まりん組・図書係 marinegumi.exblog.jp

海野久実が掌編小説やら短編小説を書いています。タイトルの後に原稿用紙換算の(枚数)があるのが小説です。


by marinegumi
プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ:掌編小説(新作)( 243 )

階段の怪談  (8枚)

電車を降りて、駅の改札を出てから、あかねの家までは歩いて15分ほどだ。
歩き始めたときはいつも同じ方向に帰る同級生や、OL、サラリーマンたちがたくさんいるのだが、まもなく急に人通りが少なくなる。
それは、駅とあかねの家までの道のりの、中間ぐらいに公団住宅が何棟も建っていて、ほとんどの人々がそこに吸い込まれてしまうからだった。

あかねはいつも急に心細くなる。
家に帰りつくまでたった一人だったこともめずらしくないのだ。
自然と足早に歩いてしまう。
あかねの家があるのは新興住宅街で、まだまばらにしか家は建っていない。
その先は広い空き地が広がっているだけ。
さらにその向こうは。
「ジャングルじゃん!」
と、初めてここに来たときは、思わずそう言ってしまったほどだった。
「あーあ、何でこんな寂しいところに家を建てたのかしら?」と、いつもの愚痴が出てしまう。
「高校を転校してまで引っ越してくる値打ちはなかったよねーわたしにとっては」

いつものコンクリートの階段が見えてきた。
建売の家と家の間にあるその階段を上がってしまえば、まもなくあかねの家だ。
上からは、その緑色の屋根が見えるはずだった。

この階段は13段ある。
あかねは最初にそれに気がついたときは少々いやな感じをもった。
不吉な数字。
どういう事で縁起が悪いといわれているのかまでは知らなかったが。

右足から上り始めて、いち、にい、さん、と心の中で数えながら上る。
じゅういち、じゅうに、じゅうさん!で右足が一番上の段にある。
いつもは。

そう、いつも右足から上り始めて、右足で終わるはずだった。
階段の段数は奇数の13段。
右足で終わらなければおかしい。
それが今日は左足で終わっていたのだ。
あかねの背中に冷たいものが走った。
10分以上速足で歩いて、けっこう体は暖かくなっていたのだが、一度に寒気を感じていた。
夕暮れ時。
暗くなりかけているこんな時間にあかねは階段の一番上で立ち尽くす。
なんだかこわい。
でも、数え間違っただけだと思いたかった。
それを確かめたくてしょうがなかった。
あかねは階段を2段づつ飛ばして下りた。
そしてもういちど上り始めた。
最初は右足から上り始める。「いち」
つぎは左足だよ。「にい」
今度は右足だね。「さん」
絶対間違えないように、慎重に十三を数えたとき、あかねの左足が階段の一番上にあった。
左足だ。
ありえない左足だった。

あかねは、駆けださないよう努力しながらことさらゆっくり家を目指した。
走り出したらパニックにおちいりそうだったのだ。
あかねは今まで何度この階段を上っただろう。
毎日必ず通る階段だった。
必ず右足から上り始めて、右足で13段目を勢いよく踏んできたはずだった。
それがなぜ?13段目が左足で終わるんだろう。
「ただいま‥」
「おかえりなさーい」と母。
彼女は料理をしている手元を見たままだったので、あかねが少し青ざめていたことには気がつかなかった。
あかねは家の二階への階段を上った。
なるべく数を数えないようにしながら。


「遠藤あかね!」
大きな先生の声でわれに返った。
まわりのクラスメイトたちがくすくす笑っている。
もう何度も名前を呼ばれていたらしい。
数学のテストを返してもらっているところだった。
あわてて教壇までまで取りに行くと、先生の顔がいやに険しかった。
「おまえ、わざと間違ってるのか?」
「え?何でですか?」そう言いながらテスト用紙を見た。
数学が得意なあかねにしては考えられない低い点数だった。
改めて自分の回答を見直したが、どこも間違ってるとは思えなかった。

「おまえなー、答えが整数の問題は、全部間違ってるぞ。
 それも、どの答えも正解の数より必ず「1」だけ少ないのはどういうわけだ?
 正解が解ってなきゃこんな奇妙な間違い方は出来んぞ!」

あかねは階段の一番上を踏んだばかりの左足を思い浮かべていた。

a0152009_0394543.jpg





はい、ツイッター小説の発展形ではないショートストーリーです。


にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2010-10-01 00:41 | 掌編小説(新作) | Comments(0)

百円玉  (5枚)

ある夏の日、その事を突然思い出し、気が付くと電車に揺られていた自分自身に
「おい、まじかよ?」と小さく呟いていた。

5時間もかけて、十数年ぶりにたどり着いたその街の様子は、すっかり変わっていて、どっちへ向かって歩きだせばいいのか、一瞬迷ってしまったぐらいだった。
とりあえず、むかし通っていた大学の正門までたどり着いた。
ここから、自分が住んでいた下宿までの道のりがなかなか思い出せなかった。
いや、思い出せはする。
その記憶と現実が、あまりに違ってしまっているのだ。
大きな古い建物を探し探し歩き出したが、すぐに立往生してしまう。

