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カテゴリ:掌編小説(新作)( 245 )

水槽 (2枚)

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熱帯魚を買ってきた。
夕焼けの色をしたプラティーを15匹。
プラティーを入れる前に水槽の中に景色を作りたくなった。
魚たちにはビニール袋のまま、エアーポンプで空気を送り、待ってもらうことにした。

色違いの砂を何層かに敷き、丘を作り、水草の樹木を植える。
左奥にはこんもりとした森を作る。
丘には曲がりくねった道を作り、その先にレンガ造りの家を置く。
庭を柵で囲い、郵便ポストを取付け、外灯のポールを立てる。

ふと思いついて、道だけを残してごく短い水草をびっしりと植えた。
砂でグラデーションを描いた地面は見えなくなったけれど、それはそれでいい。
やりだしたらとことん凝らないと気が済まないのがぼくの悪い癖だ。

水槽の中のその景色を確認して、やっと水を張りだしたのは夕暮れ近かった。
注意深く、景色を壊さないように少しづつ水を入れていると窓の外に音が聞こえた。
いつの間にか空は雲に覆われ、夕立が降り出したところだった。
なんだか大雨になりそうな予感がした。



おわり


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by marinegumi | 2016-06-19 17:46 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

雨宿りの木 (3枚)

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学校帰り。
青空の下。
僕はビニール傘をステッキの様に持って、左右に揺らしながら歩いていた。
街を外れ、川に架かった橋を渡り、いつもの野原の中の道を歩いて行く。
女の人が怪訝そうな顔で僕を見送っていた。

やがて空に雲がかかり、間もなく雨が降り出した。
ビニール傘を開く。
雨は強くなりビニール傘の上を流れる。
しばらく歩くと小さな池のそばの一本の大きな木が見えてくる。
そしてその木の下には雨宿りをする映子ちゃんがいた。
「こんにちは」
僕が声をかけると映子ちゃんはにっこりとほほ笑む。
いつも胸がきゅんとするすてきな笑顔だ。
僕は今日、学校であった事をあれこれ映子ちゃんに話してあげる。
「へえ?そうなの」
「麻衣ちゃんが?」
「そんなのうそでしょ!」
映子ちゃんはそういう風に相槌を打ちながら楽しそうに聞いてくれる。
話し終わり、ふと沈黙が下りる。

僕はいつも迷っている。
映子ちゃんに告白するかどうかを。
こんなにも好きで好きでたまらない気持ちを打ち明けるかどうかを。
でも、いつも決心がつかないのだ。
映子ちゃんが僕の気持ちを受け入れてくれたら僕はどうなるのだろう?
君とずっと一緒にいられるのだろうか?
映子ちゃんは可愛かった。
まつ毛の一本一本さえ現実的に見えた。
幽霊だなんて信じられなかった。

あいつに振られただけで、雨の日にこの池に身を投げた映子ちゃん。
何でいつまでもここにいるんだい?
僕が会いに来るのを待っているの?
そして僕が告白するのを待っていてくれてるのかい?

木の下に幽霊が出ると言ううわさで、この辺りには誰も寄り付かない。
どんなに良いお天気の日でも年中雨が降っている不思議な場所。
毎日僕が学校に傘を持って来るのは映子ちゃんに会うためだ。

さよならを言って僕は歩き出した。
いつか映子ちゃんに告白する日が来るのだろうか?



おわり



この作品はりんさんのブログ「りんのショートストーリー」の作品「雨が嫌いになった日」のコメント欄に書いた僕のお話のアイデアを元にしてでっち上げた作品です。
こういうコメントをしたことさえ忘れていましたが、今日、ふと思い出してしまいました。
と言うか、長いコメントだったのでワードで下書きをした物が残ってたんですね。
それを見つけて、なんだこれはと思って。
それを元に一つ書いてみようと言う事になったわけです。

りんさんの「雨が嫌いになった日」は2013年6月の作品ですね。
そして、映子ちゃんはこの作品の登場人物と同じ名前です。

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by marinegumi | 2016-05-29 16:58 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

食べ物 (3枚)

