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海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
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カテゴリ:掌編小説(新作)( 243 )

夢を食べる (9枚)

a0152009_23223966.png

ドアが開いて獏が入って来た。
獏はどんなものでも通り抜けられるので、わざわざドアを開かなくてもよさそうなもんだけど、そこはきちんと礼儀正しくと思ったのかもしれない。
今夜は獏が夢を食べるところを見せてくれることになっている。
獏は人の夢を食べると言うけれど、ぼくは一度も食べているところを見たことがない。
いったいどうやって人の夢を食べるんだろう? 
ある日、それが気になって気になって眠れなくなってさ。
それで知り合いの獏に夢を食べているところを見せてくれるようにたのんでみることにしたんだ。
その獏はけっこう気のいいやつでさ、長い付き合いなんだよね。
「だからさ、そればっか考えて眠れないんだよ。ぼくが眠れないと言うことは夢も見ないわけだからお前も困るだろ?」
そう言って獏を説得した。
だけどなかなか、獏は「うん」と言ってくれない。
「見せてくんなきゃ、もうぼくんちには出入り禁止にしちゃうぞ!」
説得というか、なかば脅迫だね。
それでなんとか見せてくれると言う約束になって、ちゃんと時間どおりにやって来たというわけ。
獏は小学校の同級生の女の子、このみちゃんの夢を食べるという。
男の子の夢と、女の子の夢はそれぞれ味も栄養も違うらしくて、どちらもバランスよく食べないと健康に悪いんだってさ。
だからその日によってぼくんちへ来たり、このみちゃんの所に行ったりするらしいんだ。
獏は言った。
「さあ、僕の背中に乗って」
獏の体はあまり大きくないので大丈夫かなと思いながら乗っかると、軽々と空に飛び立った。
いや、これは飛んでいるんだろうか? 
なんだかもやもやした空間をすごいスピードで移動しているんだけれど、ちっとも風を感じないし、冬なのに寒くもない。
「現実と夢のはざまを移動しているのさ」
振り返りながら、得意げに獏は言った。
そして、ふと悲しそうな表情になって何か言いたそうに僕を見たんだ。
「どうかした?」
ぼくが聞いてもしばらく黙って飛んでいるだけだったけれど、やがてこんな話を始めた。
「あのさ、最近夢を見る子供が多くなったんだよね。それも栄養たっぷりの夢」
「そうなの? それっていい事じゃん」
「ぼくらにとってはね」
「それでさ、世界中で獏がどんどん増えてるんだよね。それもまあ、僕ら獏にとってはいい事なんだろうけどさ。あまりに急にふえるものだから、近い将来、夢不足になるかもしれないんだよね」
「それがどうしたの?」
獏がそれに答える前に、このみちゃんの家に着いた。

二階のこのみちゃんの部屋の窓を開くことなく通り抜け、ぼくと獏はベッドの横に立っていた。
このみちゃんは気持ちよさそうに眠っていた。
とてもかわいい寝顔だ。
ぼくはちょっとドキドキしてしまった。
獏はこのみちゃんの枕元に回ってぺろりと舌なめずりをした。
「え? もう食べ始めるの?」
そう言い終わらないうちに、獏はこのみちゃんの頭にかぶりついていた。
頭の上の方を、びっくりするほど大きな口を開けて、ガシガシと音を立ててかじっている。
見かけはとても可愛い獏だけど、その口は開けるとびっくりするほど大きく、するどくとんがった歯がずらりと並んでいる。
頭をかじられているのに、このみちゃんの様子はぜんぜん変わらない。
ずっとかわいい寝息を立てている。
頭のぐるりをかじり終わるとこのみちゃんの頭はぱっくりと外れ、脳みそがすっかり見えた。
ぼくはお母さんがアボカドをぐるりと半分に切って大きな種を取り出すところを思い出した。
獏は首にかけていたバッグからお皿を取り出し、このみちゃんの脳みそをその上に乗せた。
そしてバッグからもう一つ、何やら怪しげな機械を出して床の上に置くとコードを伸ばし、部屋のコンセントに差し込んだのだ。
その機械の上部の透明な容器の中にこのみちゃんの脳みそが入れられ、スイッチオン。
それはクルクルと高速で回り始めた。
見かけはジューサーかフードプロセッサーみたいだけど、中の脳みそは切り刻まれたりはしない。
遠心分離器に近い物かもしれない。
脳みそからはキラキラした気体とも液体ともつかないものが遠心分離され、機械の横の小さなガラスコップの中に溜まって行く。
獏はスイッチを切った。
中に残った脳みそ(絞りかす?)を獏は手で取り出して、このみちゃんの頭に戻した。
そして手際よく、あっという間に目に見えない糸と針でぬい合わせてしまった。
みるみるうちに、このみちゃんの頭のぬいあとはきれいになってしまった。
手で触っても傷口は全然残っていない。
すべすべのおでこに手を触れたぼくは、またちょっとドキドキした。
なに事もなかったようにこのみちゃんは寝息を立てている。
獏はと言うとさっきのガラスコップに溜まった美しく光る気体のような液体のようなものをおいしそうに飲んでいる所だった。
多分それが夢なんだろう。
このみちゃんの夢ってこんなにきれいなんだと妙に感動していた。
獏がぼくの方にこのみちゃんの夢が少し残ったコップを差し出した。
「ぼ、ぼくが飲んでいいの?」
恐る恐る飲んでみた。
ホンワカ不思議な気分になって行く。
たぶんこのみちゃんが夢に見たシーンなんだと思う。
いろんな場面がものすごいスピードで頭の中をかけめぐった。
その中にちらっとぼくの顔が見えた気がした。
このみちゃんが僕のことを夢の中で見てくれている。
そう思うとまた胸がドキンとした。


