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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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父、孵る (5枚)

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「ただいま~」
いつもの時間に父が帰ってきた。
父は娘の私には目もくれずに台所にいる母の所へ向かった。
あとに加齢臭が残る。
「母さんや、ほらすごい物を買って来たぞ~」
そう言いながら父は母に紙袋から怪しげなビンを取り出して見せた。
「なんですかそれは?どうせまた精力剤かなんかでしょ」
父は最近歳のせいか、毎日「疲れた、疲れた」が口癖のようになっている。
「これは最近出来た高架下の薬局で勧められたんだよ。これを飲むと細胞から若返るらしい。若返ると言うよりも生まれ替わると言った方がいいくらいだとさ」
「それで?いくらで買ったんですか?」
「うむ、まあ……」
父が口ごもる時はかなり高かった時だ。
問い詰めると機嫌が悪くなるのを母は心得ていて、それ以上は聞かない。
「この薬剤は最新のテクノロジーで作られているらしい。なんにしてもカエルの細胞から作られた多能性幹細胞がなんちゃらで、iPS細胞もまっ青てな感じらしいんだ。これさえ飲めば元気モリモリ、気分爽快、体力メキメキてな感じだぞ。母さんや」
などと言いながら自分の部屋に入って行く父を、私と母は無言で見送り、顔を見合わせた。

一時間後。
私も手伝い、夕食の支度ができた。
父を部屋まで呼びに行く。
父が書斎と呼んでいる三畳の狭い部屋だ。
ところが声をかけても返事がない。
疲れて居眠りでもしているのかもしれないと思ってドアを開けて中へ入った。
父の姿がなかった。
そして、いつも座っている机の前の椅子の上に異様なものを見つけた。
椅子の座面を占領して、透明なゲル状のかたまりがあり、その中に黒い粒々がたくさん見える。
それからは生臭いにおいがしていた。
似たものと言えばカエルの卵だ。
ただひどく大きい。
「お母さ~ん!ちょっと来て!」
二人で改めてその卵(?)を観察した。
「なあに?これ~。気持ち悪い~」と母。
「お父さん、さっき何だか変な薬を買って帰ってたでしょ。たぶんあれを飲んじゃったからこんななっちゃったんだわ」
ゲル状のかたまり中にある何百と言う黒い物は一つ一つがそれぞれ勝手に気まぐれに動いていた。
そしてそのうちの一つをじっくり見ると……
「これは目だわ!」私は驚いて大きな声を上げた。
「こっちには手の指や鼻があるし、内蔵っぽいのもたくさんある」
「これってお父さんなのかも」のんびりした声で母が言う。
「そう言えば、生臭さの中にお父さんの加齢臭も混じってるわね。と言う事はあの変な薬が効いてお父さんが生まれ替わってる真っ最中ってこと?」
「放って置きましょうか?どうにかなるでしょ」
母ののんびり屋さんの性格ここに極まれり、って感じ。

母と二人で食事をしている時に父が食堂に入ってきた。
「やあ、お待たせ!」
なんか溌剌としている。
いつもカサカサだった肌もうるおっているように見える。
いや、なんだか湿っぽくてぬめっとしているような感じだ。
父は椅子に座ると見たこともないほど大きな目を見開いた。
「おお、今日はなんだかごちそうだなあ。うまそうだ」
父の口から長い舌が飛び出し、おかずの唐揚げを巻き取るとそれを口に運んだ。
「ケロケロ、うま~い」

日にちが経つとそんな変な行動は少なくなって行った。
ぬめっとしていた肌も普通に戻ったようだ。
そして、あのきつかった加齢臭がすっかりなくなった。
それはいいけれど、いつまでも生臭いのにはちょっと困っている。




おわり



この作品は「とらびし秘宝館」の矢菱虎犇さんの作品「父、カエル」「父、還る」「父、帰る」に触発されて書いた作品です。
皆さん、まだまだ書けますよ~
「父、買える」
「父、変える」
「父、飼える」
「父、替える」
「父、代える」

雫石鉄也さんが「父、替える」を書かれました。
この際みんなで書きましょう。
『「父、帰る」競作大会』みたいな感じで。


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Commented by 雫石鉄也 at 2015-02-04 15:19 x
私も、いっちょかみしました。
「父、替える」を書きました。
Commented by marinegumi at 2015-02-04 23:07
雫石さんこんにちは。
いっちょかみ大歓迎。
『父』を『乳』に変えるとパターンが倍になりますね。
Commented by りんさん at 2015-02-06 18:05 x
呑気なお母さんがいいですね。
まさかそこから生まれ変わるとは。

私も便乗させていただきました。
「父変える」です。
Commented by 矢菱虎犇 at 2015-02-07 03:53 x
久しぶりにお伺いして、楽しませていただきました。
父帰るがなんか発展してて、嬉しいような恥ずかしいような。
実はあと三つ構想してたんですけど、中身は違えど、
タイトルやアイディアの見事なかぶりっぷりに大笑いです。
ありがとうございました。
Commented by marinegumi at 2015-02-08 22:32
りんさんこんばんは。
のんきな母さんにしようと思ったのは途中からでした。

競作となるとりんさんが書いてくれないとお話になりませんね。
Commented by marinegumi at 2015-02-08 22:34
矢菱さんおはようございます?
お久しぶりです。
いやあ、「父、孵る」をすでに書かれていたとは。
まあ、このタイトルが一番イメージがわきやすいですよね。
by marinegumi | 2015-02-03 23:35 | 掌編小説(新作) | Comments(6)