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旅の途中だった。
ある村を通り過ぎようとしていた時に、もう食料品がない事に気がついた。
もうそろそろ昼になる頃で、急に空腹を感じた。
そこに何やら小さな食料品店らしい小屋が見えて来る。
店先に立つと一人の黒づくめの服を着た老婆が中に座っているのが見えた。
いくつかある台の上にはかごに盛られた卵ぐらいの大きさの白いものが並んでいる。
多い少ないはあるものの、どのかごもみんな同じものだった。
「これは何ですか?タマゴかな?」
そう声をかけるとそれまで影の様に身動きしなかった老婆はのそりと体を動かした。
「食べ物じゃよ」
「ええ、何という食べ物なんですか?」
老婆はまじまじと私の顔を見た。
そしてよそ者だと気がついて納得したのか、小さくうなづいた。
「食べ物じゃよ。そう。タマゴだと思って食べればそれはタマゴだし、肉だと思って食べればそれは肉なのじゃ」
「ええ?そんな食べ物があるんですか?」
「そうじゃよ。だからこの村の者はみんなこれを買って帰るのさ。畑を耕す必要も、狩に出かける必要もない」
「それじゃあ私もいただきます。これぐらいでいいかな」
私は10個ぐらいが盛られたかごを指さした。
老婆は皿から紙袋にそれを移し替えると私に差し出して言った。
「12ハンスじゃ。一回の食事に1個でいいよ」
食事10回分ならそれほど高くもない。

しばらく歩いて村はずれの川のほとりで私は座って食事をすることにした。
白い丸いものは触ると軟らかくて不思議な感触だった。
しっとりしているようで乾いているようで、潰れそうでいてしっかり弾力がある。
「食べる時はこれが食べたいものだと想像して食べるんじゃよ」
老婆の言葉を思い出していた。
それを口に入れた時、変な想像をしてしまった。
「し、しまった」
またたく間にひどい吐き気とめまいに襲われた。
そして意識が遠のいて行く。
私はそれを毒キノコだと想像してしまったのだ。




おわり




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by marinegumi | 2016-05-28 18:47 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

写真は、フリー写真の「ぱくたそ」さんでお借りしました
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気がつくとぼくは暗い部屋に立っていた。
何となくの雰囲気と匂いで自分の部屋だと分かった。
ひょっとしてぼくは立ったまま眠っていたんだろうか?
でも、眠りから覚めたという感じはしない。
ただ、そう、気がついたとしか言いようがないんだ。

部屋は真っ暗ではない。
どこからともないほのかな光が部屋全体に満ちている感じだった。
ぼくはなんとなく壁に掛けてある大きな鏡の前まで歩いた。
この鏡はぼくのおばあちゃんが残したものだ。
床の上から2メートル近くも高さがある。
ちょうどこの部屋のドアぐらいの大きさだった。
そう、この部屋は前にはおばあちゃんが使っていた。
おばあちゃんが死んでから間もなくぼくの部屋になった。
家具もベッドも、すっかり入れ替えたけれど、この鏡だけはそのまま残っている。
夜中に目が覚めてトイレに行く時なんかは、必ずこの鏡の前を通る。
そしていつも暗い部屋にいる鏡の中のぼくと目が合うのだ。
なんだかその鏡の中のぼくは、ぼくとは違うもう一人のぼくのような気がした。
今にも、ぼくの動作に縛られず勝手に動き出すのではないかと不安混じりの不思議な気持ちになった。
でも、決してそれは怖いと言う感じではなかった。
薄暗い部屋の中にいる鏡の中のぼくが昼間のぼくとは違う存在のような気がしたのだ。

いつもするようにぼくは鏡の前に立ち、横目で鏡の中のぼくを見ようとした。
でもそこには誰も映っていなかったんだ。
ただ薄暗い部屋がぼうと映っているだけだった。
手を伸ばしてみた。
その伸ばした手も鏡に映る事もなく、鏡の表面に触りもしなかった。
勢い余ってぼくの体はするりと鏡の向こうにすり抜けてしまった。
振り返って手を伸ばすと冷たく硬いガラスの感触があった。
閉じ込められた?
一体どうやって鏡は扉を開き、また閉じてしまったんだろう?
鏡の外側の薄暗い僕の部屋が見える。
窓際に置かれたテーブルの上に見なれない物があった。
それは額に入ったぼくの写真らしかった。
その写真の前には、お皿に乗ったぼくの大好物のイチゴのショートケーキが見えた。