夢を見ていたようだった。
そう、それはこのみちゃんの家に獏が夢を食べるところを見せに連れて行ってくれたあの日の出来事の夢だった。
はっきり目が覚めるとぼくの右隣にこのみちゃんが眠っているのが見えた。
その向こうには同じクラスのりょうたくん。
その向こうにはあやかちゃん。その向こうにも、顔は知らないけれど同じぐらいの年頃の子供たちが、見えなくなるまでずら~っと並んでいた。
みんな同じ黒い台の上で眠っている。
ぼくの左側にはガキ大将の健太君が眠っていた。
健太君の向こうにも眠っている子供たちがどこまでも続いていた。
と言うことは、ぼくも眠っている子供たちの中の一人なわけだ。
でもなぜ、ぼくだけが目を覚ましているんだろう? 
上を見ると天井があるようだけど真っ暗くて、その高ささえわからない。
ちょっと不安になって来た。
ぼくたちの頭側の通路には何匹も獏が行ったり来たりしている。
向こうの方で男の子の頭をかじっている獏がいる。
遠心分離機を操作している獏もいる。
容器に溜まったキラキラ光る夢をワゴンで回収して回っている獏もいた。
その時、あの知り合いの獏が僕の顔を覗き込んだ。
「やあ、君もここに連れてこられちゃったんだね」
と、ちょっと悲しそうに言った。
「できれば逃がしてあげたいけど、そうもいかないんだよ。ごめんね」
「ここはどこなの?」
「夢工場さ。増えすぎた獏たちの食べる夢を大量生産する工場なんだ」
そうだったんだ。
ぼくは思い出した。
今の子供たちは栄養たっぷりの夢をたくさん見る。
それで、その夢を食べる獏たちにはどんどん子供が生まれるようになり、短い時間で大人になって行くので、とうとう夢が足りなくなってしまった。
それで獏たちは人間を支配して、夢工場で強制的に眠らせ、効率よく夢を生産するようになったんだ。
この工場は子供ばかりが連れてこられているらしいけれど、大人ばかりの工場もどこかにあるんだろうか。
ガジガジ音がするので横を見ると、ガキ大将の健太君が獏に頭をかじられている所だった。


目が覚めると少しだけ頭が痛かった。
ものすごい夢を見てしまったなあと苦笑いをした。
「夢工場」だって? 人間が獏に支配されるなんて、変なの。
いやいやそれより、夢を食べている所を見せてほしいなんてぼくが獏に頼むなんてばかばかしい。
そこからが夢だったんだ。
ベッドから降りて部屋を出た。
家の中がやけに静かだった。
もうみんな起きてる時間なのに。
台所にやって来たけれどお母さんがいない。
いつもリビングにいるはずの、お兄ちゃんもお父さんもいなかった。
ふと、部屋にある鏡に目が行った。
ぼくの頭に縫い目が見えた。
それはもう消えていくところだった。
わけのわからないむなさわぎを感じた。
ドアを開けて外に出てみた。
近所の家の向こうに見たことのない大きな黒い建物が建っていた。
その建物には看板があり、「夢工場」の文字が見えた。
後ろで声が聞こえた。
「だからさ、この子だけ特別扱いするわけにはいかないんだよ。わかってるだろ」
「しかたないですね」
夢に出てきた知り合いの獏と、もう一匹別の獏が話をしていた。
その知らない獏はぼくを見ながら言った。
「これからはもう、工場からは出られないんだぞ、ぼうや」



おわり



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by marinegumi | 2017-05-25 23:24 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

見知らぬ鳥 (2枚)

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見知らぬ鳥が窓の外の木の枝に舞い降りた。
体の色は濃い灰色で、大きさはカラスぐらいだ。
でもカラスよりは嘴が長い。
その嘴はぬめっとしたピンク色だ。
灰色の中にそのピンクの嘴だけが嫌に目立つ。
自分の知識の中にはその鳥の名前はなかった。
かと言って鳥類図鑑を調べてみようかという気にもならないのだ。

