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星空が見えるまで (3枚)

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井原線というローカル線の電車はパンタグラフがない。
電気で走っているのではないので電車というのもおかしいんだけれど。
運転席のすぐ後ろで景色を見ていたけれど、頭の上を通る電線もないので空がとても広く感じる。

矢掛駅と言う駅で降りた。
高い建物もないがらんとした駅前。
木で出来た時計塔のそばに留まっていたタクシーに乗って運転手さんに「美星町に行ってください」と言った。

美星町。
ただその名前だけだったんだ。
わたしはその街の名前の響きに誘われてここまで来てしまった。
「美星町のどこへ行くのかね?」
運転手さんにそう聞かれてまだ何も決めていないことに気がついた。
「美星町って星がきれいなんですか?」
「そうだね。『美星天文台』とか『星空公園』とかあるしね」
「じゃあ、そこに行ってください。天文台に」

タクシーから降りるとなんだか心もとなかった。
美星天文台の前の道路にひとりきりで置き去りにされた感じがした。

まだ昼間なので星を見る事は出来ないだろう。
天文台に入ればいろんな展示もあるかもしれないけれど、特に見たいとも思わなかった。
「星なんて望遠鏡で見なくてもいいしね」
そうつぶやいて歩き出した。

今朝、電車に乗った時は日帰りをするつもりだったし、星を見ようという気もなかった。
でもなんとなく気が変ってしまった。
夜になるまでこの町にいて一人で空を見上げて見ようと思った。

夕方に雨が降り出した。
今日は星を見られそうもない。
そう思うと何となくどうしても見てやろうと言う気持ちになる。
折り畳み傘を広げ山間の道路を歩いていると、駅前で乗った同じ会社のタクシーが通りかかった。
手を上げて乗せてもらい、運転手さんに聞いた。
もちろんさっきの人とは違う人だ。
「どこか泊まれるところはないですか?ホテルでも、旅館でもいいです」

案内されたペンションの窓から外を見ている。
今夜もまた雨が降っている。
これでもう何週間過ぎたんだろうか?
まだまだ雨は上がる様子がなかった。
この美星町で、星空を見上げることが出来るまで、帰らないとわたしは決めていた。



おわり




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Commented by りんさん at 2016-06-29 13:41 x
素敵な名前の町。
実際にあるんですね。
遠くてなかなか行けないけど、もし行ったら星が見えるまで帰りたくないでしょうね。
Commented by marinegumi at 2016-07-02 16:32
りんさんこんにちは。
この作品はツイッターで「#47のべる」のタグで書いたツイッター小説のうちの一つを長くしたものです。
47都道府県の実際にある場所を舞台に書くと言う感じ。
美星町はわが兵庫県のお隣の岡山県にありますが、行ったことはありません(笑)
ネット上の情報だけで書いたものです。
by marinegumi | 2016-06-26 01:03 | 掌編小説(新作) | Comments(2)