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忘れた夢 (4枚)

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目が覚めたその時、大事な人を失ったことに気が付いた。
夢の中で出会い、夢の中で親しくなった人。
そして二人はきっと愛し合った。
でも覚えていない。
その人の顔も、その人の声も、その人の笑顔も。
みんなみんな、夢から覚めたとたんに忘れてしまった。
夢の中で二人はどんな話をしたのだろう。
夢の中で二人はどんな暮らしをしていたのだろう。
夢の中で二人はきっと愛し合って暮らしていたはずなのだ。
そうでなければ今、どうしてこんなに悲しいのだろう。
そうでなければ今、こんなに空しい気持ちであるはずがない。
夢の中で二人はどんな約束を交わしたのだろう。
夢の中で二人はどんな部屋に暮らしていたのだろう。
夢の中で二人はどんな夢を語り合ったのだろう。
何一つ思い出せない。
いくら夢だと言っても、こんなにも空しく消え去っていいものなのか。
いくら夢だとしても二人が交わした愛は本当だったはずなのに。
それは判る。
それは信じている。
現実で人を愛し、結ばれ、やがて年老いて、大事な人を亡くしたとしても、思い出だけは残るはず。
それがいくら夢だったとはいえ全く記憶にないのだ。
何一つ思い出せないのにただ愛した人がいた感覚?予感?雰囲気?
そんなものだけが残っている。
そして耐えられないのは愛した人を失ったという喪失感だった。
もう、自分はもぬけの殻だと思った。
これほど残酷なことはないと思った。
その人の顔も、その人の声も、その人の笑顔も、みんなみんな、夢から覚めたとたんに忘れてしまった。
そして、そして、その人が男だったのか、女だったのかさえ思い出せない。
それさえも思い出せないなんて!

そして、自分が女なのか、男なのかさえ。

ベッドから降りて、少し歩いて鏡の前へ行く。
自分が男なのか女なのかを確かめるために。
鏡に映るのが男なら夢の中の人はきっと女の人だろう。
鏡に映るのが女なら夢の中の人はきっと男の人のはずだ。
自分が普通に、平凡に恋をしたのなら、きっとそのはずだ。
それが判るだけでもきっとうれしいと思う。
何も思い出せない自分にとってそれが判るだけでもいいと思う。
それを手がかりに少しずつでも思い出して行ければいいと。
鏡の前に立つ。
そして顔を上げる。



おわり



公募ガイドの「TO-BE小説工房」テーマ『夢のまた夢』のために考えたお話です。
でも、あまり面白くないなと思ってこれはやめて(笑)別のお話をさっき投稿しました。
さてさて、結果はどうあれ、投稿する気力が戻ってきたことがめっけもん。

この作品をはるさんが朗読してくださいました。
いつもありがとうございます。

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by marinegumi | 2015-07-01 00:27 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

Commented by haru123fu at 2015-07-02 22:05
海野さんが書く気になってくれてうれしいな!
私も中々ブログ更新できなくなっていました。
この作品難しそうですが、朗読のお願いをしてもいいですか?
「記憶の窓」がいまだに再生されています。ありがたいことです。
Commented by marinegumi at 2015-07-02 22:58
はるさんこんばんは。
せっかく書く気になって来たのに、気が付けばまたハードな夏がすぐそこですね。
夏は書く気力以前に、疲れのために作品数がガクンと減るのが定番です。
まあ、短いものをぼちぼち書きましょうか。

朗読よろしくお願いします。