見知らぬ鳥はそれからずっと何をするでもなくそこにいる。
殆ど身動きもせず時々羽毛を繕うだけ。
日に日に私はその鳥の存在が気になって来る。
朝も晩もただそこにいるのだけれど、なぜかその存在が気になってしょうがないのだ。
あの鳥だって生き物だから何か食べなければいけないはずだ。
だとすれば私が眠っている時だけあの木から飛び立って餌を探しているとでもいうんだろうか。
そうでなければおかしい。
私が目を覚ませば必ずそこにいるのだから。

私は夢を見ているようだ。
あの見知らぬ鳥の夢だった。
鳥は大きく羽ばたいて不気味な声を上げて鳴いたのだ。
長いピンクの嘴を大きく開いて、そして飛び立った。
木の葉っぱをまき散らしながら、その中に自分の羽毛を飛ばしながら青空に飛び立った。
今まで見たこともないほど青い青い空に見知らぬ鳥は小さくなって行った。

麻酔から覚めた私は集中治療室にいた。
癌の手術が終わったばかりだった。
病室に帰っても窓の外にはもうあの鳥はいないのだろう。



おわり




気が付けば長い間小説による更新をしていませんね。
ご存知の通りWeb光文社文庫の「ショートショートスタジアム」用の作品を日々頑張ってるからなんですね。
それ以外にも小説の発表の場が2~3あるので、お話を思いついても、これはあそこ用のに取っておこう、これは今度のあの作品にと言う感じで、なかなかこのブログにと言う事にならないんですよね。
作品はこれまで以上にたくさん書いていますので、そういう意味ではご心配なく。

写真はフリー写真素材のぱくたそさんでお借りした写真を加工したものです。

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by marinegumi | 2017-05-09 00:01 | 掌編小説(新作) | Comments(4)
3月16日は、もぐらさんの呼びかけで『空見の日』なのでした。
空見の日は、みんなで空を見上げようという日です。
毎回忘れていて他の人のブログを見て、そうだった~と思い出すのですけどね。
そう言う訳で一日遅れの『空見の日』。
でもまあ、空は昨日から今日へと続いているわけで(^_-)

a0152009_1712220.jpg


今日は雲一つない空でした。
写真では結構青く映っていますが、実際は春がすみと言うやつでしょうか、もっと白っぽい空なんですね。

ではさっき作ったお話です。



校庭の桜の木

それはある春の日の事だった。
学校の校庭に一本の桜の木があった。
放課後、傘を持ってなかった君と僕は雨が止むまでその木の下で雨宿りをしたね。
上を見上げると花が満開で、それでもやっぱりいくらか雨は落ちてきて。
濡れた君の頭にハンカチをかけてあげた。
いつもいじめられていた僕たちにはそこしか雨宿りをする場所はなかったんだ。

それは夏休み前のある日だった。
みんな帰ってしまった放課後。
君と二人で鉄棒をしていると急に空が暗くなり夕立がやって来た。
その時も校庭の桜の木の下で雨宿りをした。
上を見上げると濃い緑の葉が揺れるほどの大粒の夕立だった。
二人して木の幹を背にして囲むように両手をつないだね。

今はもう誰もいない学校。
あれから何年が過ぎたのだろう。
閉じられたままの校門を乗り越えて雨の中、校庭に入って来た。
桜の木は花をすっかり落していて、葉桜にはまだ早い。
木の下でずぶぬれになりながら雨が止むまで待つことにした。
見上げると枝の間から青空が少しのぞき始めるのが見えた。

君はもういない。
僕だってもうここに帰って来ることはないだろう。
すっかりぬれてしまったけれど、これは僕の雨宿りなんだ。





おわり



みなさんの「空見の日」の記事です。
もぐらさん「空見の日」
はるさん「今日は空見の日」
りんさん「天国の歓迎会(空見の日)」

他にも「空見の日」に参加してらっしゃる人はいないかと探してみました。
いらっしゃいましたね~

八少女 夕さん「空見の日」
harumimiさん「札幌の空」
雫石鉄也さん「ハクモクレンの木」

みなさん勝手にリンクしてしまってごめんなさい。
もぐらさん、他には参加してらっしゃる方はいないのでしょうか?

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by marinegumi | 2017-03-17 17:05 | 掌編小説(新作) | Comments(8)

桃の花狂想曲 (2枚)

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桃の花の下で、突如大騒ぎが持ち上がる。

「ねえ、ちょっと。私おトイレ行きたくなっちゃったんだけど」
「行って来るがよかろう?」
「だってこの階段、人がたくさんいるし。こんな着物じゃ歩きにくそうだし」
「気を付けて行けばいいではないか」
「はいはい、ちょっとお姉さんごめんなさいね。きゃっ。袖が引っ掛かった。水がこぼれちゃったわね」
「大丈夫ですよ。それよりお召し物が濡れてしまって」
「いいからいいから。あいた!今度はおもちをひっくり返しちゃった。あとで直しますからね」
「いいです。私たちでやっておきます」
「バンドの皆さん空けてくださいな。その太鼓がじゃまっけだから。はいはいどうも」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「ありがと、ぼうや。あらお爺さんのその刀、出っ張ってるので後ろが通れないわ。はいはいごめんなさいね。きゃ!弓が髪の毛に」
「おおこれは失礼つかまつった」
「そのほうきや熊手を持ってるおじさんたち、ちょっと引っ込めててね。あら、ちり取りをけ飛ばしちゃったわ。ごめんなさ~い」
ガラガラガッシャ~ン
「ああ、もう!何で家具をみんなこんな所におきっぱにしてるのよ!みんなひっくり返っちゃったじゃないよ。あらら牛が車を引いて勝手にどこかに行っちゃうわ。早くみんなで追いかけなさいってば」