おわり



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by marinegumi | 2016-05-15 18:42 | 掌編小説(新作) | Comments(10)

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咲き始めたばかりの桜並木の下を歩いている。
しとしと春雨の降る通学路。
ビニール傘を通して、過ぎて行く桜の花が見える。
僕は思い出す。
去年ここを由香と並んで歩いたあの日は、桜の花が盛んに散っていた。
僕の傘は透明のビニール傘で、由香の傘は普通の青い傘だった。
「わ。きれい!」
由香がそう言ったので傘を見上げると一面に桜の花びらが積もっていた。
由香は自分の傘をたたみ、僕の持っている傘の中に入って来た。
「きれいだわ。きれいよね」
そう言いながら僕に見たことのない笑顔を見せた。
傘の中の温度が急に上がったような気がした。

僕は立ち止った。
咲き始めたばかりの桜がビニール傘を通して見える。
じっとしていると傘の上に花びらが積もっているみたいだ。
しばらくそうやって見上げていた。
「まだあの子の事考えてるの?」
覚えのある声が後ろから聞こえた。
幼なじみの佳織だった。
「何言ってんだよ。おまえ」
自分でも顔が赤くなって行くのが分かった。
「好きな人が転校しちゃって。残念だったわね」
意地悪そうなその言葉と裏腹に、佳織の笑顔は優しかった。


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夜の公園。
満開の桜の下を歩いている。
一人で買い物に出かけての帰り道。
駅から我が家へはこの公園を通り抜けるのが一番早い。
今日は日曜日で、暖かくて天気もいい。
ぼんぼりには灯がともり、見事な桜を浮かび上がらせている。
一面の桜の木の下の芝生の上には場所取りのブルーシートがいくつもいくつも敷かれていて、その上には座布団が並び、たくさんのお酒のビンやごちそうの詰まった弁当が並んでいる。
違うブルーシートの上にはバーベキューの用意がされ、またある場所では鉄板の上で焼き上がったばかりの焼きそばが湯気を上げていた。
電源の入ったカラオケ装置とマイクもあった。
でもそこにいるはずの花見客が一人もいない。
公園には人っ子一人姿が見えない。
静まり返っている。
カラオケのアンプのノイズがかすかに聞こえるばかりだ。
私は足早に通り過ぎようとする。
だんだん足が速くなる。
次第に恐怖を感じ出していた。
どうして誰もいないんだろう?
こんな花見日和の日曜日の公園なのに。
今、後ろから誰かに声をかけられたらきっと悲鳴を上げてしまうだろう。


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桜の散るカフェの外テラスで、飲み物を前にして僕たちは向き合っていた。
初めてのデートだった。
喋るのが苦手な僕は、用意してきた話題が底をついてしまっていた。
「桜がきれいだね」
「そうだね」
ああ、もうそんな事を何度言っただろう。
さっきから気まずい沈黙が二人を隔てている。
こんなんじゃだめだ。
きっと君は退屈してるんだろう。
さっきから僕は、僕のコーヒーカップに桜の花びらが落ちてくれればいいのにと願っていた。
それをきっかけに、君が笑ってくれれば、また話が出来るかも知れない。
でも意地の悪い事に、何百と舞い落ちる花びらは僕のカップを避けている。
そんな時、君が沈黙を破った。
「あのね。わたし。無口な人が好きだよ」
もやもやがサイダーの泡のようにシュワ~っと消えた。
君の笑顔に涙が出そうだった。

その時、僕のコーヒーカップに桜の花びらが落ちた。


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死ぬのなら、桜の木の下がよかったと思う。
それもたくさんの花びらが盛んに散っている大きな桜の下だ。
殆ど風はないけれど、すでに散る時期が来てしまった桜の木。
無数の花びらが枝を離れ。
無数の花びらが降り注ぎ。
無数の花びらが私の死体を美しく覆い隠してくれるだろう。
血だらけの見るに堪えない無残な私の身体をそっと包んでくれるだろう。
こんもりと盛り上がった桜の花びらの下に死体が埋まっているとは誰も思いもしないだろう。

