雨の日のカノン (3枚)
その1 ブランコ
雨の公園で濡れるのもかまわずにブランコに乗っていた。
誰にも会いたくなくて、ゆらりゆらりとゆられている。
なんどもなんどもくりかえす。
弱く強く、またゆるやかに。
まるでカノンだね。
パッフェルベルの「カノン」だ。
あの優しいメロディーがどこかから聞こえるような気がした。
ただ優しく、同じメロディーをなんどもなんどもくりかえす。
ただくりかえすだけじゃない。
くりかえすたびにそのメロディーは違う表情をみせてくれる。
いつまでも聞いていたい。
いつまでもゆられていたい。
あたたかい雨に包まれて雨のカノンを聞いている。
でもやっぱり気がついてしまう。
わたしはこうやって雨に濡れながら。
ブランコにゆられながら。
カノンのメロディーに浸りながら待っているんだと。
ブランコの後ろから聞こえる誰かの足音を。
その2 ビニール傘
そろそろこの部屋の窓の外を、クラブ帰りの君が通る時間。
泥だらけになったユニフォームが入ったカバンを肩にかけて。
雨だからあの大きなビニール傘をさしているはずだ。
君がもうすぐあの道をやってくる。
わたしはピアノを弾きはじめる。
君のために。
明日には転校してしまう君のために、君の好きだったこの曲を。
パッフェルベルの「カノン」だよ。
同じメロディーが表情を変え、音色を変えしながら繰り返す。
この曲って君とわたしの過ごした短い時間のようだね。
同じメロディーが複雑にからみあい、また単純なメロディーで繰り返す。
君の姿が雨の街角に小さく見える。
そしてだんだん大きくなる。
わたしは涙を流しながらカノンを弾き続ける。
君にこの音色が届くよう。
そして君がこの窓を見上げてくれるよう。
雨のしずくが流れる透明な傘を通して、君と目が合えばどんなにいいだろう。
君はそのまま窓の下を通り過ぎる。
その足取りを緩めることもなく。
わたしはカノンを弾き終わり、電子ピアノのヘッドホンを外す。
アパートの部屋ではピアノの音が出せない。
おわり
ツイッター小説で一番たくさん書いたのは、タグ「#秋雨のカノン」じゃないかと思います。
その中から二編を長くしてみました。
はるさんのブログはこちら→ゆっくり生きる
はるさんの朗読を聞きながら、しっとり、ウルウルしていました。
雰囲気のあるとても好きな朗読になりました。
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by marinegumi | 2016-02-20 15:20 | 掌編小説(新作) | Comments(5)
素敵ですね。
雨とピアノって、よく合いますね。
とくに「ビニール傘」の切ない恋心がいいですね。
結局自分にしか音が聴こえていなかったオチも、失恋を想像させて胸がきゅんとします。
↑上のコメント、りんです。
「パッフェルベルのカノン」は本当にいい曲ですね。
とても雨に似合います。
「ビニール傘」の落ちはどうかなと思わないでもなかったんです。
ちょっとおバカかなと。
でもそう言っていただけて安心しました。
りっかさんんて?
と思ってクリックするとりんさんの所へ。
ペンネームを替えちゃうのかなあ?と思っていたんですが、ミスタッチだったんですね。
「ん」の「N」のキーの近くに「K」がありますからね。
でもなかなか「りっか」と言うペンネームもいいですね。
間違えるにしても、さすがりんさんです。
よろしくお願いします。
初めて僕の作品を朗読していただいたときのあの声、再び~
と言う感じですね。
いやいや誰もみな年を取りますからね。
ぼくもなかなか長いものが書けなくなっています。