七段飾りのお雛様んちは大騒ぎ。

これ以降、屏風の裏に仮設トイレを設ける事になりましたとさ。



おわり




写真はプリ画像さんでお借りしました。

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by marinegumi | 2017-02-23 14:46 | 掌編小説(新作) | Comments(4)
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ピアノの部屋には天窓がある。
今日は朝から雨が降っていて天窓のガラスを流れる雨が鍵盤の上に模様を描いている。
椅子を引き、ピアノの前に座る。
短くため息をついた。
今頃はピアノの発表会の真っ最中だろう。
わたしの出番がなくなり、今頃は順番が繰り上がった名前も知らないあの男の子が弾いている頃だ。
ソフトボールの練習で痛めた左手を膝の上に置く。
右手の人差し指でポツンポツンとメロディーを弾いてみる。
今日、舞台の上で弾くはずだった曲。
一生懸命に練習した曲だ。
雨が屋根を叩く音。
軒から水たまりに雨が落ちる音。
それを伴奏に聞いて、右手でメロディーを弾いてみた。
思わず左手を動かしてしまい、痛みに顔をしかめる。
もう一度雨のリズムに合わせて目を閉じてメロディーを弾く。
一人きりの部屋が雨の音楽に満たされ、わたしはいつのまにか舞台の上にいる。

弾き終わり、目を開き、天井を見上げた。
天窓からの光がスポットライトだ。
雨の音が、今度は拍手の音に聞こえた。

いつまでも鳴り止まない拍手だ。



おわり



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by marinegumi | 2017-02-03 14:39 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

傑作小説 (2枚)

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この物語は面白いと思った。
自分の作品ながらこれまで俺が読んだ、プロのどんな小説よりも面白いと言うことに自信があった。
たぶんどんな出版社へ持っていっても必ず採用されると思う。
いや、絶対に採用される。
されない訳がない。
そして出版されると、超ベストセラーを記録するのは間違いないはずだ。

この作品を編集部にどうやって届ければいいんだろう。
郵送か?
いやいや、時々郵便事故があるじゃないか。
宅配便だってそうだ。
あんなにものすごい数の荷物を仕分けている段階でいくらかは行方不明になったとしても不思議ではない。
そうだ、この間なんか郵便配達のバイクが止まっているのを見た。
郵便物をある店に配達員が持って入っている間、カバンの中の郵便物は無防備なのだ。
おれがすっと抜いても気が付かないだろうと思った。
それじゃあパソコンからメールで送るか?
しかし俺はそういうものも信用していない。
原稿はパソコンで書くが、も一つパソコン自体に詳しくないのだ。
まあ、メールに添付して送るぐらいはちゃんと手順は分かる。
送ったことがないわけじゃない。
送ったという実感がないので、本当に相手に届いているかどうかが心配なのだ。
できればメールなんかを使いたくない。
それじゃあ直接編集部に持って行くか。
ここからなら候補の出版社へは電車で30分、地下鉄に乗り換えて20分と言うところだろう。
まてよ。
最近、電車の事故がよくあるのを思い出してしまった。
そんなに重大な事故は起こっていないものの俺が乗っている時に限って起きないとも限らない。
仮に事故が起きなくても電車を降りて駅の階段で足を滑らせて頭を打って、なんてこともあるかもしれないし、出版社へ行くまでに交通事故というのもある。
いやいやそれなら駅に行くまでに家を出た途端に車に撥ねられる事もないこともない。
そんなことを言ったら、寝ている間にこのアパートが火事になって原稿もろとも焼けてしまうなんてことにもなりかねないし、ああもう、どうすればいいんだ。
 
心配で心配で書き始めることも出来ない。
 
 
 
 
おわり
 
 
 
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by marinegumi | 2017-01-17 19:05 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

かくれんぼ (3枚)

あけましておめでとうございます。
お正月にちなんだお話を一つ。


a0152009_20465882.png

お正月に田舎のおじいちゃんちでかくれんぼをした。
わたしがたぶん三歳ぐらいの頃だった。
親戚がたくさん集まっていて、知らない子供たちもいっぱいいた。
でもみんなお兄ちゃんやお姉ちゃんばっかりだったと思う。
わたしが一番小さかったと。