それが、何という事だ。
本当の私はと言うと道路の真ん中に横たわっているのだ。
そして、もう何台もの車に繰り返し繰り返し轢かれ、すでに人間の姿をしていない。


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長い年月、手入れもされず放置され、雑草に覆われた公園の跡。
金網のフェンスもすでに錆びて雑草の間に傾いている。
ブランコの支柱もまた赤く錆び、ちぎれた鎖の下の木の台座はもうなかった。
立ち入り禁止のために張られていたロープも切れて地面に長く伸びている。
私はその中へ足を踏み入れた。
公園跡のほぼ中央に、枯れて久しい桜の木がある。
いまはちょうど桜の満開の季節だ。
なのにその木は、いつかの台風で太い幹が折れ、背が低くなってしまっていた。
折れ残った幹には大きなうろが出来、そこに雑草が生えているのが却って無残だった。
私は、子どもの頃にはこの公園に毎年家族と花見に来たのを思い出していた。
青空を覆い隠してしまうほどの桜の花。
母と父の笑顔。
歓声を上げる兄弟たち。
粗末だったけれどとびきりおいしかった弁当の味。
それを思うと、今の自分が信じられなかった。
家族はすでになく、私は独り取り残されてしまっていた。

その木の下に座ってみた。
伸びた雑草に体が埋もれてしまいそうだった。
そっと目を閉じた。
するとその時、不意に目の前に女の子が現れ、無言でピンクの飴をくれた。
戸惑いながらも、包み紙を取り、口に入れた。
すると、一瞬にしてあたりは満開の桜だ。
そして懐かしい家族の顔もそこにあった。
あの女の子は誰だろう。
そう、それはあの日、一緒にお花見をした近所の家の子供だった。
名前は……思い出せなかった。
あの時もこのピンクの飴をくれたんだ。
私だけに。
ふと、私は自分が目をまだ閉じているのに気が付いた。
ずっと目を閉じたままだったのだ。
そっと開いてみる。
いつの間にかの夕焼け空の下に、雑草の公園跡がただ広がっていた。



おわり



ちょっと季節はずれかな?
まあ、まだまだ桜はこれからだよと言う地方もあるでしょうね。
最近書いた、桜の花をテーマにしたツイノべが七つほどあったので、そのうち五つを書きのばしてみました。

写真はフリー写真の『ぱくたそ』さんです。


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by marinegumi | 2016-04-18 00:57 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

小さな郵便局 (2枚)

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小さな町の郵便局は、かわいい赤いとんがり屋根の建物だ。
それはなぜか町の中心から少し離れた森の入口にある。
自動扉の横には色とりどりの草花に埋もれるようにして三つのポストがあった。
左から青いポスト、赤いポスト、白いポスト。
青いポストにはこう書かれていた。
「淋しい、悲しい気持ちで書いた手紙はこちらへ投函」
赤いポストにはこう書かれていた。
「嬉しい、楽しい気持ちで書いた手紙はこちらに投函」
そして白いポストにはこう書かれていた。
「事務的な御用事の手紙はこちらへ投函」

ある日私は恋をした。
わくわくするような、でも泣きたいような気持だった。
楽しいようでいて、なんだか不安な気持ちだった。
自分でもよく解らないそんな気持ちでラブレターを書いた。
ちいさな郵便局に自転車で向かっている間、この手紙はどのポストに入れたらいいのかと、ずっと迷っていた。
自転車を降りてポストの前。
季節の草花に埋もれるようにしてポストは置かれていて、それは四つあった。
増えているのはピンクのポストだった。
それにはこう書かれていた。
「まだ不安定な恋をしているあなたの手紙はこちらに投函」



おわり




何か小説を書こうかなと思えば、最近のツイッター小説をごそごそ。
物になりそうなのを引っ張り出して気の向くままに肉付けをして出来上がり。

ブログ「ゆっくり生きる」の、はるさんが朗読してくださいました。


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by marinegumi | 2016-04-15 23:57 | 掌編小説(新作) | Comments(4)

屋根裏部屋 (2枚)

空見の日(おくればせwww)
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3月21日はもぐらさんの提唱する「空見の日」でした。

年に一度、空を眺める日です。
みんなで空の写真を撮って、ブログにアップします。
空って、世界中につながっていますから。
                 りんさんの受け売り(笑)

もぐらさん 「2016年空見の日
りんさん 「桃色ノ空
はるさん 「空見の日
3月17日に書いたこの掌編小説が偶然空に関する物だったので、急きょ乗っかっています。
上の写真は今日、3月25日のわが町の空です。
青空も大きい代わりに雲も大きなものがたくさん浮かんでいます。
写真は爽やかな感じですが、実際は青空と雲がせめぎ合っているようなダイナミックな空です。




