わたし、風邪です (3枚)

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疲れていた。
毎日残業続きで休日に出社することもある。
いくら若いと言ってもこんな日がいつまでも続くとどうなるんだろうかとぼんやり考えていた。
走る電車の窓の外をさまざまな色の光が流れて行く。
これは終電だったかな?
今日は一つ早い電車だったかもしれない。
そんな小さなことはどうでもいい。
かたいシートに頭を預けて少し上を向いて目をつぶった。

「今晩は。わたし、風邪です」
うとうと眠くなっていたときに、急に声をかけられた。
電車の座席、僕のとなりに何かが座っていた。
それは人間ではなかった。
人間以外のものに声をかけられたことがなかったのでちょっとうろたえた。
でも意外に冷静な自分にも気がついた。
眠気でぼんやりしていたのであまり現実感がなかったからだ。

声をかけてきたそれはなんだかはっきりしない物だった。
まん丸くて、青いような緑のような、赤っぽいような微妙な色だ。
そして表面には星の模様がいくつかついている。
その模様が目や口のように見えていた。
「え?なんですか。今、風邪って言いました?」
「そうです、わたしは風邪です」
風邪ですと言われても、ああそうなんですねとは納得できない。
その、自称風邪さんは、続けてこう言った。
「貴方はいつも本当に真面目に働いていますね。どんなに遅くなっても、休日出勤を命じられても、文句ひとつ言わない」
その声を聴いているうちに、ますますその星の模様が顔に見えてくるのだった。
「え?まあ、せいいっぱいというか、無理やりと言うか、流されるままにと言うか、必死に働いてはいるよね」
「わたし、そんなあなたが心配なのです」
え?どういうこと。
「そんなまじめで働き者のあなたが体を壊さないかと心配しているのです」
それって風邪さんの言う言葉なのかなあ?と思いながら、これはやっぱり夢なんだろうなと考えていた。
「二、三日ゆっくり休んだ方がいいですよ」
星模様の目と口が優しく微笑んだ。

目が覚めると、電車はちょうど僕の降りる駅のプラットホームに入るところだった。
立ち上がると軽いめまいがした。
改札を抜けながら少し頭痛が始まっているのを感じていた。
「そうだな。少しの間仕事を休むのも悪くないかな」

地下道の壁に貼られているさまざまなポスターの一つに、さっき夢で見た物の写真があった。
「ライノウイルス。風邪(普通感冒)の代表的な原因ウイルスとして知られている」




おわり




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Commented by 雫石鉄也 at 2014-10-27 13:05 x
やさしい風邪ですね。これまでにない、新たな風邪像を作りましたね。
ところで、お願いなんですが。
風邪がしゃべるというアイデアいただけませんか。
私の対談シリーズで「風邪との対談」というのをやりたいのですが。
Commented by marinegumi at 2014-10-27 18:02
雫石さんこんにちは。
>新たな風邪像
そういえばそうでしょうか。
インフルエンザなんかに比べて普通の風邪はずっとやさしいですからね。
休む口実にはちょうどいいかも。

アイデアをいただくとかいただかないとかそういう事ではないですね。
雫石さんはあらゆるものと対談しているので、いずれ風邪さんとの対談も来るのは判っていたことですしね。
どんな風邪さんか楽しみです。
Commented by 雫石鉄也 at 2014-10-27 19:22 x
ありがとうございます。
対談シリーズは、毎月第2週にアップしますので、「風邪との対談」は11月14日にアップする予定です。
Commented at 2014-10-27 19:39
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by marinegumi at 2014-10-28 19:56
雫石さん、楽しみにしています。
そうですか。
対談シリーズは月刊だったんですね。

おやおや、なんだかコメントの投稿の仕方が変わってる。
文字数の制限とかがなくなってるといいんだけど。
Commented by marinegumi at 2014-10-28 19:57
カギコメさんこんばんは。
え?
大丈夫でしょ?
何かできない理由でもあるんですか?
これまで通りよろしくお願いします。
Commented by marinegumi at 2014-10-28 20:07
疲れていた。
毎日残業続きで休日に出社することもある。
いくら若いと言ってもこんな日がいつまでも続くとどうなるんだろうかとぼんやり考えていた。
走る電車の窓の外をさまざまな色の光が流れて行く。
これは終電だったかな?
今日は一つ早い電車だったかもしれない。
そんな小さなことはどうでもいい。
かたいシートに頭を預けて少し上を向いて目をつぶった。

「今晩は。わたし、風邪です」
うとうと眠くなっていたときに、急に声をかけられた。
電車の座席、僕のとなりに何かが座っていた。
それは人間ではなかった。
人間以外のものに声をかけられたことがなかったのでちょっとうろたえた。
でも意外に冷静な自分にも気がついた。
眠気でぼんやりしていたのであまり現実感がなかったからだ。

声をかけてきたそれはなんだかはっきりしない物だった。
まん丸くて、青いような緑のような、赤っぽいような微妙な色だ。
そして表面には星の模様がいくつかついている。
その模様が目や口のように見えていた。
「え?なんですか。今、風邪って言いました?」
「そうです、わたしは風邪です」
風邪ですと言われても、ああそうなんですねとは納得できない。
その、自称風邪さんは、続けてこう言った。
「貴方はいつも本当に真面目に働いていますね。どんなに遅くなっても、休日出勤を命じられても、文句ひとつ言わない」
その声を聴いているうちに、ますますその星の模様が顔に見えてくるのだった。
「え?まあ、せいいっぱいというか、無理やりと言うか、流されるままにと言うか、必死に働いてはいるよね」
「わたし、そんなあなたが心配なのです」
え?どういうこと。
「そんなまじめで働き者のあなたが体を壊さないかと心配しているのです」
それって風邪さんの言う言葉なのかなあ?と思いながら、これはやっぱり夢なんだろうなと考えていた。
「二、三日ゆっくり休んだ方がいいですよ」
星模様の目と口が優しく微笑んだ。

目が覚めると、電車はちょうど僕の降りる駅のプラットホームに入るところだった。
立ち上がると軽いめまいがした。
改札を抜けながら少し頭痛が始まっているのを感じていた。
「そうだな。少しの間仕事を休むのも悪くないかな」

地下道の壁に貼られているさまざまなポスターの一つに、さっき夢で見た物の写真があった。
Commented by marinegumi at 2014-10-28 20:09
結構長いコメントができるようになっているみたいですね。
Commented by りんさん at 2014-10-30 17:42 x
いやあ、いきなりコメント欄が変わって焦りましたよ。
名前入れるところがないからおかしいな~と思ったら…。

きのうコメントしたんですけど、家族でやってるエキサイトブログのURLが自動的に表示されちゃって^^
そっちのブログをログアウトしたら普通に出来ました。
よかった~

で、感想です。
風邪が話しかけてくるなんて、なかなかシュールな発想ですね。面白いです。
エボラだったら大変だけど、ただの風邪なら許せちゃう。
少し休みなさいって言ってくれたんですね。
出来れば引きたくないですけどね。
Commented by marinegumi at 2014-11-01 22:35
りんさんこんにちは。
コメント欄のリニューアル。
最初はちょっと戸惑いましたね。
そうそう、前は毎回エキサイトのIDでログインしないといけなかったんですがログイン状態を継続できるように変わっているみたいです。

エボラとまではいかなくてもインフルエンザとかに比べれば普通の風邪は可愛いもんですね。
いい休養になるかもしれません。
by marinegumi | 2014-10-26 17:57 | 掌編小説(新作) | Comments(10)