遊び終わって夕食の時、子供たちがみんな首をひねりながら話をしていた。
遊んでいた間は気が付かなかったのに思い返すと一人見覚えのない子供が紛れていたと言う。
みんながそれぞれに、自分の知らない親戚の子供だと思っていたらしく、夕食の時にその姿がないので変だと思い始めたらしい。
何年か後に母親がその時の話をしてくれた事があるのでなんとなくわたしの記憶に残っているのだろう。
その子のことを聞かれて、わたしも知らない子だったと返事をしたんだとか。
今、思い出してもおぼろげで、そんなことがあったかなあ、という程度だ。
でも、話をしている時の子供たちのその真剣な表情だけははっきり記憶にある。

そして大人になった今。
久しぶりにその田舎の家に行く機会があった。
おじさんの娘さんが結婚をすると言うので主人と一緒に娘の美里を連れてお祝いに行った。
結婚式は二人だけで海外であげるらしく親戚だけのお祝いの席だ。。
お爺さんはとうの昔になくなり、あのかくれんぼをした家にはそのおじさん夫婦が住んでいる。
昔のまま、チャイムもついてない玄関の戸を開けて声をかけた。
「こんにちは。お邪魔します」
そこにいたのは、いとこの一人の亮介さんだった。
彼は私達を見て何やら落ち着かない素振りを見せた。
「まあ、みんな座敷におるから入ってきいや」
そう言うと駆け足で先に行ってしまった。
座敷机の周りにはなつかしい顔が並んでいた。
その中の何人かが目を丸くしてわたし達を見た。
「こ、この子は由紀ちゃんのこどもさん?」
「そうだよ。美里です。五歳になるんだ。はじめましてだったよね」
「んにゃ。初めましてじゃないど。俺は子供の頃さ、この子と遊んだの、覚えとる」
「そうだそうだ、この子だった」
「あの時の誰も知らんかったあの子だ」
みんな口々にそう言った。
「そんなわけないでしょ? ただ似てるだけでしょ。わたしはあの時のことあんまり覚えてないけどさ」
わたしは少しうろたえていた。
「いんや。この子に間違いないさ」
と、亮介さんは言いきった。
「いやだなあもう。変なことばっかり言って。ねえ、美里ちゃん。このおじさんとおばさんたちと昔、遊んだなんてねえ」
美里は思い切り笑顔で答えた。
「おぼえてるよ。かくれんぼ」




おわり




正月の一時帰宅から病院へ帰ってきました。
消灯(21時)までにアップしようと猛スピードで書き上げました。
まあ、よくあるパターンのお話ですが1時間ほどで書いたにしてはまあまあかな?
だめ?

今年もよろしくお願いします。

イラストはかわいいフリー素材集「いらすとや」さんでお借りしました。

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by marinegumi | 2017-01-03 20:53 | 掌編小説(新作) | Comments(2)
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「ロボット人生相談の館」というのが駅前に出来た。
看板にはいろんなロボットの絵が描いてある。
メガネにヒゲの学者風ロボット。
でっぷり太った女将さんタイプ。
スマートで金縁眼鏡のイケメンロボット。
などなど。
中に入ると何十も部屋があり、自分の好みの部屋を選んで入り、机を挟んでロボットと対面して座る。
すでに温かい飲み物が用意されている。
その飲み物は入る前にリクエストしたものだ。
飲み物を一口飲んだタイミングでロボットはしゃべり出す。
「今日ハドンナゴ相談デスカ?」
日頃の不満や不安を洗いざらいロボットにぶちまける。
ロボットは話をうなづきながら聞いてくれる。
首が上下する時の軽快なモーター音が心地良い。
時々短い言葉をはさみながら、ロボットはほぼ聞き役だ。
でも最後には的確な答えをくれる。
「自分ノヤリタイ事ヲヤッテミナサイ。ソレガ一番デス」
その答えはあらかじめ用意されたものだ。
飲み物のリクエストと一緒に自分が欲しい回答をタッチパネルで選ぶことが出来る。
例えば。
「モウ一度ソノ人ト話シ合ッテミルコトデスネ」
「コレカラノ相手ノ出方ヲ見守リマショウ」
「アナタノ方カラチャント謝ッタホウガ良イデスネ」
などなど。
答えが最初から決まっているはずなのに、このロボット人生相談は結構流行っている。
まあ、人というのは多くの場合、相談する相手が人であれロボットであれ、こう答えてほしいと言うのがすでに決まっているものなのかも知れない。



おわり



イラストは、「GATAG フリーイラスト素材集」さんでお借りしました。

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by marinegumi | 2016-12-22 18:45 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

吹雪の客 (5枚)

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あら、お客さん?
こまったねえ。
もう民宿はやってないのよ。
夫が亡くなってからは子どもたちと一緒に切り盛りしていたんですけどね。
今はもう私一人でね。
まあ、こんな吹雪の中をせっかく来てくれたんだから追い返す訳にはいかないしねえ。
十分なことは出来ないかもしれないけど一晩ぐらいはお泊めしましょうか。
明日にはどこか知り合いのペンションでも紹介しますからね。
 
