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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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深海魚 (4枚)

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サトシはどんよりと暗い厚い雲の下、青い車を走らせていた。
空と同じように気分も重く沈んでいた。
「デートなのにいやな天気になっちゃったよな」
彼はそう呟きながら、ふとミサトの笑顔を思い出して、少し気持ちが明るくなった。
ほんの少しだけれど。

突然雨が降り出した。
車の屋根の上に雨粒が当たり、バタバタと大きな音をたてた。
すぐにワイパーをハイで動かさないと前が見えないほどの強い雨だ。
昼間だと言うのに更にあたりは暗くなりライトをつけている車もちらほらあった。
サトシはスモールライトを付けた。

回りの都会の景色はすっかり雨にかき消されていた。
まるで海の中にでもいるような濃い雨だった。
雨の音に慣れてしまうと、かえってそれが静寂に聞こえた。
静かな海の中を進む青い車。
すれ違う車のライトもぼんやりとにじみ、深海魚の目に見えた。
窓の横を流れて行く尾を引く光。
あれはチョウチンアンコウの誘引突起から出る発光物質なのだろうか。
それにしてもなぜこんなに暗いのだろうとサトシは考えていた。
いくらなんでも暗すぎる。
それはまるで深海の暗闇にいるようだった。

じわりと襲ってくる眠気を感じてサトシは車を停めた。
背もたれをリクライニングさせてフロントガラスを流れる雨を見ているうちに夢と現実の狭間に意識がさまよい始めていた。
あたりを無数の深海魚たちが静かに泳いでいる。
それぞれにさまざまな光を放ちながら。
音がわずかに聞こえる。
それは雨の音ではなく、あぶくの音だ。
ポコポコ、ポコポコと。
サトシは思う。
「ぼくは深海魚のおなかのなかにいるんだろうか」と。
「ぎざぎざにみえるのは深海魚の歯だろうか」
すうっと暗闇に引きずり込まれる。

ミサトは雨上がりの午後の街を歩いていた。
サトシが迎えに来るはずの場所に着いてから、もう30分過もぎていたので車が来るはずの方へ歩き出したのだ。
メールをしても返事がないし、サトシはいつも時間に遅れた事はないので少し心配でもあった。
雨にぬれた歩道に靴の音が響いた。
ふと車道に何か得体のしれない物を見つけた。
ぶよぶよとした青黒い塊が落ちていたのだ。
近寄ってみるとそれは車にでも轢かれたのか、醜くつぶれた魚のようだった。
それも、つぶれる前でもグロテスクだったに違いない深海魚だ。
傘の先でつつくと口の中に何か小さな人の形をしたものが見えたような気がした。
気持ちが悪くなり目をそむけた。

ミサトは空を見上げた。
くっきりと大きすぎる不気味な虹が架かっていた。



おわり



「まりん組」、「海野久実」の名前にふさわしく、海のお話が続きます。
それもどちらも雨から海へ、と言う感じですね。
このお話も、前の「雨の中のさかな」と同じくツイッターで「窓枠水槽」のタグで書いたものです。

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by marinegumi | 2014-10-08 11:43 | 掌編小説(新作) | Comments(0)