屋根裏部屋

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ぼくの部屋は屋根裏部屋だ。
ベッドの真上に天窓が見える。
ぼくはその天窓のガラスを通して青空を見た記憶がなかった。
そう、昼間はただ白っぽかったり灰色だったりするだけで夜には真っ暗になる。
いつも色彩のない空を見ているだけだ。
そしていつからかずっと雨が降り続いている。
天窓のガラスの上を毎日雨が流れていくのを見ている。
ガラスが分厚いからだろうか、雨の音はかすかにしか聞こえない。
時には弱く、時には激しく雨が降り、降り続ける。
そんなモノクロの窓に一度だけ美しい色彩を見た。
赤く紅葉したカエデの葉っぱがくっついたのだ。
ベッドに寝転がって雨の流れるのを見ていたぼくは、はっとした。
まるで温かい炎ででもあるかのようなオレンジ色の葉だった。
それを見てぼくはその温かさを自分の中に一瞬感じた。
そう、そのカエデの葉はすぐに雨に流されて見えなくなってしまったのだ。
それでぼくは気がついた。
部屋は決して寒くはなかったけれど、心が冷え切ってしまっていたんだと。

雨はそれからもずっと降り続いていた。
あの時から天窓には一度も鮮やかな色を見ることはなかった。

ある日ぼくはガラスの上を雨が流れていないことに気がついた。
天窓の外は何やら薄青く、明るくなったり暗くなったりをくりかえしているのだ。
そしてそこを小さな影が横切った。
鮮やかな青い小さないくつもの影が。
魚だった。
小さな魚の群れだった。
そうなんだ。
雨はそんなにも長い間降り続き、今も降り続いているのだ。



おわり



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by marinegumi | 2016-03-19 17:54 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

一枚の葉っぱ (3枚)

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気がつくとぼくは一枚の葉っぱでした。
大きな木の枝に頼りなくくっついている葉っぱだったのです。
もう体はだいぶ紅葉して来ているようです。
あちこち虫に食われてもいるのです。
ぼくは、ぼくたちは大きな木の小さなたくさんの葉っぱだったようです。
ぼくの意識が目覚めた時には、ほかにもまだ5~6枚の兄弟が残っていました。
でも、それから数日で、その兄弟たちはみんな旅立ちました。
木から離れ、地面に落ち、車のタイヤや人の足に踏まれ、木枯らしにもてあそばれ、やがて粉々になってしまいました。
そして最後には土に還ってしまうのですね。
今はもうこの木に残っているのはぼくだけになりました。
ぼくもきっと兄弟たちと同じ運命をたどるのでしょう。
短い命でした。
一つもいいことのない一生でした。
一つも意味を見いだせない一生でした。
なにも成しとげられずに終わってしまうなんて。
そ、そんなのいやだ~!

あれから数か月が過ぎました。
ぼくはまだ生きているではありませんか。
なんと、ぼくは壁に描かれた枯葉の絵だったのです。
大きな木のそばのレンガの壁に、あたかもその木の最後の一葉のように描かれた絵だったのです。
誰が描いてくれたのかは分かりませんが、ぼくの意識は、ぼくが描かれたときに目覚めたのでしょう。
そうなんです。
ぼくが兄弟たちと一緒に芽生え、一緒に成長した記憶が全然なかったのもそのせいだったのです。
ふう。
なんとか命をながらえたようです。
秋がすぎ、今は夏。
大きな木はまたたくさんの緑の葉をつけています。
ぼくの兄弟ではなかったたくさんの葉っぱたちに、今では何となく親近感を覚えます。
お前たちの命はせいぜい半年なんだよと教えてやりたくなります。
今のうちに生きている喜びをかみしめておくんだぞと。

ぼくは今、虫食いの紅葉の姿のままで、毎日強い日差しにさらされています。
ときおり強い雨にたたかれます。
そしてある日、なんだか自分の体の色が薄くなってきているのに気がつきました。
あと数年もすれば太陽の光や風雨にさらされて、だんだん色あせて行くのでしょう。
そしていつかは消えてしまうのですね。
そ、そんなのいやだ~!