だけどこんな寂しい所にお一人で?
まさか彼女に振られて自殺なんて考えてないでしょうね。
って、冗談ですよ。
そもそも彼女が出来る顔じゃないしね。
だから、冗談ですってば。
 
よく冷えたビールでもどうです?
え? あたたかいコーヒーがいい?
そうよね、ごめんなさい。
そこに電気ポットとインスタントコーヒーがありますから自分で入れてくださいますか。
あ、はい、お湯も沸かしてくださいな。
普段から沸かしておいたりしないので。
 
え? 主人ですか?
ええ、そりゃもう真面目な正直な人でした。
約束を破るやつが一番きらいだと、いつも口癖みたいに言ってましたね。
その通り、一生約束を破ることはなかったですよ。
私の子供たちですか?
男の子が二人です。
二人とも結婚してどっちの夫婦もこの民宿を手伝ってくれてたんですけどね。
もうみんな死んじゃったんですよね。
孫たちはみんな街に出ちゃって。
何で死んだのかって?
そんなことまで聞くんですか?
悪いこと聞いちゃったって?
いえ大丈夫ですよ、何も事故とか事件とかそんなんじゃありませんからね。
みんなちゃんと歳を取……
え?
部屋が寒い?
エアコンもあるんですけど、室外機が雪に埋もれちゃってますからねえ。
電気毛布にでもくるまっていただけますか。
 
今夜の食事ですけれど何がいいかしら。
いえ、さっきも言いましたけれど民宿はもうやってませんからご馳走は出来ませんよ。
お刺身と、冷やし中華、冷製パスタ、ご飯は冷やめしをお握りにしましょうか。 
デザートにはショートケーキやアイスクリームがあります。
え?
あったかいものがいい?
こまったわねえ。
お若いからねえ、トンカツとか唐揚げとか?
それに? 熱〜い豚汁?
わかりました。
なんとかやってみますから。
今から台所に入りますから決して開けてはいけませんよ。
___________________________________
  
若者は自分の部屋で電気毛布にくるまりながら食事の用意が出来ているのを待っていました。
20分ぐらいした頃でしょうか。
台所から女将さんの悲鳴が聞こえたのです。
それと同時に何やら食器類が落ちるようなはげしい音がしました。
若者が駆け込むとガスコンロには天ぷら鍋がかけてあり、その油に火が入って大きな炎が上がっていました。
あわててガスを止め、そばにあったぬれ布巾で火を消します。
ほっとため息をつきながら台所を見渡すと、食器類が散乱する中、さっき女将さんが着ていた着物が脱ぎ捨ててあり、それの胸のあたりが焼け焦げてまだくすぶっています。
そして着物の周りには広く水たまりが出来ていました。
また、なぜか台所の窓という窓は開けっ放しで、雪が吹き込んでいたのです。
テーブルの上には揚げたてのトンカツと、まだ揚げていないトンカツがそれぞれ並んでいました。
その時、最新式の電気炊飯器から声がしました。
「ご飯が炊き上がりました ご飯をほぐしてください」
若者はご飯をほぐしてから、家中を探しました。 
いくら探しても女将さんはどこにもいなかったのです。
仕方なくありあわせの物で食事を済ませると、その夜は風呂にも入らずに若者は眠りました。
  
あくる朝、吹雪は嘘のように止んでいていい天気でした。
若者が外へ出てみると家の玄関横に雪を被った古ぼけた看板があり、字はもうほとんど消えかけていましたが、なんとか読むことが出来ました。
 
「民宿 ゆきをんな」
 



おわり



この作品はりんさんのブログ「りんのショートストーリー」の作品「ゆきおんなのはなし」のパロディーです。
パロディーのパロディーですけどね。
「ゆきおんなのはなし」の奥さんの方が雪女かと思っていたという、雫石鉄也さんのコメントを読んで、「おお、それいただき!」と思って、即書き上げました。


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by marinegumi | 2016-12-19 17:22 | 掌編小説(新作) | Comments(2)
a0152009_9585670.jpg
 
リンちゃんがいなくなった。
 
リンちゃんはぼくと同じ小学三年生だった。
歩いて十分ぐらいの商店街に住んでいるのだけれど、学区がギリギリで違うらしくて隣町の小学校へ行っているのだ。
でも公園でよく一緒になるのでいつの間にか仲良くなった。
名前は凛太郎と書くみたいで、男らしい名前だとは思うけれど「リンちゃん」と呼ばれるのは女の子みたいでいやだと、リンちゃん自身がよく言っていた。
でもそのニックネームがよく似合う、女の子みたいな優しい顔と、少し栗色がかった柔らかい髪の毛をしていた。 
 
