夢見る窓枠 (6枚)

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海の見える丘の上に、つい最近まで一軒の家が建っていた。
すっかり取り壊されてから数年が経とうとしていたけれど、よく見るとまだ庭らしいものが残されていて、わずかに草花が小さな花を咲かせている。
取り壊された家の残骸を何度も往復して運んだトラックのタイヤが踏み倒した草はもうすっかり元通りになり、更に家まで続いていた道さえも覆い尽くそうとしていた。
その草の中に、解体の時に運び忘れられたのか、一枚の窓枠が横たわっていた。
ひび割れたガラスの嵌ったアルミサッシの窓枠だった。

その日は朝から風の強い日だった。
長く伸びた草は、ちぎれてしまいそうに風になぶられていた。
近くには大きな木はないけれどまだ青い葉っぱが飛ばされて行く。
風の中に小さな石さえ混じっていた。
そしてその時、一段と強い突風が吹いたのだ。
草むらの窓枠はふわりと持ち上げられ、窓枠は縦に回転しながら丘の上を走り、次の瞬間、大きく宙に舞った。
そして海の方へと飛ばされたのだ。
窓枠は回転しながら飛び続けていたが、やがて海面に突き刺さると、ゆっくり海の中へ消え、荒れた海面には波紋も残らなかった。

窓枠が平たく海面に叩き付けられていればガラスは砕けていただろう。
しかし少しひび割れが大きくなっただけでほとんどが残っていた。
それは右に左に揺れながら窓枠は海に沈んで行った。
海面からの光をはね返して白く光りながら。

群れを成して泳ぐ魚たちの中から数匹のイワシがその窓枠の周りにやって来た。
そしてそのガラスの向こうを覗き込んだ。
そこには新しい家で寛ぐ若い夫婦が見えた。
二人の間には揺りかごがあり、その中には小さな赤ん坊が眠っている。
温かそうな灯りの下の幸せそうな家族が見えた。
それは窓枠が見ている夢の光景なのだろうか。

イワシたちは去り、窓枠はさらにゆらりゆらりと沈んで行く。

今度窓枠のそばにやって来たのは数匹のイシダイだった。
彼らが窓を覗き込むと、そこにはまた別の光景が見えた。
ソファーに座った少年とその妹がテレビを見ている。
奥の台所では母親が夕飯の支度をしていた。
やがて玄関のドアが開き、雪の粒を服にくっつけた父親が帰ってきた。
二人の子供は駆け出してゆき、父親にまとわりつく。

イシダイはそこから離れ、窓枠は更にゆっくり次第に暗くなる海を沈んでゆく。

次に窓枠を覗き込んだのは赤い体をした数匹のメバルたちだった。
窓の中の光景はさらに変わり、そこは昼間のようでとても明るかった。
ソファーに座る白髪の混じり始めた父親と隣に座るその妻。
向かいに座っているのはすっかり成長したあの少年とフィアンセの美しい娘だ。
四人が談笑しているところにお茶を運んでくるのは彼女もまた美しく成長した妹だった。彼らの声は聞こえない。
反対側の窓から差し込む光で、春の一日だろうと思われた。

メバルたちがそこから離れると、あたりはさらに暗くなっている。
海上からの光がたよりない。

カマスが数匹、沈んで行く窓枠を覗き込んだ。
暗い海の中でもガラスの向こうは明るかった。
ソファーには老婦人が一人座り、編み物をしていた。
それは小さな靴下のようだ。
玄関のドアが開くと少年の手をつないだ父親と赤ん坊を抱いた母親が入ってきた。
老婦人は編み物の手を止め、立ち上がる。

カマスたちが海の暗さを恐れるように姿を消した。

窓枠はさらに海の中を深く深く沈んで行った。
あたりはもうすっかり真っ暗になっている。
窓枠の中の光景だけがただ一つの明かりだった。
そして、やがて窓枠は海底にまで沈んだ。
少し泥を巻き上げて海底に横たわった。
数匹の異形の深海魚たちが集まって来てその窓枠の周りを泳いだ。
ガラスの向こうには誰もいない部屋が映っている。
その部屋の外は昼間らしかったけれどカーテンが引かれていた。
カーテン越しの光で部屋は薄明るかったけれど人の気配はしなかった。
目の退化した深海魚にはその光景が見えてはいない。
しかし彼らには判った。
また一つ人間たちの思い出が降り積もったのだと。

やがて窓枠は夢見る事をやめた。



おわり



>公募ガイド、TO-BE小説工房でボツだった作品です。
>課題は「夢のまた夢」
(りんさんのブログ「金魚拾い」のあと書きからのコピべです(笑))
僕のこの作品も同じくでした。
ぼちぼち投稿を再開していますがまだ調子は出てきませんね。
ツイッター小説も再開初日はうまくまとめられず、あれ?と思いました。
続けていないとダメですね。

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Commented by りんさん at 2015-09-15 20:59 x
海野さんも落選ですか。
窓枠が夢を見るなんて、とても素敵な話なのに。
応募数も多いし、難しいですね。

これを読んで、「つみきのいえ」の絵本が浮かびました。
幸せだった生涯を、窓枠は知っているんですね。
Commented by marinegumi at 2015-09-18 00:04
りんさんこんばんは。
応募数、そんなに多いんですか?
最近公募ガイド買ってないですからね~(笑)
やっぱり毎月買って、入選作をじっくり読んで、勉強しないとだめですよね。

「つみきのいえ」はアニメーションを見ました。
とても好きなお話です。
by marinegumi | 2015-09-11 18:04 | 掌編小説(新作) | Comments(2)