おわり




これはUSBメモリに埋もれていた作品です。
書きかけのまま放置していたものです。
書き直しているうちにいろいろ矛盾が出て来て、それをことごとく修正して出来上がりました。

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by marinegumi | 2016-03-16 00:28 | 掌編小説(新作) | Comments(2)

はるさんが朗読の動画にしてくださいました。


その1 ブランコ

雨の公園で濡れるのもかまわずにブランコに乗っていた。
誰にも会いたくなくて、ゆらりゆらりとゆられている。
なんどもなんどもくりかえす。
弱く強く、またゆるやかに。
まるでカノンだね。
パッフェルベルの「カノン」だ。
あの優しいメロディーがどこかから聞こえるような気がした。
ただ優しく、同じメロディーをなんどもなんどもくりかえす。
ただくりかえすだけじゃない。
くりかえすたびにそのメロディーは違う表情をみせてくれる。
いつまでも聞いていたい。
いつまでもゆられていたい。
あたたかい雨に包まれて雨のカノンを聞いている。

でもやっぱり気がついてしまう。
わたしはこうやって雨に濡れながら。
ブランコにゆられながら。
カノンのメロディーに浸りながら待っているんだと。
ブランコの後ろから聞こえる誰かの足音を。



その2 ビニール傘

そろそろこの部屋の窓の外を、クラブ帰りの君が通る時間。
泥だらけになったユニフォームが入ったカバンを肩にかけて。
雨だからあの大きなビニール傘をさしているはずだ。
君がもうすぐあの道をやってくる。

わたしはピアノを弾きはじめる。
君のために。
明日には転校してしまう君のために、君の好きだったこの曲を。
パッフェルベルの「カノン」だよ。
同じメロディーが表情を変え、音色を変えしながら繰り返す。
この曲って君とわたしの過ごした短い時間のようだね。
同じメロディーが複雑にからみあい、また単純なメロディーで繰り返す。
君の姿が雨の街角に小さく見える。
そしてだんだん大きくなる。
わたしは涙を流しながらカノンを弾き続ける。
君にこの音色が届くよう。
そして君がこの窓を見上げてくれるよう。
雨のしずくが流れる透明な傘を通して、君と目が合えばどんなにいいだろう。

君はそのまま窓の下を通り過ぎる。
その足取りを緩めることもなく。
わたしはカノンを弾き終わり、電子ピアノのヘッドホンを外す。
アパートの部屋ではピアノの音が出せない。



おわり



ツイッター小説で一番たくさん書いたのは、タグ「#秋雨のカノン」じゃないかと思います。
その中から二編を長くしてみました。

はるさんのブログはこちらゆっくり生きる

はるさんの朗読を聞きながら、しっとり、ウルウルしていました。
雰囲気のあるとても好きな朗読になりました。

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by marinegumi | 2016-02-20 15:20 | 掌編小説(新作) | Comments(5)

こわいゆめ (1枚)

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こわいゆめからさめたとき、ぼくはあせびっしょりだった。
まだしんぞうがドキドキと、きもちわるいほどにはやくおおきくうっていた。
とけいをみるとまだまよなかだった。
きゅうにこころぼそくなって、ぼくはママをさがした。
あのこわいゆめのことをはなして、なぐさめてほしかったんだ。
ママのしんしつはドアがひらいたままで、ベッドにはだれもいなかった。
かいだんをおりて明かりがついているだいどころに行った。
テーブルの横にママが血だらけで倒れていた。
それはあの恐い夢と一緒の場面だった。
一緒だったのでかえって驚きはしなかった。
やがてすっかり記憶がよみがえった。
俺はもう大人になっている。
口うるさい、文句ばかり言うお袋を殺したのは俺だったのだ。
死んだばかりの様に見えていたお袋は、元の姿に戻った。
ドレスを着た白骨死体。
それが今のお前の本当の姿だ。




おわり



この作品を、ブログ「ゆっくり生きる」のはるさんが朗読してくださいました。
いつもありがとうございます。



イメージとしては、声が子供の物から大人に、徐々に変化した方がいいかなと思っていたのですが、このいきなり変わると言うのも迫力があっていいですね。
ドキッとしました。

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by marinegumi | 2016-02-08 17:12 | 掌編小説(新作) | Comments(4)