そのリンちゃんがいなくなったのは、ぼくと一緒によく遊んだ公園でだった。
その日はリンちゃんの三歳の妹が公園に行きたいと言い出して、お母さんが二人を連れて来ていたのだと言う。
リンちゃんはジャングルジムが好きだった。
ブランコでもなくすべり台でもなく、どんな遊具よりもジャングルジムの上にいることが多かった。
お母さんが妹を砂場で遊ばせているときにもリンちゃんはジャングルジムの上にいたと言う。
妹が砂が付いた手でこすってしまい目が痛いと言い出したので水道の所に洗いに行ったのだ。
ほんの五分ほどで戻ってきたらもうリンちゃんの姿がなかったらしい。
公園中を探し回り、夕暮れまで近所の知り合いの家を訪ねて回り、それでも見つからなくて夜遅くになって警察に届けた。 
それからもう三ヶ月が過ぎたけれどリンちゃんは見つかっていない。
なんの手がかりもなく、ただ消えてしまうみたいにいなくなってしまったのだ。

一人っきりでベンチに腰掛けていると自転車のブレーキの音がした。
振り向くと、ぼくの向かいの家に住んでいる大学生のお兄さんがいた。
学校帰りみたいで、自転車にはスポーツバッグが積んである。
「よう。一人で何してんだ?」
「うん、ちょっとね」
「もうすぐ日が暮れるから早く家に帰れよ。子供がここで行方不明になってるしな」
そう言ってお兄さんは手を上げると行ってしまった。
ぼくはリンちゃんが三ヶ月前に、いなくなった公園に一人で来ている。
三ヶ月前と言うと公園のイチョウの大木はその黄色い葉っぱを盛んに落として、公園が一面に黄色く敷き詰められていた。
今ではもうイチョウの木は丸裸だ。
冷たい風の吹く青空に太い幹からたくさんの細い枝を伸ばして立っていた。
木を見上げると、自然に鉄塔が目に入る。
その公園のとなりの金網で仕切られた土地に大きな大きな鉄塔が立っていたんだ。
真下から見上げているとすぐに首が痛くなりそうな高い鉄塔だった。
遠くの山の上に立っている鉄塔から長い長い送電線を中継している鉄塔の一つだった。
そう、リンちゃんは鉄塔が好きだった。
ジャングルジムに登りながらきっとあの鉄塔に登る自分を想像していたのかもしれない。
ジャングルジムのてっぺんの鉄の棒に足を掛け、両手を離しながら立ち上がり、大きく手を広げて立っていたリンちゃん。
「あぶないよ」と声をかけるとニッコリと笑ってぼくを見下ろしたっけ。
 
ジャングルジムの上と下で、いつかこんな話をしたことがある。
リンちゃんは送電線を見上げながら言った。
「人間の魂ってさ、きっと電気なんだぜ」
「電気?」
ぼくが変な顔をしているのを見てくすりと笑った。
「ほら、病院で検査なんかする時さあ、心電図とか取るじゃん? それから脳波とかさ。あれは脳から出ている弱い電波を記録するんだよ」
「そう言えばそうだね」
ぼくはその時リンちゃんの家が電気屋さんだったのを思い出した。
「もうすぐさあ、寝ている時の脳波を分析してどんな夢を見ているのか判るらしいよ。夢を画面に写したりさ。それからさ、モビルスーツなんてさ、脳波を増幅すれば考えるだけで操縦出来るようになると思うよ」
「へええ?」
「だからさ、人間の魂ってさ、電気だと思うんだ」
話はそこに戻ってきた。
「デンキウナギっているじゃん」
「知ってるよ。感電したら人間でも死んじゃうとか」
「人間も体のどこかで電気を起こしてるんだよね。それが魂なんだ。エネルギー不変の法則ってあるだろ。電気もエネルギーの一種だから人間の魂だってきっと不滅だと思うんだ。体がなくなってもさ」
話がよく分からなくなってきていた。
リンちゃんは急に話すのをやめてしばらく青空を横切る送電線を見上げた。
そしてポツリと言った。
「あの送電線に乗って、どこまでも行ければいいな」

