冬の図書館 (3枚)

a0152009_21552173.jpg

きんと冷え切った冬の空気の中を歩いている。
でもちっとも寒くはない。
ボクの吐く息が白くけぶることもない。

うっすら霜の降りたメタセコイアの林の小道を抜けるとレンガ造りの図書館がある。
鬱蒼とした木々に囲まれてまだ眠っているように見える冬の図書館だ。

玄関を抜け、薄暗い廊下を歩き、貸出しカウンターの中に入る。
上にある小さな照明を点ける。
この図書館にボクが最初に明かりを灯すのだ。
そしてしばらくカウンターの向こうの書架を眺める。
世界のありとあらゆる事象が記された、たくさんのたくさんの本が納まっている。
そう考えるとボクはいつもわくわくする。
そう。
ボクはこの図書館の司書になるのが夢だった。
そのためにはどんな勉強をすればいいのか調べたり、先生に聞いたりもした。

「司書の資格を取るのは簡単です」
と、先生は言った。
「でも、資格があっても司書になれるとは限りません」
と、先生は続けた。
「司書の仕事はあまり募集がないからなんです。でもきっとあなたならなれると思いますよ」

その先生の目を今でも覚えている。
その目は本当にボクを信じてくれている目だと思った。

先生、ごめんね。

ガチャガチャと玄関のドアのカギを開ける音がした。
そして廊下を歩く足音。
黒い鞄を持って、メガネをかけた女の人が入って来る。
事務所から貸し出しカウンターの方を見て不思議そうな顔をする。
前の日、確かに消したはずの照明が一つだけ点いているからだ。
ボクは女の人に手を振る。
でも気づいてもらえない。
女の人はボクの同級生で、むかし一緒に図書係をしたことがある。

ごめんね、ゆうみ。
ボクはずっと最初の明かりを点けに来てもいいだろ?




おわり



この作品は、今日書いたツイッター小説を長くしたものです。
140文字に満たない小説でも、生まれながらにして広がりを持っているものがあります。
無理やり書きのばさなくても、自然にストーリーになるんですね。

この作品をはるさんが朗読の動画にしてくださいました。
こちら→ブログ「ゆっくり生きる」



ランキング参加してます。
クリックであなたに幸運が(笑)
    ↓
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村
[PR]
Commented by りんさん at 2015-11-26 22:12 x
本が好きな男の子は、大人になることが出来なかったんですね。
誰もいない図書館には、こんな子供がいてもおかしくないような気がします。

ところで、「ゆうみ」という名前は前にも出てきましたね。
初恋の女の子の名前だったりして(笑)
Commented by haru123fu at 2015-11-29 10:46
朗読のお願いです。
もしかしたらすでに「こえ部」で朗読されている作品でしょうか?
そうでなければ、どうぞよろしくお願いします。
Commented by marinegumi at 2015-11-29 21:30
りんさんこんばんは。
>誰もいない図書館には、こんな子供がいてもおかしくないような気がします。
そうなんですよね。
図書館にはいろんな人の思いが残っているような気がします。
前にも一本、図書館に残る少年の霊魂、みたいなお話を書いています。

>ところで、「ゆうみ」という名前は前にも出てきましたね。
「心霊スポット」と「プラネタリウム」ですね。
ちなみに初恋の人の名前は「みかど」ちゃんです。
Commented by marinegumi at 2015-11-29 21:34
はるさんおはようございます。
いいですね、この作品は朗読にピッタリ(かな)
よろしくお願いします。
ああ、そう言えば「こえ部」には最近ご無沙汰ですね。
ツイッター小説とこのブログがやっとで、活動範囲が狭くなってる感じですね。
でも、活動力はあると思うので狭く厚くと言う感じかもしれません。
by marinegumi | 2015-11-22 21:56 | 掌編小説(新作) | Comments(4)