床を横切っている。
真っ暗な廊下を歩いて行くとドアが開けっぱなしになっている更衣室があった。
その中の、ロッカーの前に掛けられた汚れたナース服を見て、ぼくははっと息をのんだ。
その気配を目ざとく感じたゆうかはいじわるそうに笑った。
「ほらね。わたしがいなかったら、りょうくんはたぶん今、悲鳴を上げてたわよね」
「そ、そんなこと」
ゆうみがぼくの手をにぎった。
「こうやってれば大丈夫だよ」
ぼくたちは手を繋いで二階へ上がり、火事で一番ひどく燃えている病室の前を通り抜けた。
人が焼け死んだという、そこはさすがに薄気味悪かった。
すすで真っ黒になった壁。
骨組だけ残ったベッド。
焼け落ちた天井。
時々きらりとわずかに残った窓枠のガラスが光る。

そして手術室までやって来た。
手術台の手前に大きな黒いシミのようなものがあった。
それはあの雑誌の写真で見たものだが、説明文には「血の跡のようだ」と書いてあった。
ライトを照らして見た。
天井にひび割れがあってそこから雨がもっているらしい。
雨のために濡れた所に黒いカビが繁殖しただけだとわかった。
手術台の上の大きなライトは床に落ちていた。
いろんな手術器具は散乱していて、壁には誰かの描いた落書きがたくさんあった。
ぼくはデジカメを取り出して、雑誌の写真と同じ場所の前に立ち、自分に向けて構えた。
一枚、二枚とシャッターを切った。
ぼくの肩にゆうみが手をかけて、もう片方の手でピースサインをする。
また何枚か写真を撮った。

そのまま霊現象に出会うこともなく、二人は病院を出た。
ぼくが自転車にまたがると、ゆうみは手を上げた。
「それじゃあね。また遊びましょ」
ぼくは自転車で走りだした。
後ろを振り返らずにゆうみに手を振った。
なぜか心がそわそわしていた。
走りながらふと気がつく。
ぼくはゆうみの家がどこにあったかも知らなかった事に。

あくる日、廃病院の写真を級友たちに見せた。
「へえ~、すげーな」
みんながみんな驚いた顔になった。
クラスのみんなのぼくを見る目がその時から変わったような気がした。
何枚もの手術室の写真。
そこに写っているのはぼく一人だけだった。


あのとき、ゆうみが病院に現れた時、ちっとも怖くなかったのはどうしてだろう。

ゆうみが交通事故で死んで、お葬式があった日はクラス全員がゆうみの家に行った。
でも、ぼくは学校を休んだ。
仮病を使って、ベッドの中で一日中泣いていたのだ。




おわり




お盆休みの初日です。
何か一つ書いてみようとツイッター小説からのアイデアを元にして書いて行くと結構長くなってしまいました。

ところで「第30回小説の虎の穴」投稿作品は、またもや落選。
その作品は当ブログにある作品を修正した物でしたので特に公開はしません。
投稿後、非公開にしていた元の作品を再公開しました。

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Commented by haru123fu at 2014-08-13 22:53
流れるようなストーリーで一気に読み終えました。体調が悪くなかなか声が出ずらいので、
あまり朗読に気が進まなくなっています。でもこの作品なら朗読できるかな?なんて思ってみたり。。。
原稿用紙8枚でも大丈夫そうな気がしたり。いったいどっちなんだよ!なんて悩んでいます。(笑)

最近は、海野さんの朗読作品を自分でよく聞いています。あのころはまだ頑張りが聴いていたようで
とても懐かしいです。YouToubeの著作権侵害で、15分以内の作品しか朗読できませんが、この作品なら
だいじょうぶかな?
Commented by marinegumi at 2014-08-14 09:04
はるさんこんばんは。
体調のいい時をねらってチャレンジですね。
まったく焦る必要はないです。
声が出ない時はショートストーリー三昧(笑)

たしかに朗読を始められた頃のはりのある声と比べると声が出ずらいのはわかります。
でも「夏の娘 その名は純夏(すみか)」を聞くと、まだまだいけそうですね。
Commented by りんさん at 2014-08-14 20:39 x
病院の中の描写がすごく怖いです。
ゆうみちゃんは、もしかしたら幽霊かな…と途中で気づきました。
それにしても、良く出来た話です。
ホラーなのに読後感がいい。
ゆうみちゃんが彼を守ってくれたんですね。
それにしても勇気があるなあ。
私だったら絶対行けない^^
Commented by marinegumi at 2014-08-15 11:52
りんさんこんばんは。
僕は本当に怖いのを書くのは苦手ですね。
精一杯頑張ってみました。
まあ、この作品の場合、怪談のパターンにのっとってますからね。
ゆうみが幽霊だと途中で判ってもそれはそれでいいと思いながら書いて行きました。
例えばテレビの幽霊話の再現VTR。
「僕を助けてくれた少女の霊」という字幕がずっと画面に出たままお話が進んで行くという、あんな感じでしょうか。
by marinegumi | 2014-08-13 18:58 | 掌編小説(新作) | Comments(4)