そんな話をしたのはいつだったんだろう。
目を閉じて思い出してみる。
イチョウの葉っぱは緑だった。
リンちゃんはジャングルジムの上に座って少し汗をかいていた。
遠くから蝉の声が聞こえてもいた。
あれは夏だったんだ。
秋の日にいなくなってしまったリンちゃん。
そして今はもう冬だ。
手袋なしで触るのがつらいほど冷たくなっているジャングルジムをぼくは登った。
リンちゃんと違ってぼくは高いところが苦手だった。
それでも登ってみたいと思った。
りんちゃんの目の高さになってみたかったんだ。
一番上まで上がったら下から見上げる以上に高い気がした。
ぼくは一番上の横棒に腰掛けて両手で体を支えていた。
とても立ち上がって手を離したりは出来なかった。
裸のイチョウの木を見上げ、目を移してもっと高い鉄塔を見上げた。
鉄塔の外側にはなんだかトゲみたいなものがいっぱい生えていた。
それはよく見るとどうやら短い鉄の棒らしい。
鉄塔の大きさに比べて、ものすごく小さいのでよく見ないとわからなかったけれど、それはきっと人間が登るための取っ手だと思った。
ちゃんと登れるようにしてあるんだ。
途中には鉄骨で作られた四角い囲いみたいなものもある。
底は金網になっていた。
人が登っている途中にそこで一休みするんだろうか。
上の方では風車(かざぐるま)みたいなものがいくつもくるくる回っていた。
そしてそのもっともっと上の方。
大きなガイシが並んで送電線が伸びている少し下に小さな人らしいものが見えた。
子供だった。
外側に並んだ取っ手に掴まって一つ一つ、身軽に、驚くほど早く登っているのだ。
「リンちゃん!」
ぼくは大きな声を上げていた。
その子供はリンちゃん以外の誰でもあるはずがなかったんだ。
あわててジャングルジムを降りると公園を出て鉄塔を囲んだ金網フェンスまで走った。
フェンスはとても高くて子供では乗り越えられそうもない。
でもリンちゃんはあの鉄塔を登っていた。
ものすごく高い所にいるはずなのに、まめつぶよりも小さいのに、ぼくにはリンちゃんの様子が手に取る様に判った。
そのとき、リンちゃんがぼくを見ていたのだ。
「リンちゃ〜ん。降りてこいよ〜!」
ぼくは精一杯の大声を出した。
「みんな心配してたんだよ〜! 帰ってこいよ〜!」
リンちゃんはとうとう電線の上に乗っかって綱渡りのように両手を広げて歩き始めた。
ぼくは慌てて後を追いかけた。
もちろん道路の上をだ。
そのスピードはとても速くて追いかけるのが大変だった。
もちろんリンちゃんはずっと直線だったし、ぼくはジグザグに道路を走らなければいけなかったというのもあるけれど、それにしてもリンちゃんは速かった。
車の多い道路を渡り、住宅街を抜けて小高い丘の上までやって来た。
新しい住宅街を見下ろす、その林の中にもう一つの鉄塔が立っていた。
そしてリンちゃんはその鉄塔の近くの電線に腰掛けてぼくを待っていた。
リンちゃんはその髪の毛を少し強くなった風になびかせ微笑んでいた。
そして下の方を指差していたんだ。
ぼくの足元の方を。
「なんだよ〜! リンちゃんてば。降りてこいよ!」
気がつくとぼくは腹を立てながら涙を流していた。
ボロボロ泣きながら大声で叫んだ。
「リンちゃ〜ん!!」
ふとリンちゃんは立ち上がった。
そして両手を肩の高さまで上げてぼくに向かってゆっくりと振った。
するとリンちゃんの体は明るく輝き始めた。
息を飲んで見守っているうちに、パリパリと言う奇妙な音がするとリンちゃんの体は透明になり小さなオレンジ色のいなびかりに包まれてゆらりとゆれた。
そしてそのまま電気の放電に姿を変えて空中に浮かんでいたと思うと、急に送電線に吸い込まれてしまったのだ。
その送電線の一部がオレンジ色に輝きながら、ものすごいスピードで山の上の次の鉄塔目指して走って行ってしまった。
 
しばらくぼんやりしていたぼくはふと我に返ってリンちゃんが指差していた所を見た。
鉄塔のそばを流れる細い川が、丘に埋められた太い土管の中に流れ込んでいる。
ぼくは胸騒ぎがした。
とても中に入ってみる勇気は出なかった。
 
次の日、ぼくはあの大学生のお兄さんに頼んでその場所に一緒に行ってもらった。
もちろん強力なLEDライトを持って。
理由を何も言わなくてもぼくの表情を見てお兄さんは付いてきてくれたのだ。
その大きな土管を五メートルほど入った所に鉄の格子に引っかかっている見覚えのある服を着たリンちゃんを見つけた。
お兄さんは慌ててぼくの手を引いて土管から出て警察に連絡をしてくれた。
何もかもがまるで夢の中の出来事のようだった。
 
何日か後、お兄さんは「リンちゃんは誘拐されて殺されちゃって、あそこに捨てられたのかもしれないね」と言った。
「まあ、これから警察が調べて行けば色々判ってきて、もし犯人がいるのならきっと捕まるよ」
ぼくは違うと思った。
リンちゃんは鉄塔に昇りたかったんだ。
公園のそばの鉄塔に登るのは大人の目があって無理だから、この丘の上の鉄塔を登ろうとしてやって来たんだ。
そして、登っている途中で足を滑らせたのか、もう力が続かなかったのか、あの川に落ちてしまったのに違いないんだ。
馬鹿だよリンちゃんは。
 
もうそれしかぼくは信じない。
警察やテレビが言っていることなんてどうでもいい。
ぼくはそれしか信じない。



おわり





ツイッターで「鉄塔物語」のタグで書いた十数本のツイッター小説をなんとなく頭に置いて書いた作品です。
最近になく乗って書けましたね。
10枚をほぼ一気書き。
写真は、いま入院中の病院の真ん前にある鉄塔です。

もう一枚写真をアップ。
これは病室の窓から桜の木ごしに見える同じ鉄塔です。
上の写真は向こう側から撮ったんですよね。
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by marinegumi | 2016-12-09 10:06 | 掌編小説(新作) | Comments(0)