道のりを、始めからたどり直す事を何度かくりかえして、やっと見つけたその場所。

それは、大学時代の僕の下宿の近くの小さな食料品店だった。
建物も一部新しくなっていたが、ちゃんとまだそこにあった事にホッとしていた。
店の名前も、覚えていた。
店先のテントも、そこに書かれた店の名前の文字も、新しくしゃれた感じになっていた。
左側に並んでいる自動販売機は当時のまま、3台だった。
でも、当然、機械は全部入れ替わっている。

あの夏の日を思い出していた。
君と二人で立ち寄ったこの自動販売機の前。

裏側をそっと覗きこむ。
日差しに慣れた目がだんだん薄暗がりに慣れてくるとそれは見えてきた。
自動販売機の裏側の、食料品店と隣の建物の間に君が落としてしまい、あきらめたあの百円玉がコンクリートの隙間にまだ残っていた。
半分泥にうずまった、変色した百円玉がそこにあった。

その瞬間、君の髪の香りを、ありありと思い出した。

あの時、君が拾おうとして手が届かず、僕に「替ってよ」と言ったね。
入れ替わる時に、君の髪が僕の鼻先をかすめた。
その時の君の髪の香りを、今さっきの事のようにありありと思い出していた。

このためだけに5時間もかけてここまで来る自分を、ばかばかしく思っていたが、その気持はもうなくなっていた。

ふいに肩をたたかれた。
振り返ると君の笑顔があった。
あの時と少しも変わらない君の笑顔が。

そんな場面を想像した。
しばらく歩き出せなかった。
肩をたたかれるのを僕は待っていたのかもしれない。

持っていた1枚の百円玉を、君の百円玉のそばにポンと投げて、2枚の百円玉の位置を確認すると僕は歩きだしていた。





ツイッター小説8本目です。

(原文)
突然思い出した。気が付くと電車に乗っていた。5時間かけてたどり着いたその街の様子は、すっかり変わっていた。なんとか見つけたその場所。大学時代の僕の下宿の近くの自動販売機は機械も全部入れ替わっていたが、君が落としてしまい、あきらめたあの百円玉がまだコンクリートの隙間に残っていたよ。


にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ
[PR]
by marinegumi | 2010-09-26 23:55 | 掌編小説(新作) | Comments(0)
幼かった頃の私は、孤独な女の子だった。
兄弟もいず、眠るのはいつも真っ暗な部屋でひとり。
眠る時に、童話の一つも読んでもらった記憶はなかった。

覚えているのは冬の夜のことがほとんどだった。
霜で凍りつき始めた窓ガラス越しに見えるあの場所の記憶がよみがえる。

暗い冷たい海の向こう。
暖かそうな光に包まれた場所が私の寝床から見えた。
毎晩毎晩、その場所を見ながら、それを子守歌代わり‥童話の物語の代わりにして眠るのだった。
ひどく寒いこの部屋と違って、どんなにその場所は暖かく見えたことか。
そして、かすかに聞こえる人々の声。
太鼓や、鐘などを鳴らしているのか、ガンガンガン、カンカン‥と賑やかな音。
花火をしているんだろうか、いつも火花が散るのが見えた。

あの場所へ行きたかった。
そこへ行けば、どんなに暖かいことだろう。
どんなに楽しいだろう。
そこにいる人々のたくさん笑顔を思い浮かべながら、眠りに落ちる毎日だった。

いつものように布団にくるまって、その場所を見ていたある日。
ひときわ大きな音が聞こえた。
ひときわ大きな花火が打ち上げられた。
そして人々が大勢、大声を上げながら騒いでいるのが聞こえた。

しばらくして家の電話が鳴った。
隣の部屋にいた母親が受話器を取った。
話は、ところどころしかわからなかった。
「鉄工所で事故‥、お父さんが下敷き‥うそでしょ‥」
何もわけもわからず、それでも何か大変なことが起こった事だけは察していた気がする。



ツイッターの本文はこれだ。

暗い寒い海の向こう。窓ガラス越しに見るその場所は、暖かそうな光に満ちて、いつも何やらお祭りのように賑やかだ。花火が見えたり、ガンガンガンと大きな太鼓のような音がしたり。あそこに行ってみたいと、いつも思っていた小さな私。ある夜、家に電話がかかってきた。「工場で事故‥お父さんが死‥」


どうも、思いつくアイデアが、ツイッターの140文字に収まりきらないというか、収めてしまうと、欲求不満を感じますね。

にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村
[PR]
by marinegumi | 2010-09-17 23:05 | 掌編小説(新作) | Comments(0)